【第2章 第13話】君の涙が、時間を動かした。
朝焼けが、瓦礫の町を優しく照らしていた。
クロとセレネは歩き出していた。
あてもなく、だが、確かに前を向いて。
「ねえ、クロ。あのとき……なんで私を助けてくれたの?」
ぽつりと、セレネが問いかける。
クロは少し黙ってから、答えた。
「……たぶん。あの時の、君の涙を見たからだ」
セレネは目を見開く。
「涙……?」
「俺は、ずっと無力だった。何もできずに、大事なものを失ってきた。けど、あの時、泣いてた君を見て、俺はやっと“選べた”んだと思う」
クロの目が、どこか遠くを見つめていた。
「選べたって、なにを?」
「命の使い道を、だよ」
セレネの足がふと止まる。
そして、彼女もまた前を見据えて言った。
「じゃあ……私の涙が、クロの時間を動かしたんだね」
クロは一瞬だけ驚き、それから笑った。
「……ああ、そうかもな」
リングが、静かに脈動する。
《観測更新:相互干渉値 上昇中。感情とスキル適合率に相関あり》
「ノア、どういう意味だ?」
《さあ? 私はただの観測者よ。……でも、君たちが進む先に、きっと答えがあるわ》
セレネが、クロの手を取った。
それは、とても自然な流れだった。
そしてふたりは、朝の光の中へと——歩き出す。
たとえ、その先にどんな運命が待っていようとも。
時間が“奪い合い”でしかないこの世界で、
“分け合う”ことを選んだふたりの旅が——今、始まる。




