80.トルマリン
メーガンは、虹色の髪の女を追いかけ、山を下っていた。
(何処まで行くの?)
相変わらず鼻歌混じりで歩く女、この険しい山道をまるで町を散歩するかのように歩いていく。
メーガンはバレないように気をつけて歩いているが、女に周りを警戒するような様子は無く、簡単に後をつけることが出来た。
女が止まる。
目の前には大きな岩山がある。
その岩山には人がひとりギリギリ入れそうな隙間があり、彼女はその隙間へ体をねじ込んだ。
彼女は所々引っ掛かり、ジタバタしながら穴へ入って行き、その姿が消える。
メーガンも彼女を追い掛け、岩の前へ。
(魔力は感じない、天然の隠し通路......)
誰でも、隠したい物は、頑丈で、強固なセキュリティのある箱に入れたがるものだ、そしてこの世界で1番それに適しているのは魔法。
この世界の隠し通路や、金庫には少なからず魔力が掛かっているものが多い。
その結果。このような魔力を伴わない仕掛けは誰にも気づかれないという、強固な結界になりうる。
メーガンが穴を覗くと、3m先程に行き止まりが見える。
(なるほど、これなら誰もこの先に進もうとは考えない)
メーガンも意を決して、その穴へ体をねじ込んだ。
狭い穴の中を、左へ、右へ、そして奥に進む程、暗く、暗く、本当に出口があるのか不安に襲われ、岩の中で溺れそうになる錯覚をメーガンが襲う。
「はぁ、はぁ、はぁ....」
(落ち着いて、パニックになったら死ぬのは私)
「落ち着いて、メーガン」
自分をまるで別人のように扱い、客観視する事で落ち着きを取り戻そうとする。
「落ち着ー」
岩の隙間を抜ける、先には人が10人が余裕で通れる程広い洞窟。
洞窟の壁は今までに見た事の無い物だった。
鉱石が、溶けて、圧縮され、凝固されたかのようで、奥から放たれている銀色の光が、その壁にあたり、虹色の光となって反射する。
(なんなの.....この道....)
メーガンは神秘的なその光景に圧倒されていた。
奥にいる人影に気づいたのは、一呼吸置いてからだった。
「貴方!何をやっているの!」
メーガンは白い光の粒子を身にまとい、人影に叫んだ。
「貴方、さっきの人?ついて来ちゃったんだ....」
「何をしているか聞いているのよ!」
メーガンが指先を女に向け、白い矢を放つ。
白い矢は、女の横を掠め、奥の銀色の壁へ当たって弾けた。
「貴方貴方って私の名前はトルマリンよ、マリンって呼んで」
トルマリンが、少し不機嫌に、悪戯に、メーガンへ笑い掛ける。
見る人が見れば骨抜きになりそうな光景だった。
しかし、メーガンは別の事に気を取られ、それどころではなかった。
「貴方.....その壁....っ、まさかっ!」
メーガンが今にもゲロを吐きそうな顔で叫ぶ。
「バレちゃったか....そうだよ、これは邪神が封印してある勇者の結界、みんな、上からしか見た事ないでしょ?
私が掘ったんだ〜
どう?凄いでしょ?」
「何する気?」
「やだなぁ、悪い事なんて考えてないよ、だからちょっと外に出ててくれない?」
「ーいいわ、力ずくで聞き出す」
メーガンが背後に複数の魔法陣を展開する。
一息置いて、魔法陣から白い光が放たれた。
目にも止まらぬスピードで一直線に放たれた光は、トルマリンに当たる、直前で彼女が消える。
そして、消えた彼女は突然、メーガンの背後に現れた。
「なっ」
「少し、静かにしててね」
トルマリンの長い足が、大きな弧を描いて、メーガンに吸い込まれる。
「グハッ」
蹴られたメーガンはその威力で壁に叩きつけられた。
「グッう、らうぇ」
壁に叩きつけられたメーガンは、胃の内容物を吐き出した。
「ねぇ、貴方、この結界ってどうやったら壊れると思う?」
トルマリンがゆっくり結界へ近づいていく。
「どんな魔力にも弱点となる魔力がある、赤は青に、青は黄に、もちろん個人差はあるけど、じゃあ、銀色の魔力の弱点は?」
彼女の虹色の魔力が暗く、黒く染まっていく。
「銀色の魔力は純粋を司る。
邪を払い、誰にも犯されない聖域をつくる、そうゆう魔法に特化した魔力だと思うの。
一方、黒い魔力は、何にでも染み渡り、物体を犯し尽くす、不浄を司る魔力。
どう?銀の魔力の弱点になり得ると思わない?」
トルマリンが黒い魔力を纏う。
「や、やめ...」
メーガンが地を這い、必死にトルマリンを追いかける。
トルマリンは魔力の込めた真っ黒な指で、そっと銀色の結界に触れた。
「やめてーー!」
メーガンの悲痛な叫びが洞窟に響き渡る。
「...........」
「...........」
「......あれ?」
トルマリンから気の抜けた音が漏れる。
彼女が黒い魔力を何度も結界へ押し付ける。
通常なら、ティッシュに水を零すみたいに、黒い魔力が広がっていくはずだ。
しかし、目の前で起きるのは全く逆の光景。
銀色の結界は、まるで同じ極同士を近づけた磁石のように、黒い魔力を弾いている。
「あ、あれ?」
トルマリンが気まずそうにメーガンの方へ振り返る。
「違うっぽい」
メーガンもまた、気まずそうに彼女から目を逸らした。




