70.共振
ぐぅ〜〜
大きな腹の音を出しながら、気だるそうにオニキスは覚醒した。
「ほおわぁぁぁ」
大きな欠伸をしながら、柔らかいソファーから起き上がる。
(ああ、ここアミィの部屋か)
夜、隣にいたはずの少女の姿は無い。
周りを見ても、その姿は無く、それどころか部屋には誰もいなかった。
「あれ?みんなは?」
一人呟くが答えは帰って来ない。
オニキスは剣を握り、魔力を込める。
【おはようございます】
「おはよ、今何時?」
【午前11時48分です】
「マジか、みんなは?」
【分かりません、が、腕輪を使えば分かるのではありませんか?】
オニキスは腕輪に刻まれた魔法陣を覗き込む。
この魔法陣には、位置情報を送る魔法があるが、受信する機能は無い。
(分かんないけど.....)
「マナならできるの?」
【はい】
そんな事が出来るのなら、この世の通信を傍受し放題なのでは?と思ったが、同時に、だからこの世界はいまいち通信技術が発展していないのかもなとも考えた。
オニキスが腕輪から魔法陣を抜き出し、マナへ送る。
するとマナからプロジェクターの様な光が出て、オニキスの前に周辺の3Dマップが浮かび上がる。
そのマップにはおそらくオニキスのクラスメイト達の位置情報が赤い点となってちょこまかと動いている。
「アミィとクレイが二人きりで、人のいない庭にいる...怪しいな......。
ガーネットは、アシュリーと一緒か、以外な組み合わせだな。
姉ちゃんは相変わらずいつめんと試験か....」
どこに行こうか....
まるで、ノベルゲーのような、3つの選択肢。
オニキスは.....
ーーーーーーー
オニキスがその庭に足を踏み入れると、暑苦しい熱波と、大きな魔力の気配が襲い掛かる。
少し奥には、木槌を振るう筋骨隆々の男。
その木槌は魔法でできているのか、半透明で、うっすら茶色い色を帯びている。
そしてそれは木槌だけでは無い。
木槌を打ち付ける金床も、熱を発している炉も、全てが半透明、魔法で出来た工房が、彼の周りを囲んでいる。
「ハイテクなんだか、そうじゃないんだかわかんねぇな」
オニキスはそんな感想を、横で真剣な表情で見ているアミィに吐露した。
「おはようございます、いや、もうこんにちわですか」
「おはよ、なんで起こしてくんなかったの?」
「無理に起こして機嫌損ねたら何されるか分かんないからです」
「俺、アミィになんかしたっけ......」
「冗談ですよ」
そんな軽口を交わし合いながら、オニキスも木槌を振るうクレイを眺める。
「で?何してんの」
「クレイさんの鍛冶の見学です」
「なるほどね、俺も興味ある」
「ですが......集中を欠いていますね」
オニキスはクレイを見るが、普通に見える。
「そうは見えないけど....」
「........」
「アミィが言うならそうなんだろうな」
「休憩にしましょうか、オニキスさん、クレイさんを呼んできてください」
ーー
「今頃起きてきたのか、オニキス」
汗を拭いながら、クレイが近づいてくる。
「おはよ、誰も起こしてくれないんだもん」
「よくあの部屋でそんな寝れるな...」
ボソッと、クレイが呟く。
「なに?ごめん聞こえなかった」
「いや、なんでもない」
「クレイさん、集中してください」
クレイとオニキスの会話が一段落すると、アミィから、鋭い一言が飛んでくる。
「うっ....」
「まあまあ、クレイは、俺の剣作ってくれたばっかだし、疲れてたんでしょ」
オニキスは、どこからか黒い剣を取り出す。
「オニキス....」
「あ、そういえば、相談が.....」
剣を振るった時の違和感をオニキスは思い出す。
「剣に魔力流すと、なんか、腕に違和感があるんだよ」
「え?大丈夫か?」
心配そうに、クレイが慌てている、剣を作った責任があるのだろう。
「ああ、本当にちょっとだけ」
「見せてください」
横から、アミィが口を挟む。
「オッケー」
オニキスは右手で剣を掴み、魔力を流す。
すると、右手の内側の奥底で、カタカタと何が震える様な感覚を覚える。
【オニキスさん、分かったことがー
「魔力の流れが.....魔力を消費して、魔力を生成してる?」
アミィの呟きが、マナの話を遮る。
「オニキスさん、剣を置いてください」
アミィの声に従い、剣を地面に突き刺す。
「少し離れてください」
1、2歩、剣から離れた。
「右腕に魔力を流して見てください」
「え?」
オニキスは、アミィが何をしようとしているのか全く分からないが、とりあえず従った。
右腕から黒い粒子が溢れる。
すると、剣を持っていないのに、腕の奥が、カタカタ、カタカタと動き出す。
そして、離れた剣から黒い魔力が溢れ出した。
「魔力の転送?!」
クレイが素っ頓狂な声で驚く。
「いえ、あの剣が、オニキスさんの魔力を使い、魔力を生成しています」
「離れててもマナが使えるのか、ちょっと便利だな」
オニキスは少しずつ剣から離れていく。
5mはなれたが、共振は止まらない。
「いや、俺は剣にそんな機能つけてないぞ?」
「私もです」
アミィが顎に手を当て考え込む。
「オニキスさんの右手の素材で作った剣なので、おそらく、その影響だと思います」
「は、はぁ、オニキスの右手?!あれは明らかに人の素材じゃ...」
動転するクレイの声を無視し、アミィは何かを考えながら、宿の方へ歩き出した。
「アミィ?帰るのか」
オニキスはその背中に声を掛ける。
が、返事もせず、歩き続ける。
「これを、使えば.、..魔力の、色の違いを、解明できる、かもしれ、ない、」
アミィは誰にも聞こえない声で、ブツブツと呟く。
「ああ、オニキスさんの細胞を培養しておいて良かった.....」




