【第1話】寿命10分の少年
「……はぁ、また外れか」
薄暗い路地裏。少年は、ゴミの山をひっくり返していた。
ボロボロの服に、痩せた体。
名前はクロ。黒いパーカーのフードを深く被り、瞳には諦めが宿っている。
彼の手首には、青白く光るリング。
“ライフリング”と呼ばれる寿命計測装置だ。
表示されている残り時間は——『00:10:24』
あと10分と少し。
それが、クロの“命の残高”だった。
「売れるもの、売れるもの……っ」
彼は都市のスラム《終末区》で、ゴミ漁りをしていた。
使い捨て端末の破片、金属片、ライフデバイスの残骸——
どれも“わずか”な寿命で買い取られる。
寿命で買い、寿命で売るこの世界で、彼にはもう頼れるものなどなかった。
「……売って、3分。あのパン屋に急げば……」
パン1個のために、寿命を削る。
それがクロの日常だった。
けれど、その時だった。
「——ん?」
ゴミの中に、何かが光っていた。
埃を払い、そっと拾い上げる。
それは、古びた指輪だった。
不思議なことに、指輪からはかすかに“時の気配”が漂っていた。
「ライフリングじゃない……けど、なんだこれ」
その瞬間——
「適合反応確認。起動します」
クロの耳元で、誰かの声が響いた。
「……え?」
指輪が淡く光り、彼のライフリングに同期する。
青白い光が強くなり、クロの手首を包んだ。
そして、リングの中から——
「観測開始。あなたに“スキル”の資格を確認」
少女のような声が、彼の脳に直接語りかけてきた。
「スキル……?」
混乱するクロの脳内に、黒い文字が浮かぶ。
《時蝕》
《対象の寿命を奪い、自身に転写するスキル》
「……奪う?」
その瞬間、リングが強く脈打った。
ゴミ山の奥で、呻き声がした。
物音に振り返ると、そこには……一人の男が倒れていた。
クロは、無意識に手を伸ばす。
「ちょ、ま、待っ——!」
男が叫ぶより早く、クロの手がリングに触れた。
——光が、走る。
そして、男の体から光の粒子が溢れ、クロのリングに吸い込まれていった。
「……え?」
ライフリングの表示が、変わっていた。
『00:10:24』→『00:13:42』
——寿命が、増えている。
「……これが、《時蝕》……?」
クロは呆然と、指先を見つめていた。