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【第5章 第9話】共同宣言

昼。広場の真ん中、公開箱の前に長机を出した。

箱の窓には、昨日までの音跡と灯跡、刻限の跳ね返り、借り印の回収量が並んでいる。

今日はここで、都市とぼくらの共同公開を始める。


看板は短く、はっきり。


《共同公開》

・観測は見える(音跡/灯跡/箱)

・記録は改ざん不可(証印)

・介入は宣言(声+札)


人垣ができはじめたころ、灰のスーツの男が現れた。テンペスト代理長だ。

胸の徽章を外し、見える場所に置く——武器なしの合図。

白衣のミリィも並ぶ。今日は管も外し、記録役だ。


ノアが箱の脇に立ち、手短に言う。

『二で通して、三は踏まない。名は使わず、印名で流します。

合図は初鈴/一鈴一灯/終鈴。合間は緩衝路でほぐします』


「いまだけ」

セレネがぼくの指に触れる。《命響リリンク》が繋がり、胸の圧が半拍ぶん軽くなる。


ぼくは継承鍵を半回転。

「《結時むすびどき》——公開箱↔配給(広場系)」

線と線を結ぶ。切らない。奪わない。ただ“手をつなぐ”。


端末《公開箱:接続/観測:公開/摩耗:遮断》



1. 立会いと差異


初鈴が鳴り、列が動く。一鈴一灯/音跡が整っていく。

代理長側の測定盤と、こちらの公開箱の通過数が並行で進む——はずだった。


——七拍目。

端末《差異:+1(代理盤)/該当区画=北口・合間》


ミリィが眉を上げる。「合間で一人分、先行している」

(来た。**合間インターバル**の見え方のずれ)


ノアが箱を指す。『合間を見える化するよ』


「《印付け》——間灯まび

鈴と鈴のあいだに、薄い灯を一瞬だけ置く。

間灯は拍の呼吸。通過には数えないが、合間を示す印になる。


端末《間灯:有効/数え:非対象/合間:可視化》


セレネが看板に一行足す。


合間のしるし=間灯

灯は「呼吸」。数えません。

鈴だけ数えます。


代理長が無言で頷き、測定盤の合間補正を落とす。

差異が消え、数字が同じ列に戻った。



2. 名の混入の公開


人垣の後ろで、借り印がひっそり配られる。

セレネがすぐ回収箱を前へ出し、笑顔で言う。

「ここに入れてくれたら、減りません。

人の名ではなく、やることの名前で通ります」


ぼくは底の裏配線に指を置く。

「《封鎖》——固定回路」→「《結時》——回収→帳(仮)」

名の固定はゼロ、責任は粒にして帳へ送る。


端末《借り印:回収→粒化→帳(仮)/名負担:ゼロ》


ミリィが公開箱へ立会メモを入れる。


《観測:借り印→帳(仮)/固定なし》

《差異:なし》


人垣の一人が手を挙げる。「減らないって本当?」

ノアが箱の窓を指す。『今日の回収と通過数、一致してる。減ってないよ』

数字は言葉に添えられ、見やすい。



3. 刻限の試験(公開版)


ミリィが筒を軽く弾き、+1刻の試みを公開でやる。

ぼくは刻限・表裏結びを触れて示す。

「表だけ増えても、裏で戻る。跳ね返りは音跡に残す」


端末《+1刻:反発消去/音跡:跳ね返り表示》

路面に薄い筋がぴっと走り、観衆から小さな声が漏れた。


「終鈴は?」と誰か。

「二度鳴ります。終帯が出たら、今日はおしまい」

セレネが優しく手を上げ、終鈴のデモをする。

チ、チン。終灯が一瞬だけ点り、足元に二拍の音跡が残る。


看板がもう一枚、増える。


終わりのルール(公開)

・**終鈴(二回)+終灯(一瞬)**が合図。

・終鈴のあとは進みません。

・偽の終鈴は無効(二拍の音跡がないため)。


代理長は静かに言う。

「共同公開の下で、違反時は記録で裁く。三(固定)は使わない」

その言葉も公開箱に落ち、証印が押される。


端末《宣言:受理/裁定=記録優先/固定=不使用》



4. 共同宣言


ぼくは机に三つの札を並べ、声に出す。

「共同宣言——短く、三つ」

1.名に依存しない。通るのは印名(やることの名前)。

2.二で開示し、三は踏まない。動かせる道を保つ。

3.観測は公開/改ざん不可/介入は宣言。記録で裁く。


セレネが札の縁を指でなぞり、読み札版を人々に渡す。

ノアは公開箱へ同じ文を収め、誰でも閲覧可に設定。

ミリィはしばらく黙って見て、短く言った。

「署名する。テンペスト技術部・ミリィ」


代理長も札を取り、さらさらと書く。

「受領・代理長。違反は記録で裁定」


端末《共同宣言:成立/立会:市民×多数/閲覧:開放》


拍手が遅れて広がる。

合図係の少年が照れくさそうに鈴を掲げ、一鈴で礼を返した。


そのとき、公開箱の端に小さな差異がまた一つ灯る。

端末《差異:-1(代理盤)/区画=西側・合間》


(また合間……でも、今のは間灯が足りない角だ)

ぼくは継承鍵を軽く回し、間灯の配置を一つ増やす。

「《結時》——間灯・増設」

灯が一呼吸だけ明滅し、数字が揃った。


ミリィが目線だけで笑う。「見せて直す。いいね」



5. 次への合図


人垣の後ろ、黒い外套の影が一瞬だけ止まる。グラムだ。

今日は何も切らない。ただ、結び目の位置を目でなぞる。

(次は来る。結び目そのものを試し切りに)


代理長が外套の気配に気づき、ぼくへ小さく頷いた。

「今日の君は、切らずに結んだ。記録に残った」


セレネがぼくの手を握る。

「いまだけじゃなく、これからも“見せて直す”で行こう」


ノアが公開箱を閉じ、鍵を掛ける。『閲覧は常時。追記は立会つき』


端末《結果:共同公開スタート/差異:解消/配給:安定》

《次手:結び目の“試し切り”対策/結びの二重化(表結び+裏結び)案》


ぼくは継承鍵を握り直した。温度はそのまま、重みは少し透明だ。

言葉と印で結んだ今日を、箱に入れて見えるままにしておく。


「行こう。二で通して、三は踏まない。

明日は——結びを守る手を、見えるやり方で」

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