86.タイムリミット
勇者とタンザーが戦場を離脱し、エメリアと邪神が対峙する。
先ほどのピンチが嘘のように、二人の間には静寂が流れる。
邪神は呆然と空を見つめ、エメリアはその様子を冷静に分析している。
一方、邪神の理解のできない行動に、オニキスはどうすればいいのか決めあぐねていた。
「どうするか..........いや、行くしかないか」
「行くのか?」
オニキスが悩んでいると、後ろからクレイが不安そうな声で話しかける。
「ああ、正直行きたくないけどね」
「え?さっきはあんなに邪神と戦いたがってたのに…」
「はぁ、説明してる時間はない、マナ、飛行魔法をかけてくれ」
【わかりました】
オニキスの周りを光の軌跡が飛び交う。
(結構魔力使うな....)
【ほんとにいいんですか?】
魔法の完成を待つオニキスの脳内にマナの声が響く。
(なにが?)
【負けますよ】
(分かってる)
そして、ふわり、音もたてずにオニキスの体が浮き上がる。
「おわぉ」
突然足場と重力を失い、完全に制御を失う。
「おぉ、おっ?お」
足の着かないプールに入った時のように軽いパニック状態になり、足、腕をばたつかせるが、胴体の位置は全く動かない。
【ご主人様、飛行魔法を動かすのは肉体ではなく、魔法陣です】
オニキスは目線を下げ体に巻き付いた光の軌跡を見つめる。
「いや、わからん」
【魔法の遠隔操作と同じ感覚で動かせるはずです】
「はあ、ちゃんと勉強しとけばよかった」
「お、おい、大丈夫なのか?」
横から心配そうにクレイが声をかける。
「クレイ、心配してんのか?」
「え?うん」
「心配する必要なんてないだろ」
「へ?」
「俺にできない事なんてないんだからさ」
「お、おう」
体に纏う光の軌跡に黒い魔力が満ちていく。
そして光が上に上がっていくと同時に、体がゆっくりと上へ、上へ。
(魔法が作り出したセンサーに魔力で触りに行く感じ反応させる感じか、オッケー)
くるくると回ったり、左右、上下へ自由自在に空を駆け抜ける。
「アハッ、アハハハハハ!」
完全に重力から解放された快感が、腹の底から沸き上がり、高笑いとなって口から出ていく。
「空飛ぶ車とは比にならない程楽しい!!」
気が付けばオニキスは邪神のいる高度を優に超え、雲のすぐ下まで来ていた。
「すっげー、息しずれぇぇぇぇ!」
視界の端でエメリアが冷ややかな目で見ているのが見えたが、無視して空を泳ぐ。
ちらりと眼下を見渡すとひび割れた地面と、魔力の嵐で賑わう町が見える。
「うわぁぁぁ、こっわ」
(冷静になっちゃダメだな)
オニキスはくるりと仰向けになり、また、空を泳ぐ、
高所にいるという恐怖は、すぐに空を飛ぶ高揚感に塗り潰されていった。
「そろそろ行くか」
オニキスが見下ろすと、骨と皮だけの骸骨のような顔の邪神がこちらを見ていた。
「顔こっわ」
「オニー!」
エメリアがオニキスの隣に上がってくる。邪神は何の動きも示さない。
「どうする?姉ちゃん」
「、、、」
エメリアは何か言いたそうな顔でオニキスを見るが、しばらくするとため息をついて応えた。
「とりあえずこのまま刺激しないように様子見する」
「えぇ、、、勝てるの?それで」
「とにかく今は皆が逃げるまでの時間を稼がなきゃ」
明らかに不服そうなオニキスを、エミリアは余計な事するなよと言いたげな顔で睨みつけている。
【オニキスさん、気づいた事があります】
「なに?」
【邪神の体が徐々に生命力を取り戻しています】
「は?」
オニキスはもう一度、邪神を見るが見た目に違いは見えない。
「どうしたのオニー?」
「いや、邪神が強くなってる?って」
「え?」
【画像を表示します】
剣から光が伸び、オニキスの目の前へホログラムが投影された。
投影された写真は2つ。
一つ目は復活したばかりの邪神の姿。
二つ目は今の邪神の姿。
見比べてみると、確かに違和感がある。
「肌艶が良くなってる?」
「髪の毛も少し綺麗になってる......」
横から覗き込んだエミリアが指摘する。
そしてもう1つ、マナから光の画像が投影される。
それはとても見やすい、一直線に右上を目指す線グラフだった。
【これは邪神が発している魔力の量です、時間が経つと共に増加しているのが分かります】
「つまり邪神は、時間と共に力を取り戻して行ってる?」
オニキスの顔が引き攣り、エミリアの顔が深刻な物に変わる。
「姉ちゃん、手が付けられなくなる前に倒した方がいいんじゃない?」
声を掛けられたエミリアが覚悟を決めた顔で答える。
「分かった、邪神を私たちで倒す、今、ここで!」
happy new year!
そして、同時に1話投稿から1年です。応援ありがとう!
1年で86話しか書けませんでしたが、2026年は頑張ります!




