【第13話】君の涙が、時間を動かした。
その夜、クロは夢を見た
暗い闇の中、誰かの声がする。
「——お兄ちゃん……どこ……?」
細い声。震えていた。
クロは、その声に手を伸ばす。
「大丈夫だ。……もう、怖くない」
夢が途切れる。
目を覚ましたクロの手には、まだ温もりが残っていた。
「……セレネの夢か」
ノアが静かに部屋に入ってくる。
「彼女、さっき目を覚ましたの。あなたに、会いたいって」
クロは頷き、隣室へ向かう。
ベッドの上、セレネがこちらを向いて微笑んだ。
「……ありがとう、お兄ちゃん」
「お、お兄ちゃんじゃないけどな」
「でも……そう呼びたくなったの」
クロは照れ臭そうに笑った。
「元気そうで、よかった」
セレネの瞳が潤む。
「私……もうダメだと思ってた。あの場所で、命も、心も」
「俺もだよ。昨日まで、死ぬことしか考えてなかった」
「でも、助けてくれた。時間をくれた……」
クロはふと、自分のリングを見る。
『寿命残量:00:05:12』
変わらない表示。でも、心は変わっていた。
「……なあ、セレネ。俺、この世界を変えたい」
「え……?」
「命を奪い合うんじゃなくて、与え合える世界にしたいんだ」
セレネは瞳を見開いたまま、涙をこぼした。
その涙は、リングに触れた。
その瞬間——
『寿命残量:00:05:12 → 00:05:13』
「っ……!」
わずか一秒。だが、それは確かな変化だった。
ノアが呆然と画面を見つめる。
「今の……セレネの涙が、寿命に反応した……?」
クロは静かに呟いた。
「……時間が、動いた」
その言葉の意味を理解できた者は、まだいなかった。
だが確かにその一秒が、世界の“法則”を揺るがしたのだった。
そして物語は、静かに次の章へと進む——。




