75.昇る太陽と壊れた月
オニキスは何も無い空間から、ボーリングの玉のような真っ赤な球体を取り出す。
「これはダンジョンから取ってきたモンスターの素材だ」
オニキスはその真っ赤な球体をクレイへ投げる。
クレイは慌ててその玉を受け取り、その予想外の軽さに驚き、目を見開く。
「お、おい!いきなり投げんな!」
「今の所、2番目に苦戦したモンスターの素材だ、俺の満足する武器が作れなかったら.....」
「作れなかったら?」
「あの事皆にバラす」
「ヒッ」
青ざめた顔で、ぷるぷると震え出すクレイ。
そんなクレイを眺め、満足そうに空間からソファーを取り出し、ふんぞり返るオニキス。
お前の事しっかり見ているぞと言わんばかりに、クレイを睨みつけながら、葡萄ベースの飲み物の入ったグラスを取り出した。
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あれからかなりの時間が経ち、すっかり辺りは暗くなっていた。
「むゃぇ~~う〜ん...」
オニキスはソファーの上でヨダレを垂らし爆睡している。
手に持っていた葡萄ベースの飲み物はひっくり返され、地面が美味しそうにその液体を飲んでいる。
「はぁ....なんで寝てんだよ」
呆れの混じった声色で、クレイがオニキスを見下ろす。
月の光に照らされたクレイの体は、蒸気を発しており、大量の汗でテラテラと輝いている。
「オニキス!」
「グッ..うーん、やべ、寝てた」
口から垂れたヨダレを拭き、声の主を見上げる。
「.....おはよ......なんか.........でかくなってない?」
クレイの体は長時間の高い不可により、パンプアップしており、ただでさえ筋骨隆々の肉体がさらに磨き上げられていた。
「いい身体.....」
「何言ってんだ?出来たぞ」
「出来た?何が?」
「はぁー」
クレイは手に持っていた剣をオニキスに手渡す。
「これって、もしかして....」
「ああ」
オニキスはニヤリと笑い、立ち上がる。
先程まで眠そうだった彼の目はから一転、その目はバキバキになっている。
「自己採点は何点だ?」
「もちろん100点だ!」
間髪入れずに答えたクレイの顔はまるで、マラソンを走りきった後のように晴れやかで、達成感に満ちた表情をしている。
「マナ、ちゃんと見てたか?」
【はい、しっかり集中出来ていました】
「いいじゃん」
剣を鞘から引き抜く、現れたのは美しい刃文の付いた、真紅の刀。
「かっ、かっけぇぇぇぇ!」
オニキスがキラキラした目で褒めると、クレイは少し照れたように頬を染める。
「マナ!ダミー出せ!」
【はい】
少し離れた開けた場所に、黒い人形が現れる。
【人と同じ硬さです】
「ありがと」
オニキスが振りかぶり、人形を縦に振り下ろす。
人形の頭部に当たった刃は轟音と共に火花を散らし、頭頂部から胸部までを切り進め、心臓部で止まった。
ちなみにオニキスが刀を振るのはこれが初めてである。
「魔力無しじゃこんなもんか」
その後、刀を横に振り胴を切断した。
「なにか違和感は無いか?」
クレイはオニキスの剣戟そっちのけで、心配そうに刀を見ている。
「無いな、精霊は宿らなかったか....」
オニキスは心底残念そうな顔で、人形の腹に刀を突き刺した。
「なぁ、クレイ、ちょっとだけ魔力流して見ていい?」
「え?えぇ、うーん、まあ、いいよ....」
「すごい嫌そうじゃん、絶対壊さないからさ」
オニキスは左手に黒い剣を持ち、右手に赤い刀を持つ。
「マナ、調節手伝って」
【分かりました】
全身に魔力を巡らせると、体表から漏れ出た魔力がオニキスを包む。
すると、黒い剣が反応し、調節を初める、魔力の流れが整理されていき、効率化が始まる。
オニキスを包んでいた黒い霧はそれに伴い、霧散していった。
左手で調節された魔力を右手の刀へ。
少しづつ、じんわりと。
すると、刀はその魔力に反応し赤い光を発し始めー
「う、お。おぉお?!」
刀が火を吹き出した。
「どうした?大丈夫か!」
その火は高く大きく、みるみるうちに成長していき、クレイはオニキスへ近づけない。
(こいつ、俺の魔力を!)
オニキスは必死に魔力を抑えるが、真紅の刀は無理矢理魔力を奪っていく。
「チッ」
【オニキス様、こちらで魔力を遮断しますか?】
「いや、いい!」
(剣を自分の意思で操れないのは3流以下、だったか?)
クレイが剣聖から聞いた言葉。
ついさっき聞いたばかりの過去の煽りが、オニキスを掻き立てた。
黒い剣を離し、両手で刀を握る。
「今の所俺の魔力に耐えられたのはマナだけだぜ?お前は大丈夫か?」
両手から魔力を限界まで流し込む。
それに呼応するように、火はより大きくなっていく。
(このままじゃ、森が燃える)
足に魔力を纏わせ、全力の跳躍。
それはまるで打ち上げられた太陽のようだった。
「お?そろそろ限界か?」
刀がカタカタと震え出す。
「キィィィィィィぃぃぃぁかぎぎぁぁ」
突然、刀から発せられた耳障りな音と共に、刀から出ていた炎がオニキスを拒絶するように、空へ飛んでいく。
その炎は雲を越えていき、そのまま見えなくなった。
「俺の勝ち、とも言えないか...」
そのままオニキスは地面に落ちた。
「大丈夫か?!オニキス!」
「まあ、うん」
「一体何が起きたんだ....」
「なんか、俺の魔力美味しくないって言われた....」
オニキスが悲しそうに呟く。
「そっ、そうか...」
パリン
それはとても小さな音、それでいて遠くまで響き渡る不思議な音だった。
そんな不思議な音が島を駆け抜ける。
「なんの音?」
オニキスもクレイも、音の出処を探し、辺りを見渡す。
【オニキス様、邪神を封印していた結界が破られました】
「「は?」」




