【第5章 第12話】共通印の発火
朝。川霧が薄い。
ぼくらは広場の長机に、読み札と公開箱、合図キット(鈴と小灯)を並べた。
今日から——共通印を広域で動かす。
看板は短く、はっきり。
《本日 発火》
人の名前はいりません。
やることの名前(印名)と証(見たこと)+時間の二つで通れます。
二で通して、三は踏みません。
初鈴/一鈴一灯/終鈴。合間は間灯が合図です。
ノアが端末を開く。
端末《発火対象:β+γ+市場通り+商店街口/seed=01・02/公開:ON/観測摩耗:遮断》
『二で開示、**三(固定)**は閉めたまま。表裏結びは全域に展開済み』
「いまだけ」
セレネが指を重ねる。《命響》が繋がり、胸の圧が半拍ぶん軽くなる。
ぼくは継承鍵を半回転。
「《結時》——配給↔受け口(広域)」
端末《接続:安定/請求:標準/緩衝路:ON》
初鈴。広場だけでなく、四つ角でもチリン。
一鈴一灯が順に灯り、足元に音跡がきれいに残る。
(行ける——言葉と合図で、広く)
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1. 合間への刺し込み
——十拍目。
端末《異常:合間“影針”検出(商店街口)/音:無音/灯:微残》
(無名……最初と最後のあいだ、合間を狙ってきた)
影は鈴と鈴の中間に無音の針を立て、列に抜け道を作ろうとしている。
「見えるようにすればいい」
ぼくは路面に印を足す。
「《印付け》——間灯 強化/拍線」
合間に薄い灯を一瞬置き、拍の区切りに細い線を引く。
拍線は数えない合図。呼吸だけ見せる。
端末《間灯:有効/拍線:表示/無音針:足場喪失》
無音の針は線の外に弾かれ、路地の端へ流れた。
セレネが合図係へ手を振る。「鈴、一拍遅らせ——呼吸合わせます」
列が深呼吸みたいに揃い、音跡が乱れず続いた。
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2. 端同時“+1刻”
——十五拍目。
端末《異常:端区画で同時+1刻の試み(小×3)/狙い=連鎖で三へ》
(同時多発の小さな+1で三(固定)へ押し込むつもり)
ぼくは針へ触れ、低く言う。
「《結時》——刻限・表裏結び(広域)」
表で増えても、裏で跳ね返る。跳ね返りは音跡に薄い筋で残す。
端末《+1刻:反発消去(3箇所)/観測:公開/摩耗:0》
ミリィが公開箱にメモを入れる。
《連鎖+1→反発、確認。改ざん痕なし》
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3. “印名の横取り”
——十八拍目。
端末《異常:印名“かすり取り”検出(市場通り南)/同名IDの偽箱》
(印名そのものを横取りして、箱をすり替える手……)
ぼくは看板を一枚足す。
印名について
同じ印名でも独占できません。
seed(最初の証)+刻限で箱を識別します。
箱は公開箱で見えます。
「《証印》——seed+刻限の指紋」
箱ごとにseedと刻限の指紋を押す。同名でも、指紋が違えば別。
偽箱は指紋なしで、開示不能。
端末《偽箱:中身なし判定→無効/正規箱:継続》
代理長が頷く。「独占なし・公開あり——よい」
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4. 人の側の混み合い
——二十二拍目。
端末《負荷:高齢者帯→時間酔い前兆(北側)/合間:短すぎ》
(飛ばしは最後の手。ほぐす)
「《結時》——拍ほぐし/余拍箱(小)」
合間を半拍だけ広げ、こぼれたズレは余拍箱に集め、刻限後に配給へ返送。
端末《酔い:回避/余拍:回収→返送予約》
セレネがゆっくり伴走する。「灯、見て一歩ずつ」
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5. 広域の終わり方
——二十九拍目。
端末《異常:広場西で“終鈴の偽”/合間隠し》
ぼくは短く告げる。
「終鈴・二層」
チ、チン——終鈴が二度、全域で同期して鳴り、終灯が一瞬点る。
二拍の音跡が帯を作り、くぐりは帯で止まる。
端末《くぐり:遮断/取りこぼし:なし/終帯:可視》
——三十拍目、確定。
端末《刻限:満了/開示:終了/固定:未実行/余拍:返送完了》
《結果:合間針→失敗/連鎖+1→反発/偽箱→無効/観測:公開継続》
広域に拍手が走る。
合図係の少年が照れて鈴を掲げ、一鈴で礼を返す。
借り印は回収箱に落ち、合図点の表で日給へ変わっていく。
ミリィが白衣の袖を直し、淡々と言った。
「発火、合格。二で回るのを公開で証明した。
課題は合間の説明を、もっと短くすること」
ノアが即座に読み札を更新する。
合間の説明(さらに短く)
鈴=数える/灯=休む。
線は道しるべ。数えません。
代理長は公開箱へ一枚、札を落とす。
《他地区での試行を要請。立会・代理長》
(来た。次の街)
グラムは人波の端で足を止め、路面の拍線と結びをひと目だけ見て、言う。
「切らずに結んだ。名ではなく働きで回した。
——この型は、運べる」
セレネがぼくの手を握る。
「いまだけじゃなく、次の街でも同じ看板で行けるね」
ぼくは継承鍵を握り直す。温度は変わらない。
手の重さは、名ではなくやることの形で軽い。
公開箱に今日のまとめを入れる。
今日のまとめ
・広域発火:成功(二止め/三なし)
・合間針:間灯+拍線で無効化
・連鎖+1:表裏結びで反発
・偽箱:seed+刻限の指紋で排除
・合図点:運用(合図=仕事)/信用印:継続
端末《公開:完了/閲覧:自由/改ざん:不可》
《通知:隣街“下流区”より打診——共通印の出張》
ノアが微笑む。『観測は保つ。看板の言葉も持っていこう』
「行こう」
二で通して、三は踏まない。
止めて、結んで、返す。
次は——次の街へ。




