表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/92

【第5章 第13話】次の街へ

朝。

ぼくらは川沿いの桟橋で、小さな荷を三つにまとめた。

公開箱、読み札、そして合図キット(鈴と小灯)。——この三つがあれば、型は運べる。


端末《通知:下流区より依頼——《共通印》の出張運用/立会:代理長室/刻限:今夕》


「いまだけ」

セレネが指を重ねる。《命響リリンク》が温かく繋がって、胸の圧が半拍ぶん軽くなる。

ノアが頷く。『seed-01/02は持った。向こうでseed-03を起こして冗長化する』


小舟が橋脚の影をくぐる。

(はじめて“刈り取り”を見た場所——橋脚下。今は静かだ。止めて、結んで、返すを重ねた跡が、きちんと残っている)


下流区・受け口前


桟橋には三人が待っていた。

区の書記、露店の代表、そして合図係になりたいという少女。

灰のスーツの代理長は同行せず、封蝋つきの書面だけが届いている。


《共同公開の原則:再確認》

・観測は見える/記録は改ざん不可/介入は宣言

・名に依存しない(通るのは印名)

・二で開示、三は踏まない


ぼくは読み札を掲げ、短く言う。

「やることは三つ。止めて、結んで、返す。二で通して、三は踏まない」


設営(最小の発火点)


公開箱を長机に固定し、看板を三行で貼る。


《共通印》で開きます。

人の名前はいりません。

“証(見たこと)”と“時間いつ”の二つで通れます。


セレネが少女に合図キットを渡す。

「初鈴/一鈴一灯/終鈴。鈴=数える、灯=休む。分からなければ声で伝えて」


ノアが小声で告げる。『seed-03を起こす。記録井に触れず、周縁だけ使うね』


ぼくは鍵を半回転。

「《結時むすびどき》——配給↔受け口(下流区・発火点)」

「《証印》——seed-03を刻限と結ぶ(二で開示)」


端末《接続:安定/seed-03:生成→有効/観測摩耗:0》


初鈴が鳴り、列が短く動く。一鈴一灯、足元に音跡が一拍。

(いい。最初の呼吸は合っている)


乱れ:看板ぬき


——七拍目。

風に乗って、角の看板が一枚、ふっと抜ける。

同時に、通りの奥で無音の鈴が一度だけ揺れた。無名の手癖——看板を抜いて合図を乱すやり口だ。


『来た。**最初と最後の“あいだ”じゃなく、今日は“入口”**を狙う』ノア。


「止めてから、結ぶ」

ぼくは路面に言葉の膜を薄く張る。

「《宣言》——看板が無くても、合図で通る」

「《印付け》——読み札(音)」——看板の文を短い口上にして、初鈴と同時に流す。


口上(短)

名は要らない。印名で通る。

鈴は数える、灯は休む。

二で通して、三は踏まない。


端末《看板抜き:効果低下/口上:有効/入口:可視》

少女の声が澄んでいて、列の肩がすっと落ちる。

(文字が抜かれても、声で補える)


乱れ:印名のかすり取り


——十拍目。

端末《異常:印名“流用”の箱→混入(微)/指紋:欠落》


「箱は“seed+刻限”で見分ける」

ぼくは証印で指紋を押し、偽箱を開示不能にする。

「《封鎖・判定》——通る側に旗」


端末《偽箱:無効/正規箱:継続/苦情:なし》


乱れ:合間の針


——十三拍目。

端末《合間“影針”検出(無音)/拍線:未設》


(まだ貼っていない)

「《印付け》——間灯/拍線」

合間に薄い灯、拍に細い線。数えない合図で呼吸を見える化。


端末《影針:足場喪失/列:安定》


セレネが少女の横で頷く。「灯は休む。鈴で一歩。——声で繰り返して」


少女が大きく息を吸い、短く口上を重ねる。

声は看板より早く広がり、拍線の上を滑っていった。


終わり方の確認


——二十九拍目。

ぼくは終鈴を二層で鳴らす。チ、チン。終灯が一瞬。

足元に二拍の音跡が帯を作り、くぐりは帯で止まった。


端末《刻限:30確定/開示:終了/固定:未実行》

《結果:看板ぬき→口上で補完/偽箱→指紋で排除/合間針→間灯+拍線で無効》


区の書記がほっと息をついた。

「文字に頼りきりだった。声の看板、いいですね」


「見える/聞こえるを両方にしておく」ノアが微笑む。『公開箱には数字と口上の録音を残す』


少女が鈴を胸の前で抱え、照れた顔で言う。

「合図係、続けたい。届いたって言われるの、うれしい」


セレネがうなずく。「届いた証は合図点になるよ。日給に変わる」


端末《合図点:発行/日給:小口→支払》


そこへ、橋の影から黒外套が現れた。グラム。

今日は刃を見せない。

彼は路面の拍線と二重の結び、そして口上に目を落とし、短く言う。


「刺す手ではなく、縫う手で来たな」

「切らずに結ぶほうが、速いから」ぼくは答える。


グラムはうなずき、踵を返す前に一言だけ置いた。

「無名は、“声の看板”にも無音で刺す。音跡を二拍、忘れるな」


(覚えてる。初鈴と終鈴、そして口上にも音跡を結ぶ)


ぼくは公開箱に今日のまとめを入れる。


今日のまとめ(下流区・発火)

・seed-03 起動(二止め)

・看板ぬき→口上(音)で補完

・偽箱→指紋(seed+刻限)で排除

・合間針→間灯+拍線で無効化

・終鈴二層→くぐりを遮断

・合図係=仕事(合図点→日給)


端末《公開:完了/閲覧:自由/改ざん:不可/未清算:ゼロ》


夕暮れ。

川霧がほどけ、初鈴が遠くでもう一度だけ鳴る。

下流区の通りに拍線が細く伸び、灯が短く息をつく。


ぼくは継承鍵を握り直した。温度は変わらない。

手の中の重みは、もう名ではなく、やることの形をしている。


「行こう。二で通して、三は踏まない。

止めて、結んで、返す。声でも、灯でも、見えるように」


セレネが笑う。「いまだけじゃなく、どこでも同じやり方で」

ノアが頷く。『観測は保つ。次は共同公開の“読み札版”を、短く配る』


第5章、完。

次章、**下流区の“あいだ”**で——無名の無音を、見える言葉でほどいていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ