85.目的
大地が裂け、海が割れ、その隙間から溢れた黒い魔力が島を覆うように囲んでいく。
島が4等分された影響か、繁華街の方から多種多様で大きな魔力の気配が立ち上っている。
「町の方でパニックが起きてる....」
エメリアは冷静に周囲の情報を分析する。
(街の方でこれだけ大きな魔力の気配を立ち上らせたら、森のモンスターが寄って来ちゃう....それに、気配が大きすぎてシルバーが目の前の戦闘に集中出来なできてない...)
「アガット、街に行って状況を説明して魔力を抑えてきて」
「え?!でも!私だけ逃げるなんて!」
「アガット、貴方はさっきお腹に穴を開けられたの、まだ完全に治ってないんだから、逃げなさい」
「っ!嫌です!それならシルバーさんだって同じじゃないですか!」
「分かってる、シルバーは私が逃がすわ...私とタンザーでできるだけ時間を稼ぐ、だから、貴方は応援を呼んできて」
「そっ、そんな...たった2人であれを抑えるって事ですか?!そんなの....」
「アガット……貴方もシルバーも怪我人よ...戦闘では役に立たない、でも、情報の伝達、避難誘導、他に役に立てる事はいっぱいある、そして、ちゃんと治療を受けて治ったら戻ってきて」
快活な笑顔でエメリアはアガットの頭を撫でる。
「わっ、分かりましたぁ」
アガットは涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながら、反転して街の方へかけて行った。
「僕達2人であれを相手に時間稼ぎか.....」
タンザーが剣を抜き肩を回す。
「ごめんね、タンザー、一緒に死んで」
「死なないよ、あいつを倒して、僕が英雄になる」
「ふふっ、頼もしいね」
緑色の光と、青白い光が輝き。
邪神へ向かって飛んで行った。
ーー
目にも止まらぬスピードで、タンザーの剣が邪神に放たれる、だが、邪神はそれの腕で軽々とガードしてみせた。
「何だ?この感触....」
邪神はゆっくりと腕を持ち上げ、タンザーの方へ反撃するが、その拳にはスピードも力もない。
タンザーは少し距離を取って軽々とその攻撃を躱す。
そしてそこへ、風の刃が邪神を襲う。
エメリアの魔法だ。
しかし、邪神は表情一つ変えずに受け流した。
「シルバー!一旦下がれ!」
タンザーがシルバーに叫ぶ。
「いいや、これは勇者の仕事だ」
「分かってる、だから一旦メーガンの所に行ってちゃんと治療してから来い!」
シルバーは少し悔しそうな顔で、首に手を当てる。
「メーガン、今何処だ?」
「メーガン!応答しろ!」
「クソっ、出ない...」
シルバーは諦めて剣を構える。
「シルバー!」
「仕方ないだろ?!メーガンはどこに居るか分からない!それに、今の邪神は弱ってる!今の俺たちでも充分対処出来る」
タンザーは焦った様子で邪神を見つめる。
(傷1つ付けられないが、あいつの攻撃もこっちには当たらない.....今は少しでも火力が欲しい)
「分かった、だけどシルバーはサポートだ」
風の刃を潜り抜けた邪神がギロリとシルバーを見る。
「ゆ゛う゛し゛ゃ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛?」
シルバーの肌がぞわりと粟立つ。
シルバーの動きが一瞬止まる、邪神はその隙にタンザーを掻い潜り、シルバーへ手を伸ばす。
先程までのゆったりとした動きからは考えられない、素早い動きに、シルバーもタンザーも反応が遅れた。
邪神の細長い腕がシルバーの腕を掴む。
そして、一瞬の内にその腕を握り潰した。
「ぐわぁ!」
痛みに顔を浮かべるシルバーを、邪神がゆっくりと持ち上げる。
「シルバー!」
タンザーの剣が邪神の背中を叩くが、ビクともしない。
邪神はシルバーをじっくり眺めた後、興味を失ったおもちゃのように放り投げた。
自由落下していくシルバーを、タンザーが追いかける、そして、その様子をエメリアは冷静に見つめる。
邪神はシルバーには目もくれず、空をぼーっと眺めていた。
ーーーーーーーー
そしてそんな様子を遠い空から眺める影が2つあった。
片方は粗暴そうな少年、もう片方は根暗そうな少年で、胸には黒い石が嵌められている。
「わーお、本当に邪神が復活してるよ」
アシュが少し目を輝かせながら、目下の邪神を見つめる。
「かなり弱ってるが....最悪だ..」
「え?なんで?」
「勇者が俺達魔族を見つけて、その後すぐ邪神が復活....どう考えても魔族が犯人だと思われんだろ」
「確かに、でもいいんじゃない?元から嫌われ者なんだし下がる好感度もないでしょ、このままこの国ぶっ壊して貰おうよ」
「俺はそれでもいいが、魔王の計画の邪魔になる」
「へぇー」
アシュがニヤリと笑い、ヴァレクを見る。
「何だよ」
「ヴァレクはあの計画反対派じゃなかったっけ?」
「ちっ、うるせぇよ」
「ふふっ、それで?俺達はどうする?」
「....邪神に勇者を殺して貰った後、俺達が邪神を殺す」
「オッケー、それ最高」
アシュとヴァレク、2人が拳を合わせ笑った。




