表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/92

【第4章 第13話】道を直す


経路管制ルート・コントロールは、巨大な地図の部屋だった。

壁一面に、街の配給ルートが光の線で描かれている。

ところどころに黒い枝が生えていた。そこが“増設計画”——余剰を吸い上げる新しい抜け道だ。


端末《状態:配給=混線/増設=準備中/権限:継承鍵(暫定)》


「やることは三つに絞る」ぼくはゆっくり言う。

「一つ、止める。二つ、結ぶ。三つ、返す。——難しい式は使わない」


「いまだけ」

セレネが指を重ねる。《命響リリンク》が繋がった。胸の重さが半拍ぶん軽くなる。

ノアが続ける。『観測は私が持つ。説明も逐一入れるね』


1. 止める


「《封鎖》——請求」

まず、“吸い上げる請求”だけを凍らせる。

画面の黒い枝に薄氷が張り、速度が落ちた。


端末《請求:抑止/摩耗:遮断》


扉が開き、黒外套の影が入ってくる。グラムだ。

彼は何も言わず、床を指でなぞった。

——視界から“継ぎ目”が消える。前に使ってきた《時断》の線も見えない。


『断面を観測ごと消してる。縫い目が見えないから、切る手も噛む手も滑る』ノア。


2. 結ぶ


「見えないなら、結ぶ」

ぼくは鍵を半回転させ、地図の“配給側”と“街の受け口”を、細い結び目でつないだ。

切らず、奪わず、ただ“手をつなぐ”。やることはそれだけだ。


「《結時むすびどき》——配給優先」

セレネが結び目の張力を肩代わりする。掌が白く震えたが、うなずいて笑う。

「大丈夫。いまだけは、持てる」


黒い枝がいくつか、すっと萎んだ。


グラムは外套の裾を整え、低く言う。

「名の通路に待ち針を刺したままだ。重みは増える」

——ぼくの“名義線”に、見えない針が触れる。胸の奥で鈍い鈴が鳴った。


(分かってる。刺さった針は、抜くのではなく“置き場所を変える”)


3. 返す


「《通す責任》——名義だけ移す」

ぼくは鍵の小窓を開き、“待ち針”の行き先を鍵の仮名義へ移した。

支払いは粒で——ほんの少しだけ“責任”を削って、移動の通行料にする。

セレネが粒の落下を《命響》で受け止める。


端末《清算:微/待ち針:鍵側へ移設》


その瞬間、部屋の上のガラス歩廊でミリィが管を弾いた。

青い液が一本、渦を強くする。

「時間を少し買うよ。——刻限延長」


地図の片隅で、固定の砂時計がのびる。

ノアが短く言う。『刻限を伸ばして固定に持っていくつもり』


「なら、折る」

ぼくは砂時計の“数え目”に小さな結び目を作り、一つ飛ばす。

「《結時》——刻限結び」

数字が一拍、抜け落ちた。


端末《刻限:短縮/固定:未到達》


グラムの視線がこちらに流れる。

「手をつなぎ、印を押し、針を持ち歩く。お前の“名”は通路そのものだ。覚えられる」


「覚えられていいよ。通した責任は、隠さない」

ぼくは地図の最後の黒枝に手を置く。

「仕上げだ。ひとつずつ返す」


配給から外れていた分岐を、結び直して正規ルートへ戻す。

やることは、三拍のリズムだけ。


一拍目、《封鎖》で吸い上げを止める。

二拍目、《結時》で配給へ結び直す。

三拍目、《封鎖・判定》で「通る側」に旗を倒す。


——単純に、繰り返す。

説明できるやり方で、誰が見ても同じ結果になるやり方で。


地図の黒は薄れ、街の線が息を吹き返す。

露店の灯りが少し明るくなり、人のざわめきが戻ってきた。


端末《結果:増設計画=停止/配給=安定/未清算:1 継続(鍵側)》


ミリィは手すりにもたれ、肩をすくめる。

「きれいに直すね。……でも、針は持っていくんだ」

彼女は踵を返し、歩廊の奥へ消えた。


グラムは出口で立ち止まり、短く告げる。

「次は、“針を刺す手”の方を切る。——準備しておけ」

外套が揺れ、影は夜へ溶けた。


静けさのあと、ノアがゆっくり言う。

『説明どおり、三つで通した。止めて、結んで、返した。……いい手順だったよ』


セレネが力を抜き、壁にもたれる。

「ふう……いまだけを、ちゃんと使えたね」

指は少し白いままだけど、目は笑っている。


ぼくは鍵を握り直した。

針は鍵の中にある。鈍い鈴が、ときどき鳴る。

(返すべき相手、刺してくる手——次はそこへ行く)


端末《通知:テンペスト本庁より“通告”——交渉の場を指定》

《場所:旧観測塔/刻限:明夜》


ノアが息を呑む。『旧観測塔……私の“記録”が作られた施設』


セレネが立ち上がり、ぼくの手を握る。

「行こう。むずかしい話は分かる言葉で、ちゃんと勝つ」


「うん。

止めて、結んで、返す。——その順番で」


部屋の地図がゆっくりと暗くなり、街の灯りが遠くでまたたく。

ぼくらは扉へ向かった。

第4章、完。 明夜、旧観測塔で——“針を刺す手”に会いにいく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ