【第9話】決断の刃、静かなる怒り
「ノア。俺は、やっぱり見逃せない」
市場の片隅、ノアはクロの横顔を見つめていた。
「……あの子を助けたいのね」
クロは頷く。
「命を金で扱う連中の思うままにされるなんて、耐えられない」
「でも、正面からやれば、寿命が足りない。スキルの発動も制限される。下手をすればあなたが——」
「分かってる。でも、俺は……!」
クロは拳を握る。
「——誰かを守れる力を持ったんだ。なら、使う。俺自身が選んだ道だ」
ノアはしばし沈黙し、やがてふっと目を伏せた。
「……なら、私も手伝う。作戦を立てよう」
クロの表情が、ほんの少し和らぐ。
「ありがとう」
ノアは手元の小型端末を操作し、バザールの見取り図を表示した。
「この市場には、監視網の死角がいくつかある。あの少女の檻はちょうどその接点。
ここから15分後に定期巡回が外れる。そこを狙って接触する。
ただし、寿命スキャナーには注意して。異常な寿命の増減は即通報対象よ」
「……ってことは、スキルも制限されるな」
「ええ。でも、接触して檻のロックを解除するだけなら、十分現実的」
クロは深呼吸し、静かにリングを見た。
『00:06:02』
「六分か……。足りるかな」
「足りさせて。あなたならできる」
ノアの声は、どこか祈るように震えていた。
やがて時間が訪れた。
クロは市場の雑踏の中へと消えていく。
金の欲望が渦巻く空間の中で、彼だけが静かに怒っていた。
「奪う奴らに……何もかも取らせてたまるか」
彼の歩みは、確かに未来を選び取ろうとしていた。




