【第3章 第3話】死を知らぬ楽園
街の中心には、大きな時計塔があった。
だが、その針は“12時”を指したまま、微動だにしていない。
クロとセレネは、静まり返った通りを抜け、塔の下にたどり着いた。
「時間の中心……かもしれないな」
クロがつぶやき、塔の扉を押す。
そこは図書館のような作りで、本棚がずらりと並んでいた。
そして奥の壁には、無数の“日記帳”が整然と並んでいた。
「これは……」
セレネが手に取った一冊をそっと開く。
——『今日はお絵かきした。楽しかった。明日もまた描こう』
——『今日はお絵かきした。楽しかった。明日もまた描こう』
——『今日はお絵かきした。楽しかった。明日もまた描こう』
——ページが、全て同じ内容で埋まっていた。
「これ……“ループ”してる」
クロが別の本を開く。
——『クロとセレネが来た。でもすぐに消えた。時間が巻き戻った』
「……俺たち、前にもここに来てる?」
思わず手にした本を落とす。
その瞬間、空気が揺れた。
「戻れ、戻れ、戻れ……」
誰かの声が響いた。
塔の上から、重たい足音がゆっくりと近づいてくる。
「観測者、観測者……ノア、ノア、ノア……」
「セレネ、身を引け!」
クロが前に出る。
階段から姿を現したのは、黒いフードを被った“青年”だった。
だが、その目は虚ろで、焦点が合っていない。
「この街は終わらない。終わらせてはいけない。
ノアがいたから……だから俺は……」
男は震える指で、リングを示した。
そこには、あり得ない数字が表示されていた。
**“−99:99:99:99”**
「マイナス……!? 寿命が……反転してる……」
「彼が……この街を“ループ”させてる元凶……!」
クロの心に、かつてノアが語った言葉が蘇る。
『観測者は、時間の外に存在する。世界を記録する代わりに、生きることを捨てる』
この男は、観測者になり損ねた者——
その代償として、死ぬことも、生きることもできず、
永遠に“ループ”だけを繰り返す存在となっていた。
クロは拳を握った。
「終わらせる。お前の止まった時間も、この街の楽園も、全部——」
今、選ばなければならない。
“止まった楽園”を壊す覚悟を——




