73. 三流剣士と三流鍛冶師
しっかり刀に布を巻きつけて、走る。
そして辿り着いたのは、クレイとアレクスの秘密基地。
クレイがこんな状況で頼りにしたのは、親でも、村の警備隊でもなく、アレクスだった。
誰にも後をつけられていないかをしっかり確認し、細い木々を掻き分けて中へ。
息を荒らげて中へ入ってくるクレイに、アレクスは何かが起きたことを悟る。
「クレイ?......何があった」
「ーわかんない」
クレイが、刀の布をしっかり巻き付け直す。
「わかんないよ...」
恐怖、罪悪感、悲しみ、安堵、様々な感情が入り交じり、ポロポロとクレイから涙が溢れ落ちていく。
「クレイ.....」
呆然と呟くクレイ、彼には時間が必要だと考えアレクスは、コップに冷たい水を注ぎ、クレイの横に置いた。
(村で、何かが起きた、クレイがあの剣みたいなやつから目を離さない、あれが関係してるのか。村を見に行きたいが、クレイを1人にするのは...)
アレクスは、指先で魔法陣を組み上げ、首に当てる。
遠距離で相手と会話できる魔法を、村にいる最近連絡の取っていない友人達へ向けて放った。
ー(アレクス?!久しぶり)
返答は明るい女の子の声。
ー「ミカか?村の様子を教えてくれ」
ー(村の様子?ああ、なんか精霊の宿った武器が出たとかで、凄い騒ぎになってる、噂だと、何人も死人が出たって.....)
ー「..........分かっ、た、クレイの親に伝言を頼む.......」
「クレイ!行くぞ」
各所への連絡を終わらせたアレクスが、へたりこんでいるクレイを無理矢理立たせる。
「行くって..何処に....」
「この帝国の首都、グランディオールに」
ーーーーーーー
それから、空飛ぶ車に3日間乗り、グランディオールに着いた。
悪い想像、記憶を脳を駆け巡り呆然としているクレイと、魔法で何処かに連絡を取っているアレクス。
道中に会話は無い。
ちなみに、決して安くないお金は、アレクスが払った。
首都に辿り着き中へ入ると、金髪の少年が待っていた。
「アレクス!クレイ!」
「タンザー?」
懐かしい顔に、クレイは思わず声を上げる。
「久しぶり、クレイ」
「タンザー、力を貸してくれ」
(アレクスがこんなすんなり頭を下げるの、初めて見た....)
タンザーは一瞬たじろぎ、すぐに真剣な表情になって頷いた。
「もちろん、とにかく家に行こう」
ーーーー
タンザーに案内されたのはファンタジーの世界には似つかない、厳かな道場だった。
そこの畳の敷かれた一室で、アレクスとクレイはヴィンダールの村であったあれこれを話した。
「精霊の宿った武器なんてどうすればいいのか分からん、お前の師匠ならどうすればいいかわかるかと思ってな」
「分かった、師匠に聞いてみるよ」
そう言ってタンザーはアレクスとクレイを置いて部屋を出ていった。
ーーーー
ボサボサの真っ赤な髪を腰まで伸ばした女が部屋に入ってきた。
それは、アレクスがいつか見た剣聖の姿とは少し違かった。
記憶にある剣聖はもっと、カチッとしていて、騎士といった感じの人間だったが、今目の前にいる剣聖は真逆のイメージだ。
だが、その身に宿るオーラは凄まじく、まるで鋭い剣を向けられているような感覚に襲われる。
「見るだけで人をおかしくさせる刀かぁ、確かに厄介だなぁ」
何も言わず、剣聖は刀の布を引き剥がす。
「な?!」
「ひっ」
刀身を見たタンザーが、一目見ただけで何かを感じ取り後方へ距離を取り。
クレイは焦りの声を上げる。
アレクスは冷静に目をつぶって回避した。
「ほーん、魔力無しでこれか...クレイて言ったっけ?」
「は、はい」
「壊す、売る、俺に譲る、自分で大事に保管する、どれがいい?」
クレイは答えを求めアレクスを見る、悩んだ時いつも助けてくれる友人を。
しかし、答えは帰って来ない、表情を殺し真顔で何処かを見つめるアレクスの横顔は、「お前が決めろ」と言っている気がした。
「...壊してください」
「いいのか?売れば一生遊んで暮らせる金が手に入るかもしれねぇぞ」
「正直、この刀は人の手に持たせたくありません」
クレイはそう言って頭を下げた。
「よし!タンザー!お前この刀持て」
剣聖は豪快に笑い、庭へ出ていった。
ーーーーー
塀で囲まれた庭先に、2人の剣士が立つ。
金髪の少年が、恐怖に顔を歪ませながら必死に刀を握り締め。
もう1人は先程の荒々しい雰囲気とは違う、かっちりした装いの剣聖。その手には木刀が握られている。
その2人を、クレイとアレクスは縁側で座り眺めていた。
「しっ、師匠...」
「呑まれるなよ、タンザー、剣を自分の意思で振れないなんて、3流以下だ」
剣聖からは荒々しい口調が消え、静かで鋭い声に変わっている。
「来い」
剣聖がそう言うと、タンザーの手の震えが止まる。
何故なら、剣聖の放つ殺気が、刀の精神汚染を越える程、鋭く、怖かった。
(師匠...本気だ...やばい、死ぬ)
クレイは深呼吸し、自然体で刀を握る。
(この気持ちの悪い刀でもなんでも、使えるものは使わないと)
タンザーの手から刀へ、青白い光が流れ込んだ。




