【第3章 第6話】記憶を喰らう者
高台を後にし、クロとセレネは次なる目的地——“時間の断層”へと向かっていた。
そこは、かつて都市同士を繋いでいたハイウェイ跡。
今では、“時の喰い溜まり”と呼ばれる危険地帯となっていた。
「ここには、クロックバンディットの残党が潜んでるって噂もある」
「……どうしてそんな場所に?」
「“記録の書庫”の断片が眠ってるらしい。ノアの痕跡も、残ってるかもしれない」
セレネの言葉に、クロの心がざわついた。
彼女の存在が、何か大きな謎に繋がっている——そんな予感があった。
だが。
「——待って」
足を踏み入れた瞬間、世界が“止まった”。
音が消え、風が凍り、色彩が抜け落ちる。
クロのリングが警告を発した。
『警告:周囲に時間操作系スキルの痕跡を感知。強制制止領域に侵入』
「……まさか、スキル使いがいるのか……!」
すると、空間の奥から、フードを被った人影が現れた。
「ようこそ。“記憶を喰らう者”の領域へ」
その声は、何重にも重なったような、不気味な響きを持っていた。
「君たちの過去——喰わせてもらうよ」
影が手をかざした瞬間、クロの脳裏に強烈な“記憶の断片”が流れ込む。
——両親の顔。
——凍える夜、空腹で座り込んだ路地裏。
——「どうして僕だけ……」と呟いた少年の声。
「くっ……やめろ……!」
クロは膝をつき、額に汗を浮かべる。
だがそのとき——
セレネの叫び声が響いた。
「クロ、私の手を取って!」
反射的にその手を掴むと、リングが共鳴した。
《命響》
セレネの力が、記憶の侵食を和らげていく。
「……お前、何者だ」
クロは立ち上がり、影の男を睨みつけた。
「俺は、“記録の守人”。
そして、“記録の破壊者”でもある」
「矛盾してるだろ、それ」
「記録が完全であってはならない。
真実に近づく者を、排除する。それが、観測者から命じられた役割だから」
クロは息を呑む。
「観測者……? それって、まさか——」
影が微笑んだように見えた。
「さあ、君の“最も大切な記憶”、差し出してもらおうか」
次の瞬間、世界がまた歪んだ。
記憶を巡る戦いが、始まろうとしていた。




