8.俳優デビュー
次の試験は身体能力を見る試験らしい。
広々とした運動場に案内されると、大人っぽい人と同年代らしき人が戦っている。
この運動場には、観客席があり先に試験を済ました生徒や、大人らしき人が真剣に試合を観ている。
(試験官にしては多いな、観戦?入試試験で?
そういえば魔法の試験もそうだったなあんなみんなの見えるとこでやるか?普通)
「お前は俺と試合だ、来い!」
次の試験官はこの大男らしい。
オニキスは素直についていく。
(強そうだな、俺を落とすため、とか考え過ぎか?)
運動場のど真ん中の一辺が八メートルくらいの四角い線の真ん中に立つ。
「この線からでなければ何をしてもいい、俺を倒すつもりでこい」
「はい!よろしくお願いします!」
オニキスは目の前の試験官に手を差し出す。
試験官はその手をはたき落とす。
しかしオニキスはまた手を差し出す。
「いや、握手じゃなくて武器が欲しいんですけど....」
別の試験官が木刀を持って来てくれる。
ご丁寧にオニキスの木刀は安物だ。
(周りから、こんな奴入学させるな!を引き出したいのかな?なら魔力を見せるのは危ないか?)
(なんにしろ、むかつくなぁ)
スタートの合図がかかる。
試験官が身体強化魔法を使う、その男の体から炎のように猛々しく赤い魔力の光が溢れ出す。
身体強化魔法は文字通り、身体を強化する魔法だ。しかし、先ほどの様に魔法陣は必要なく、体に魔力を通すだけでお手軽に発動できる。
オニキスも体を強化する。しかし体外に魔力が溢れることはない。
オニキスが魔法の試験で使った魔法とは違いとても静かな魔法だった。
オニキスが大男に正面から仕掛ける。
魔力の気配は感じるのに、魔力が見えない、
その見慣れない強化魔法に戸惑っている大男は咄嗟に腕に魔力を通し、ガードの体制をとる。
身体強化は魔力をだけで発動できるが、魔力の通し方で色々な応用ができる。
その大男も腕に魔力を格子状に通す事で防御力をあげている。
オニキスはそのガチガチに魔力を通してある腕にそっと触れた。
「ビビりすぎだろ」
彼にだけ聞こえるように呟き、魔法を発動する。
落ち着かせる魔法の逆、相手を怒らせる魔法。
ちなみに魔法陣は相手の体の中で描いている。これができるのは黒魔力だけらしい。
「なんだとぉ?」
大男は怒りに体が震え、こめかみの血管が浮き上がっている。
「死ねぇぇぇぇ」
大男の攻撃を左手で受ける。
オニキスは魔力を全身に通していない、皮膚の下の筋肉に魔力を集中させている、そのため、体外に魔力が溢れる事がない。
つまり、今オニキスの皮膚は普通の人間だ。
左腕が裂ける、血が滴り地面に落ちる。
皮膚が傷ついただけだが、周りからは大怪我しているように見える事だろう。
観衆の1人が悲鳴を上げ、ざわざわが連鎖し会場全体がどよめき出す。
ーおい、あそこなんかやべぇぞ
ーあの試験官は何を考えてあるの?!
ーやり過ぎだろ!
採点の為に椅子からこちらを見ている試験官も戸惑っている。
ざわめきに反応し、大男の目が醒め始める。
「俺は、何を、」
「おい雑魚、手応えで分かるだろ?薄皮一枚切ったくらいでもう満足か?」
観客には聞こえないように気をつけながら語りかけると、再び大男の目に怒りの炎が灯る。
「絶対殺す」
大男の攻撃がオニキスを襲う。
しかしその攻撃は精細さを欠いており、簡単に対処できた。
オニキスはいくつかの攻撃はわざと受け入れながら、腹部に木刀を叩き込んだ。
大男が苦悶の表情を浮かべ、観客は沸き立つ。
「いいぞ!頑張れ!」
「お、おい、辞めさせなくていいのか?」
そのままオニキスは大男との死闘を演じる。
オニキスがボロボロになった衣服を脱ぎ捨てる。
痛々しい。ボロボロの体が露わになる。
(一応魔石はありませんよアピールしておくか)
大男の攻撃はどんどん怒りに任せて大ぶりになっていく。
(おっせぇ、簡単に避けたら演技だってバレちゃうよ)
オニキスは何も持ってない方の腕に防御特化の強化をかけ、大男の大振りの拳をその腕でガードし、ガラ空きの顎に木刀を入れた。
大男は糸が切れたように倒れ込み、会場は揺れる、オニキスは腕を上げてその場に座り込んだ。
会場は拍手喝采だ。
しかし、魔法が空中に放たれ大きな音をあげ、困惑で少し会場が静かになる。
「うるせぇ!騙されんな、
こいつは黒魔力使いだ!」
会場に完全な静寂が訪れる。