【第3章 第13話】決意の灯、未来への扉(9/16 修正版)
時刻鉱山群へ続く廃線跡は、朝焼けの薄橙に濡れていた。
レールは所々で途切れ、枕木の影が細く伸びる。風は冷たく、遠くで崩落の音が一度だけ響く。
「……静かだな」
「うん。でも、嫌な静けさ」
クロのリングが微かに震え、《観測者の記録:断片004——継承とは、託すこと》の文字が消えた。
かわりに赤いラインが一瞬だけ北を指す。(“選ばれる”じゃなく“託される”。なら、俺の刻限は——)
空気がひと拍ずれた。
凪いだ景色の表面に、墨を垂らしたような影が差す。
「ようやく来たか、“時蝕の継承者”」
仮面の男が、岩陰から光の外へ歩み出る。
仮面は映る線を半歩ずらし、世界をわずかに遅らせて見せた。
「ノアの“断片”を集めているようだな。ならば試そう。
その命に、どこまで“継承”の覚悟が宿っているか」
細い指が弧を描く。空間に薄刃が幾重にも生えた——《時空刃》。
「セレネ——」
「いまだけ!」
彼女がクロの手に触れ、短い熱が移る。《命響》が瞬接続。
クロは刃の根へ指先を差し込み、流れだけを摘まむ。
「《時蝕・封鎖》——三拍」
一拍、撚る。二拍、溜める。三拍目で“動き”を断つ。
刃の群れは形を保ったまま、動きだけが凍りついた。
「前より“止め方”が洗練されたな、クロ。奪わずに止める……器用な真似だ」
クロは地を蹴る。
《斬時・クロノブレイク》
空間の縫い目を斜めに断ち、凍った刃の束をまとめて払い落とす。
“時の屑”が火花のように散り、仮面の縁に細い傷が走った——キン、と乾いた音。
男は、満足げに短く息を吐く。
「覚悟は見えた。今は鍵だけ置いていく」
小指の爪ほどの黒い欠片が、空中で回転し、クロの足元に落ちる。
表は滑らか、裏には微細な符号列。触れた指に方向を示す熱が走った。
「王に会いたければ、鍵を持て」
黒い帳がふわりと降り、視界が一呼吸だけ暗転。
戻った時には、男の姿はもうない。
掴めるはずの“接続”は、指一本ぶん外を滑って消えた。
「……逃げた、じゃない」クロは欠片を拾う。「順番を向こうが決めただけだ」
リングが小さく脈打つ。符号は確信を指す。
《クロノハブβ/管理室Ω》——仮面の男が残した“導きの鍵”。
「次は“門番”の縄張りね」セレネが息を整える。
『包囲兆候なし。撤収推奨。刻限の温存に賛成』ノアの声が、リングの底で揺れた。
クロは頷き、欠片を胸ポケットへ落とす。
「生きて辿り着く。……刻限は貯める。切るのは“鍵”を掴む時だ」
セレネが微笑む。「じゃあ、またいまだけ貸すから」
「助かる。返す時は、大きく返す」
二人はレールの上へ並び、東の光を背に歩き出す。
足元の影が重なって——また離れた。
“託された時間”を、誰のために、いつ使うか。
答えは、もう胸の奥に灯っている。
(次章『観測者の遺産』へつづく)




