【第3話】逆刻、発動
「……これって、つまり」
クロは、寿命表示を見つめたまま立ち尽くしていた。
『00:13:12』
さっきよりも3分ほど増えている。
だがその時間も、じりじりと減っていく。
何もせずとも、命は削られていく。
「たった3分……いや、されど3分か」
空腹で痛む腹を押さえながら、クロは歩き出す。
今のうちに、食料を買いに行かなければ——
そのとき、路地の先で叫び声が上がった。
「や、やめろっ! 寿命だけはっ……!」
鋭く反応するクロのリング。
脈動と共に、ノアの声が脳内に響いた。
「寿命を“狩る”者。……クロックバンディットね」
「クロック……?」
「盗賊よ。人の寿命を奪うために襲う連中」
クロは無意識に足を止めた。けれど——
「……見て見ぬふりは、できない」
彼は走り出した。
その先にいたのは、倒れた男と、フードを被った襲撃者。
その手には、黒光りする特殊なライフ吸収器具。
「待てッ!」
クロの叫びに、男が顔を上げた。
「なに、ガキが……」
襲撃者が振り返った刹那、クロのリングが光る。
《時蝕》——!
だが、発動しない。
「……効かない?」
「その相手、防護加工されたリングを装備してる。スキル無効化処理付きね」
ノアの冷静な声。
「じゃあ、どうすれば……!」
クロが焦るその瞬間——
リングが別の輝きを放った。
赤黒い稲妻のような光が、手首を貫く。
《スキル変化確認。第二特性、開放》
《逆刻》
《対象の“寿命消費”を反転し、奪い返す》
「……っ!」
リングから熱が走る。痛みが脳を突き抜けた。
「やばい、リングが熱暴走してる……これは、限界を超えてる証拠——!」
ノアの声が鋭く響く。
「ッ、うおおおおッ!」
クロは拳を握りしめて突っ込んだ。
襲撃者が吸収器具を構えた瞬間、クロがその腕を掴む。
《逆刻、発動》
キィィィィン——!
光が逆流する。
襲撃者のリングから、青白い寿命の光がクロのリングに流れ込む。
「な、なんだ……ッ!? 俺の寿命が、奪われ——ぐあっ!」
襲撃者がその場に崩れ落ちた。
クロのライフリングが更新される。
『00:13:12』→『00:17:51』
「……間違いない。《逆刻》は、“反転のスキル”だ」
ノアが呟く。
「……こんな力が、俺に……」
クロは立ち尽くし、指先を見つめていた。
その手が、誰かを救い、誰かの時間を奪っていた。