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【第4章 第4話】門の試問


第二の扉をくぐると、音がさらに薄くなった。

円形の広間。天井は低く、床には環状の溝が二重に刻まれている。

溝の上を、雨もないのに**細い波(=時間の膜)**が周回していた。


「ここが——**ゲート**の場だ」


広間の奥。黒いコートの男が一歩進む。

仮面はない。だが、切り口の質はまぎれもなく同じだ。

——“切る”より先に、“止める”を置く手癖。


「問う。何を通す。誰を通す。いつ通す」


返答の代わりに、足元の環が灯る。二重の環が左右へ割れ、二枚の扉が姿を見せた。

左は「避難線α:灰街・橋脚下/人員推定42」

右は「記録庫β:観測者断片/保存率32%」


セレネが息を呑む。「……これ、どちらかしか開かないやつだ」

『補足するね。左は市民の“時間供給ルート”(寿命を日配する配線)。右は“観測者の記録”。どちらも切れれば、大きく失われる』

(どっちか選べ、ってことかよ)


男は静かに続ける。

「一門を選べ。片方を通せば、もう片方は切断される」


「選ばない」クロは即答した。

「通すべき者と通すべき瞬間は分かってる。でも、切らせない」


男の瞳がわずかに細くなる。「……ならば試問」


天井から黒い梁が数本、すべるように降りた。

刃ではないのに、梁の縁を境に空気と音が二枚に割れる。

(触れた瞬間、“動き”が落とされる——次の刃に間に合わなくなるやつ)


「クロ」

「いまだけ」


セレネの指先が手の甲に触れる。

命響リリンク》が細く繋がり、胸の奥の負荷が半拍ぶん軽くなる。接触中のみ負荷分担——短い助走。


左の扉、上部の表示にカウントが立ち上がった。

【切断まで 00:00:30】

同時に右の扉には【保存率 32→29%】の落下表示。

(同時進行で急かすか。悪趣味だな)


「ノア、配線図!」

『投影する。——左は供給幹線へ直通。右は断片の保管層へ。扉前の認証盤=寿命署名が共通のハブになってる』


「なら、止めるのは一つでいい」


クロは中央の床、二重環の継ぎ目へ膝を落とし、指を添えた。

「《時蝕・封鎖》——点」


——流れの芯だけを断つ。

広間全体を巡っていた見えないタイマーが、コトリと転げ落ちるように止まった。

左の30秒が凍り、右の保存率の落下が水平に寝る。


男の視線が、わずかに動いた。「芯を見抜くか」


「でも、止めっぱなしは無理」セレネが静かに言う。

『そう。封鎖は持続させるほどリングの熱暴走が近づく。刻限を切らない前提なら、手早い通過が必要』


クロは頷き、二枚の扉の基部へ視線を走らせた。

(どっちも“寿命署名”が鍵穴。だったら——)


「左は直接通す。右は鍵穴ごとずらす」


「いまだけ」

同期が深まる。心拍が合う。


クロは左扉の認証盤に指を置く。

「《時蝕・封鎖》——一拍」

請求の進みだけを切り、認証の脈は生かす。

盤面の数字はゼロのまま、通過フラグだけが立った。左扉、開放。


同時に右へ半身を切り、床の環へ斜めに指を滑らせる。

「《斬時・クロノブレイク》!」


扉へ繋がる短い導線(=位相の縫い目)だけを斜め断ち。

鍵穴の“場所”が半歩ぶん横滑りし、扉の向こう側へ抜けた。

(鍵穴ごとずらせば、ここから認証せずに保存層へ“通す”)


『いける……! 右の落下、完全停止。保存率維持!』

「左、通過者設定——全件だ」


左扉の先で、供給幹線のゲートが一斉開。

灰街・橋脚下の避難線に、滞っていた日配(寿命配給)が戻る。

※この世界では、日々の“延命”が通貨決済で配られる。止まれば、それだけで死者が出る。


「——通した」


梁が一度、低く震え、頭上で止まった。

男の足音が、こちらへ同位相で落ちてくる。


「選び方は正解。奪わずに通す。さらに、鍵穴ごと通す発想——面白い」


クロは肩で息を整えながら、首だけで返す。

「“門は奪うために在らず。通すべき者と瞬間を選ぶために在る”……そういうことだろ」


男の口角が、ほんの僅かだけ動いた。

「……一印可」


広間の天井で、見えない印章が押される音がした。

床の二重環は光を失い、梁は天井に収納されていく。


その時——


『クロ、警告。左の幹線、戻りの末端で刈り取り反応! 誰かが配給に割り込みをかけてる!』

「仮面の男?」

『コードは近いけど別個体。……“弟子”の手付き』


男は何も答えない。ただ、視線だけが少しだけ向こうを示した。

——次の扉の先だ。


「行かせるのか?」

「門は“通す”ために在る。通す者を見極めた以上、道を閉じない」


(それでも——守るのは俺だ)


クロはセレネの手を探す。

「いまだけ」

「うん。鍵を掴むまで」


ノアが小さく笑う声がした。

『……ありがとう。じゃあ、案内を続けるね。次は“管理核”。門番の本当の領域だよ』


男が横に一歩、退いた。

通路が一本、まっすぐに延びる。


「通れ。その先で——もう一度、問う」


クロは頷き、リングを握り直した。

刻限はまだ切らない。切るのは、鍵を掴む瞬間だけ。


灰色の灯が細く重なり、二人の影が長くのびる。

次の扉へ。管理核へ。

“通した責任”を、取りに行くために。

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