79.昇る太陽と壊れた月
エメリアのシールドが割れる。
髪も目も真っ黒な女の魔族が、その凶刃を無防備なエメリアへ振り下ろす。
「エメリア!」
シルバーの体が銀色の輝きを放ち、目にも止まらぬスピードで、敵とエメリアの間に入り、その攻撃を止める。
シルバーはそのまま敵を蹴り上げ吹き飛ばす。
エメリアを守りきったがその顔には悔しさが滲んでいる。
シルバーが使っている、1段上の身体強化魔法『アステリ』は、魔力の消費が激しい上、クールタイムも長い、何回も使えないシルバーの切り札の様な魔法だ。
それをこんな序盤で使ってしまった。 俄然優位は魔族にある。
「ぐはっ」
3人の魔族に囲まれたアガットが、腹を殴られ、地面に組み伏せられる。
丘の上には、冷静に状況を眺める、粗暴な少年と、眠そうにぼーっとどこがを見つめる陰気な少年がいる。
「アシュ、撃て」
「ん、どれを?」
「あの金髪」
「分かった」
アシュが空間から半弓を取り出し、矢を番える。
それは時間が飛ばされたと錯覚する程の洗練された動きだった。
そして、静かに、矢が放たれた。
複数人に囲まれても何とか堪えていたタンザーの背中へ、矢が当たる。
「うっ」
この乱戦の中、魔力の込められてない矢は、完全に感知出来ないステルスの矢となって、タンザーに当たった。
魔力がないので威力は無いが、タンザーの集中を乱すには充分。
案の定、背中への攻撃に気を取られたタンザーの腕へ魔族の剣が叩き込まれた。
金属のぶつかり合う音と同時に響く、鈍い音。
タンザーの左腕からは真っ赤な血が滴り落ちた。
2つの壁を失ったエメリアへ、再び魔族が攻撃を仕掛ける。
「くそっ!」
シルバーは咄嗟に剣をエメリアの頭上へ放り投げる。
魔族には勇者が何をしたいのか全く分からなかった、だから注意深く、聖剣を観察する。
『フォス』
シルバーがそう呟くと、聖剣から眩い光が溢れ出し、魔族の目を潰した。
「まだか?エメリア!」
「あと...もう少し....」
「行ける!」
エメリアの触れている地面から大きく複雑な魔法陣が広がる。
『イェラキ』
エメリア、シルバー、アガット、タンザーに、風がまとわりつき、その体を持ち上げる。
4人は、四方を敵に囲まれた状況での唯一の逃げ道、空へ。
地上の魔族は、簡単な攻撃魔法を空へ放つ。
しかし、四人は攻撃をするすると回避しながら、更に高度を挙げていく。
それを感心した様な表情で、丘の上のヴァレクが見ている。
「逃げられちゃうね」
「.....凄いな、他人を飛行魔法で動かすなんて」
「どうする、ヴァレク?」
「撃て、次は本気の奴で」
「はーい」
アシュが空間から弓を取り出す。それは先程とは違い、自分の背丈程もある長弓であった。
アシュは魔力で体を強化し、まるで弓道の様な動きで全身の力を使い弓を引く。
弓がミシミシと悲鳴をあげる。
「誰狙えばいい?」
「あの緑」
「おっけー」
「殺すなよ」
「え?なんで」
「殺しちゃうと逃げられるから」
「どうゆう事?」
「はぁー、もういい、早くやれ」
「はぁい」
アシュが手を離す。
瞬間、乾いた破裂音が響き渡る。
それは、物体が音速を超えて移動する時発生する衝撃波の音。
それは矢が指から離れた時にはもう、標的に矢が届くほどのスピードだった。
「そんな?!シルバー!アガット!」
しかし、その矢はエメリアには当たらなかった、代わりに矢を受けたのは、強化魔法で感知能力も上がったシルバーと、魔眼による神懸り的な反応速度を持つアガット。
その矢は魔力の防御を易々と突き破り、貫通する。
その速すぎる攻撃にその肉体はまだ自分に何が起こっているのか気付いておらず、シルバーの肩とアガットの脇腹へ綺麗な穴を開けた。
だが、2人が庇った事で矢の軌道は逸れ、エメリアには当たる事は無かった。
「そんな!シルバー!アガット!」
タンザーが焦りに顔を歪め喚く。
「タンザー!貴方に飛行魔法の操作を渡す!私は回復魔法を」
対称的に、エメリアは冷静に指示を出した。
「うっ、あ、ああ、分かった!」
「緑には当たらなかったけど、2人に当たった!もしかしてこれも予想してたの?!」
興奮した様子でアシュが隣の粗暴な少年へ話し掛ける。
「いや、予想ではもっとパニックになって遅くなると思ったんだけど...やるな、あの女」
地面にいた魔族がようやく飛行魔法を完成させ、エメリア達を追い始める。
タンザーの飛行魔法はエメリアと比べるとかなり遅い、すぐ追いつけ........
突然、太陽の様な火の玉が下から雲を突き抜け現れる。
「うっ、うわぁー」
「ぎぎゃぁぁぁぁ」
その火球が魔族の追手を焼き払う。
「は?」
ヴァレクが間抜けな顔で焼け落ちていく仲間を見つめる。
「えぇ?なに、あれ」
「魔法陣の魔力を感じ取れなかった....地上からの援護?そんなバカな....」
「えぇ....どうするの?」
「任務失敗だ、帰るぞ」
「えぇ?!、いいの?まだ追いつけるんじゃない?」
「無理だ」
落ち着きを取り戻したヴァレクが冷静に戦況を分析し、答える。
「はぁ....魔王様に怒られるよね?」
「俺だったら殺すまでぶん殴るけど、魔王は怒らねぇだろ、優しいし」
「ふふふ、そうだね、じゃあ帰ろっか」
ーー
「追手が来ない?
シルバーとアガットは大丈夫?」
タンザーが後ろで治療を受けている2人に声をかける。
「うっ、ああ、大丈夫だ」
「は、........ヒュー......ワダジモ、ダイジョウブです」
シルバーとアガットが息も絶え絶えに返事する。
「喋らないで」
エメリア少し安心した様な表情で、彼らの傷から手を離した。
患部の傷は塞がり見かけ上は完全に治っている。
「危なかったが、魔族の拠点は特定した、これは大きな手柄だ」
「ええ、早く報告しないと」
エメリアが通信魔法を組み始める。
勇者パーティvs魔法軍、最初の戦争は勇者側の勝利で幕を引いた。
しかし、彼らの気持ちは優れない。
ただの魔族の下っ端1人も満足に相手することが出来なかった、その事実が彼らに重くのしかかっていた。
彼らの心は、いつの間にか日が落ちてしまったこの空の様な色をしていた。
パリン
面倒くさくて魔法に名前付けてこなかったけど、これから頑張ろ




