【第3章 第8話】観測者ノアの真実
「ノア……お前はいったい、何者なんだ」
影の男の最期の言葉を胸に、クロは天を仰いだ。
空は鈍色の雲に覆われ、微かな光だけが差し込んでいる。
リングに刻まれた《観測者の記録:断片001》。
その情報は——ノアが“元・寿命保持者”だったことを示していた。
「クロ、これ……」
セレネがリングに表示された記録の一部を指さす。
“彼女は寿命の喪失と引き換えに、観測者に選ばれた。”
“彼女はこの世界の“時の歪み”に干渉する資格を持つ——。”
「ノアは……死んだんじゃない。寿命を使い果たして、“観測者”になったんだ」
「観測者って……この世界の“外側”から見る存在……?」
クロは思い出す。あの日、屋根の上から現れたノアの姿を。
銀髪に水色のローブ、どこか人間離れした佇まい。
それでも、確かにあの時、彼女は“人”だった。
「じゃあ、ノアはずっと一人で……世界を見てきたの?」
セレネの瞳が揺れる。
クロは拳を握りしめた。
「それでも……ノアは、俺に関わろうとしてくれた。何かを、託そうとしてる」
リングがわずかに震え、ノアの声が響く。
《クロ。記録を見たのね。……ごめんね、ずっと黙ってて》
《でも……もうすぐ、全てを話す時が来る。》
《“時計塔”で、待ってる》
声は柔らかく、寂しげで、どこか懐かしい響きを帯びていた。
「ノア……」
クロの手のひらに残る、赤いリングの温もり。
それは、彼女が今も“確かに存在している”証だった。
セレネがそっとクロの肩に触れる。
「行こう。ノアに会いに」
「……ああ。真実を、確かめに」
——2人は、次なる目的地“時計塔”へと歩き出した。




