71.ある鍛冶師の話
「行っちゃった.....」
オニキスとクレイは、一直線で宿に帰るアミィを見送る。
「で、どうゆう事だよ?」
「ん、何が?」
「その剣の素材はなんなんだ?」
クレイが、マナを指差す。
「ああ、話せば長いんだけど....」
実技実習の日、黒い魔力を操るモンスターに出会った事、そこで腕を怪我した事、そのモンスターの素材で義手を作った事を簡潔に説明した。
魔石を埋め込んだ事や、もう体のほとんどがそのモンスターの素材でできている事は隠して。
(なんか、遠い昔のように感じるな)
「そんな事が....」
「そっちは?」
「ん?」
「どうゆう流れでアミィに鍛冶を見せる事になったんだ?」
「ああ、今日の朝いきなり部屋に入ってきて、鍛冶見せろって叩き起された.....」
「ふははは、おもろ、俺もクレイの鍛治興味あるから見せてよ」
「え、あ、ああ....」
クレイはあまり乗り気でないような返事で答えた。
ーーーーーーー
クレイの鍛治は、どうみても集中を欠いていた。
炉に火をいれ、鉱石を叩く、この作業だけを見れば、一見普通に見えるが、よーく聞くと、クレイは小さな声で鼻歌を歌っているのだ。
「ふん、ふ〜んふ、ふ〜ふ、ふふ〜」
「おい!クレイ!」
「ん?」
クレイは顔だけこっちに向けて、手元を見ずに木槌を下ろす。
(こいつ、全然集中してねぇな)
「1回手を止めろ!」
クレイが手を止める。
「クレイ、集中しろ」
「......」
クレイが気まづそうに頬をかく。
「なぁ、もしかしてだけど....」
オニキスの声は低く、明らかに憤怒の雰囲気を醸し出している。
そんな彼は、懐から黒い剣を引き抜き、クレイに向けた。
「この剣も、そんな感じで作ったんじゃねぇだろうなぁ?」
クレイはただ、地面を見つめるだけで、答えない。
「なるほど、できねぇなら、俺が無理矢理集中させてやるよ」
黒い魔力が、剣から溢れ出す、黒い剣をよく見れば、その表面に魔法陣が張り巡らされている。
クレイの脳裏に浮かぶのは、人を操るオニキスの代名詞ともいえる魔法。
「な?!辞めてくれ!、分かった!理由を話すから!」
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6年前。
ちょうどオニキスがこの世界に来た頃の話。
俺達は、ウィンダールと呼ばれる、田舎の少し大きめの村に住んでいた。
村に子供は少なく、それをアレクスと言う、今とは似つかない可愛げのある赤毛の少年が纏め上げており、皆仲良く遊んでいた。
しかし、ある日タンザーが剣聖にその才能を見出されいなくなった事で、この生活は瓦解する。
子供達のまとめ役だったアレクスは剣にのめり込み、自然と、皆それぞれの道へ歩むようになったのだ。
それはクレイも例外ではない。
ある日暇そうに村を散策していた時、変なおじさんに話し掛けられた事がきっかけだった。
「何やってんだ、坊主」
話しかけてきたのは、髪も髭も、全く整えられていない中年だった、しかし、体はまるでボディビルダーのように、筋肉もりもりで、脂肪の少ないバキバキな体をしている。
「んー別に何も」
「暇ならちょっと手伝ってくれや」
「やだ」
「ああん?暇なんだろ?」
「でも、おじさん怪しいし...」
「なっ?!この野郎....はぁ、せっかく最強の武器を見せてやろうと思ってたのに...」
「最強の武器?!」
思わず、声が出る。
しかし、最強の武器なんてそんなロマン溢れる言葉、この年代の子供に刺さらない訳がなかった。
「少しくらいなら、手伝ってあげてもいーよ」
怪しいおじさんはニヤリと笑っていた。
煉瓦造りの大きな建物に入ると、肌を焦がすような熱気に襲われた。
そこには、一際目立つ大きな炉と、忙しなく働く若い人達。
ここは、すこし有名な鍛冶師の工房らしい。
「ねぇ、最強の武器は?」
「ああ、今から作るから手伝え」
そこから俺は、この工房に所狭しと並ぶ魔道具の操作を永遠と手伝わされた。
正直、苦じゃなかった。
手伝い初めてから数日。
「できた」
師匠が、感慨深げに呟くと、周りの手の空いた人達が近づいてくる。
「師匠ー、できたんですか?見せてくださいよー」
「おお、いいぞ」
師匠は、刀身がうねうねと曲がった珍しい見た目の剣。
「フランベルジュですか....依頼されたのは普通の剣じゃなかったでしたよね....また怒られますよ?」
弟子の一人が呆れたように呟く。
「仕方ねぇだろ?こいつがこの形がいいって言ってんだからよ」
師匠はそう言いながら、剣を叩いた。
「..師匠はこの剣の声が聞こえるの?」
「ああ、もちろん」
師匠が豪快に笑う、その顔に嘘は見えない。
「クレイ....剣の声が聞こえるなんて、そんな訳無いだろ...いつもの妄言だ」
ここ数日、良く面倒を見てくれた兄弟子が、そんな事を言う。
「おめぇにはまだ分かんねぇか....」
そう言って笑う師匠は少し悲しそうに見えた。




