【第2章 第8話】時を裂く歪み
「来るぞ!」
クロの叫びと同時に、空間がぐにゃりと歪んだ。
黒衣の男が手をかざすと、周囲の空気が重力のように沈み込む。
空間が波打ち、視界の一部が“遅れて”動き始めた。
《観測確認。局所空間に時間の裂け目を発生させる“異常時制領域”です》
ノアの声が響く。
「時間の……裂け目……?」
セレネが呟いた瞬間、男の足元から影のようなものが伸び、
ふたりの足元に襲いかかった。
クロが咄嗟にセレネを抱えて跳ねる。
「っ、近づけねぇ……!」
黒衣の男が淡々と語る。
「この“場”は僕の支配下。君たちの寿命は、通常の三倍速で燃えている」
セレネのリングが震える。
「クロの寿命が……早く、削れてる!」
クロはリングを握りしめる。
「関係ねぇ。奪われた命がここにあるなら、俺はそれを止めるだけだ!」
男が一歩踏み出すたび、時の揺らぎが広がっていく。
《警告。現在のスキル圏内では、《時蝕》の正確な転写先の指定が困難です》
「くそっ……なら、“衝動”でぶち込むまでだ!」
クロがリングに手をかざし、《時蝕》を発動する。
赤黒い光が空間を引き裂き、男の術式を一部かき消す。
同時に、クロの手から血が滴る。
「クロ……!」
セレネが駆け寄ろうとするが、空間の歪みに阻まれる。
「くっ……ここまで、“時間”が違えば……!」
黒衣の男が、ゆっくりと手を振り上げる。
「さあ、“君の命の価値”を、見せてくれ」




