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これは、俺がヒーローだった頃の話だ。

「この話は、俺が突然ヒーローになった時の話だ。暇だったら聞いて言って欲しい」


■■■


「ごめんタツキ、もう連絡しないでほしい」


スマホに残された文字は、たったそれだけ。


駅のホーム。

冷たい春風が頬を撫でる。

高校1年生からずっと付き合っていた彼女からの返信はたったこれだけ。

1年半の思い出や記憶、恋人関係はたった一つの返信で幕を閉じた。


「恋人契約終了か…。潔いな…」


俺は笑った。

ただ笑った。

覇気のこもっていないかわいた笑い方で…。


この時間の電車に乗り込むと、座席にはパラパラと人がいる程度だった。

サラリーマン、カップル、学生…みんな、自分の帰る場所に向かっている。


俺だけ…。

自分だけが、宙ぶらりんだった。


両親とは死別した。

当然、家もない。

今日、恋人も失った。


居候させてもらっている幼馴染の家には、なんとなく帰りたくなかった。


心が空っぽだった。


「動くな!動いたら、こいつの首を切るぞ!」


電車内で突如叫び声が上がった。


男が刃物をふりかざし、近くにいた女子高生の首元に突きつけていた。

彼女は青ざめ、震えている。

乗客たちは息を呑み、誰一人動けない。


当然俺も体が固まり動けない。


恐怖が、車内に染み込んでいた。


「財布を出せ!スマホもだ!全部床に置け!」


鋭く尖った怒号。

誰かが泣き出した。

誰かが、黙って俯いた。


俺もそうだった。

ただ、下を向いた…。


「はあ…」


無力だった。


しかし、ここで人生が終わるのも悪くないかもな…。

そう思った時だった。


「情けない顔だな。死にたいのか?」


耳元で声がした。


誰だ!?

振り返っても、誰もいない。

だが、首筋に何か触れた感覚と同時に、視界にメッセージが表示された。


《君の脳波、神経、心拍数…最適だ。君にしか、これは着れない》


「は…?」


《君は今日からヒーロになれ!少年!》


気づけば右手に黒い腕時計のようなものがついていた。

金属製で、文字盤には奇妙なマークが刻まれている。


《ダイヤルを押せ》


俺は戸惑いもなくダイヤルを押した。

その瞬間、俺の体は特殊なスーツのようなものに覆われた。

一瞬だった。


普通の服じゃないのは明白だ。

強化樹脂のような装甲と、しなやかな繊維が融合した、まるで軍用アーマーのような構造。


《君が世界を変えろ》


思考よりも先に、体が動いた。


気づけばスーツは自分の体にフィットし、金属と皮膚が一体化するような感覚が走った。

ヘルメットが頭部を包んでいる。


車内の全体像が透けて見える。


なんだこれは…。


熱源、心拍数、刃物の金属探知、全てが視える!


「なんだよ、これ…」


俺が、やれってか…。


俺は静かに立ち上がった。


気配に気づいた通り魔が振り返る。


「なんだテメエ!ふざけ…」


言葉は途中で途切れた。


俺の蹴りは、空気を裂いて襲いかかった。


速度、視力、筋力、反応速度、全てが数倍に跳ね上がっている。


男の体は宙を舞い、車両のドアに叩きつけられた。

ナイフは、遠くへ飛び乗客たちが悲鳴を上げる。


「誰だ…!?あいつ!」


「ヒーローか!?なんかのコスプレか…!?」


「ちょ、動画撮っとけ!」


スマホのカメラが一斉に向けられる中、俺はただ静かにその場を去った。


《記録保存中》


スーツ内に響く機械音。

そして、再び、あの男の声。


「いい動きだ、少年」


「おい、お前誰だ!」


俺は声を荒げた。


「私は、君の可能性に投資する者とでもしておこうか…。そして、私は君の両親と少し関わりがあってね」


その言葉を聞き背筋が凍った。


「父さんと母さんを知ってるのか!?」


「いずれ、話すとき、いや知る時が来るだろう。だが、今は君がこの街いや世界に必要だ」


その声を最後に通信は途絶えた。


ヒーローになど、なるつもりはなかった。

ただ、逃げ出したかった。


けれどその日俺は確かに、誰かを救った。


この時の俺は、今から始まる物語が起きるなんて想像もしなかった。


■■■


「そうこれは、俺がヒーローだった頃の話だ」


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