83.戦士
銀色の魔力、それは、世界を破滅から守る人類の盾。
この世界の、正義の象徴。
銀の光に晒されたアレクスは、まるで自分が世界の悪役になったかのような錯覚に陥る。
トルマリンの魔力は、ほんのり虹色の光を纏い、ダイヤモンドの様にキラキラと光っている。
それは、ディアナの魔力とよく似た色だが、ディアナとは違い、不思議と冷たい印象を受ける光だった。
トルマリンが静かに、アレクスを見る。
今まで飄々とした態度に隠されていた鋭い殺気がアレクスを刺す。
否応にも思い出される圧倒的な力の差。
そして、ようやく見出した小さな希望すら握り潰す、異質すぎる力。
それらがアレクスが必死に抑え込んでいる恐怖の蓋をこじ開けていく。
(こいつもだ.....)
思い浮かぶのは、剣聖。
人の域を超えた超越者。
縋り付くように、右手首の腕輪を掴む。
助けなんてとっくの昔に呼んでいる。
こんなに時間が経っても増援は来ないのだからもう期待できそうもない。
考えれば考えるほど、絶望的な状況。
「うっ、クソッ!死ねぇぇぇぇぇぇぇえ!」
アレクスは恐怖を振り払うように叫んで、ありったけの魔法を銀色の少々へ放つ。
幾つかの火球が洞窟を駆け抜け、トルマリンへ。
トルマリンは腕を前に翳すと、銀色の壁が浮かび上がり、炎をかき消した。
「本当に、難しいな....この魔力」
感情の抜け落ちた、人形の様な顔でトルマリンは呟く。
「ごめんね、手加減できない」
銀色の光が彼女の手に集まり、魔法陣を描く。
やがて魔法陣が光り輝きパッと消えると、右手に銀色の剣、左手に銀色の槍が現れる。
死をまじかに感じ、心臓が握られるような不快感がアレクスを襲う。
(死ぬのか俺は)
ーーオニキスという男の戦いを見た。
入学する前は、世代最強は剣聖の弟子か、勇者かという噂が世間で流れていた。
そして、彗星の如く現れたオニキスがそんな彼らを圧倒して見せた。
初めは黒い魔力が強力が特別なのだと思った。
身体能力も、技術も、魔法も、知力も、自分とそこまで違いがあるとは思えなかったからだ。
だが、あいつの戦いを見ていて気づいた事がある。
あいつは常に命を賭けて戦っている。
魔力の特性のせいもあるのだろう、しかし、模擬戦でも、訓練でも、常に狂気じみた威圧感を漂わせるオニキスの姿を見ていると分かる。
あれを本当の戦士と言うのだろう。
そしてそれが、オニキスが強い理由だ。
ーー死をまじかにしてようやく分かった事がある。
ー俺はまだ命を賭けていない。
武器を持つことでさらに殺気を増したトルマリンを見据える。
ーけど、もう少しで戦士に成れる。
アレクスがニヤリと笑う。
その少し狂気を漂わせる笑いに、トルマリンの足が止まる。
「何を笑ってるの?」
「ようやく分かってきた」
「何を?」
「命の動かし方をなぁ!」
アレクスの足元に魔法陣が展開される。
魔法陣から現れたのは、まるで真っ赤な宝石を溶かした様な炎。
その炎がアレクスの身を包む。
炎はアレクスの身を焼き、焦がしていく。
ほんのり立ち上る肉の焦げた匂いにトルマリンは顔を歪めた。
「あんた、何やってるの?」
「死んでも、お前を殺す」
「イカれてる」
トルマリンは付き合いきれないと言った表情で、アレクスから距離を取る。
そして、身体強化を全開にし、大きく振りかぶって槍を投げた。
槍は轟音と共に、真っ直ぐ、アレクスへ吸い込まれる様に飛んで行く。
アレクスはその槍を目で追う事が出来なかったが、研ぎ澄まされた感覚で槍の軌道に剣を滑り込ませる。
槍とぶつかった剣は酷い金属音と共に砕け、軌道を変えた槍はアレクスの横を通り抜けて行った。
「ははっ!どうだ、そんな攻撃効かねぇなぁ!」
アレクスが笑う、トルマリンはその光景を呆然と見つめる。
「どうした?ビビって声もでねぇか?」
「やっぱりそうなんだ......」
「?」
「いや、正直理屈は全く分からないんだけど...そうじゃないかと思ってたんだよ......」
トルマリンの奇妙な独り言に、アレクスは首を傾げる。
そしてようやく気づく、トルマリンの目はアレクスを見ているのではなく、少し違う所に向けられている事に。
そして、アレクスはトルマリンの視線を辿り、斜め後ろへ目を向けた。
視線の先は銀色の結界に深々と突き刺さった、銀色の槍。
「は?」
愕然とした表情で槍を見つめるアレクスを他所に、トルマリンが剣を投擲する。
「ちょっ!」
剣と槍からヒビが広がり、やがて結界全体を覆う。
パリンッ
大きさに見合わない、薄氷が割れたような研ぎ澄まされた音が響き渡った。




