9.ソワレ
「うるせぇ!騙されんな、こいつは黒魔法使いだ!」
身体能力試験を先に終え観戦していた受験生が突然声を上げた。
会場は一瞬静まり、しばらくしてざわめきを取り戻す。
ー魔族なのか?
ーいや、魔石がないぞ、人間だ
ーだからあんな暴力を...
ーここも危ないんじゃないのか?逃げた方が...
ー黒魔力なら仕方ないか
ー気持ちは分かるがあそこまでやるか?あいつは人間なんだろ⁈
(10:0から6:4くらいまで持ってかれたか?
試験前に告発されてたらやばかったかもな)
この世界の人間は黒い魔力が嫌いだ、だがそれは魔族が嫌いだからである。
そもそも黒い魔力をもつ人間は珍しい、見るのも初めてという方が多いだろう、この様な要因からオニキスはもう少し賛同を得られると思っていた。
「大丈夫か?」
ここまで事が大きくなってようやく試験官から手を差し出される。
(こいつ筆記試験の時、俺を睨みつけてたやつだ)
手を差し出してはいるが、その顔からは嫌悪感が滲み出ている。
オニキスが悪い笑いを浮かべる。
差し出された手をしっかり掴んで試験官に小さな声語りかける。
「お前程度ならどうにかできるくらいには元気だよ」
試験官の顔が怒りに染まる。
試験官は手を放し、オニキスはそのまま倒れ込んだ。
「触んな!この、魔族もどきが!」
会場全体に聞こえる声で言い放ち、そのままオニキスの顔面を蹴りつけた。
それを見た観客は更にどよめく。
ー気持ちは分からなくもないが教育者としてはどうなんだ?
ーいくら何でも可哀想よ...
ーあんなのがいるところに行きたくねぇな
ーいいぞ!もっとやれ!
(4:6くらいまではいったか?)
「お、俺は何をやっているんだ?」
蹴った試験官は呆然とし、時間が経つにつれオニキスへの恐怖に顔を染めていく。
「俺に何をした..」
そして今救護班らしき人達がオニキスと大男を運び始めた。
(どうなるかなぁ、これ)
治療を終えて、会場を出るとエメリアが待っていた。
エメリアのもとへ向かうが、途中で声をかけられる。
「帝都新聞なんだけど取材いいかな?」
「いいですよ」
オニキスは面倒くさい気持ちが顔に出ないように気をつけながら、簡単な取材に当たり障りのないことを答えていく。
「ありがとう、最後に目標を教えてくれる?」
「そうですね...黒い魔力を持っているというだけで酷いことをされている人達の希望になれれば、と思っています」
今度は爽やかな好青年のような笑顔で答えた。
新聞記者はニヤニヤと笑っている。
取材が終わり今度こそエメリアのもとへ向かった。
「いい演技だったよ」
相変わらずエメリアに演技をいじられる。
「心からの言葉だよ」
「あいつ信用できるの?ちゃんと録音した?」
エメリアが、遠ざかっていく記者を睨みつける。
「大丈夫、多分あいつは俺よりあの学園が嫌いなんだろ、俺をダシにして学園を非難したいんだろうさ、今は俺の味方だ」
オニキスは冷徹な目で記者を見る。
少し歩くと人の気配が無い路地へ出た。
「副作用は?」
「回復魔法で何とかなる範囲だったよ」
「そう..」
エメリアがオニキスの右目を覗き込む。
「見えてないんでしょ」
「見えてるよ、エメリア姉ちゃんは今日も可愛いね」
「分かった...」
エメリアは悔しそうに答えた。
ーーーー
試験のオニキスはこの国で大きな議論を呼んでいた。
幸いこの国には差別を許す法律はないため、否定派の殆どが感情論ではあるが、否定派は少なくなかった。
そして、オニキスとエメリアはまたアルカナ学園に来ていた。
今日が合格発表の日だからである。
受付で真っ白な紙を配られる。
魔力を流すと結果が浮かび上がるらしい、
まわりはそわそわしている、が、オニキスを見つけるとひそひそと話し始める。 同じくらいオニキスの結果にも興味があるようだ。
「エメリア姉ちゃん、
もし、落ちてたら慰めてね」
「わたしは合格だって」
エメリアは合格と書かれた紙を見せてくる、紙には他にも、テストの結果が書かれている。
「はや!心の準備は⁈」
「私が受かってるんだから大丈夫だよ」
オニキスは高鳴る鼓動を感じながら紙に魔力を通す。
合格 総合点:1875/2000点 一位
いくつかの教科で一位を取り損ねているが、総合は一位だった。
オニキスは思わずガッツポーズをする。あらゆる難癖で合格すら危ういと感じていたオニキスはその結果に感激していた。
「一位おめでとう!」
エメリアはオニキスに抱きつき、その目には少し涙を溜めている、自分の結果より喜んでいるようだった。
(さっきまで何でもなさそうにしてたくせに、だいぶ心配してたみたいだな)
ー「嘘だろ?!あいつが1位?」
ー「最悪、なんであんなやつと同じ学校に...」
周りの人達がオニキスの結果にざわざわしているが、二人の耳には届かない。
帰るとベリルからも同じような反応を受けた。
(親子だなあ)