69.虹の王
ガーネットが悪魔の取引をしていた、同時刻。
月の光の届かない漆黒の森を歩く者がいた。
黒く艶やかな髪を靡かせながら歩く女。
その女を黒い光の粒子が照らしている。
「一、二、一、二、一、二」
まるで運動会の行進のような掛け声を発しながら彼女は歩く。
「一、二、一、二、一、二」
彼女の後ろを着いてくる足音が無数。
暗闇で姿は見えないが、その足音だけでもかなりの数だと分かる。
彼女のかけ声とは全く揃っていない、その音の群れは明らかに人の足音ではなかった。
「一、二、一、二、ぜんたーい、止まれ」
彼女が止まると、足音も止まり、辺りに静寂が訪れる。
そのまま1、2歩、彼女が足を進めると、目の前に大きな穴が現れる。
穴の底には大規模な銀色の封印。
「じゃあみんな、しばらくここで待機」
そう言って、彼女は自分の服の襟を引っ張り、その胸元をさらけ出す。
そこには綺麗な谷間と、真っ黒な石。
彼女がその石に触れると、その石の色が抜け、透明になった。
そんな石と呼応し、彼女と髪の毛の色が変わる。
赤青黄、白、黒、様々な色の混じった虹色の髪に。
「合図するから、それまで大人しくしててね」
彼女が中指と親指を弾き音を鳴らすと、背後にいたおびただしい数の、多種多様なモンスター達が一瞬で姿を消した。
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翌朝、シルバー、メーガン、エメリア、タンザー、アガットは、封魔の勇者、ディアナと一緒に封印の周りをパトロールしていた。
シルバー、タンザーの前衛が先導し、エメリアとメーガン、ディアナが最後尾だ。
「ディアナさん、結界に変わりはありませんか?」
エメリアが周りへの警戒は解かずに、話しかける。
「はい....モンスター、一、二匹がちょっかいを出していましたが、他には何もありません」
「そうですか....」
エメリアが真剣に呟く。
「モンスターといえば、今日は1匹も見かけませんね」
アガットが後ろを振り返って言う。
「うちのクラスメイト達が全部狩り尽くしてしまった....は流石にないか」
タンザーは真剣な様子で顎に手を当て頭を悩ませている。
「あ、あの...皆さんはどうしてここまで協力してくれるんですか?」
ディアナが申し訳なさそうな顔で申告する。
「....それは、、もし、邪神が復活したりしたら、この国、いや、世界が危ないですし.....」
アガットが答える。
「でも、貴方達はまだ子供じゃないですか、大人に任せて逃げた方がいいんじゃ...」
「逃げませんよ、俺は勇者だ」
短く、簡潔に、シルバーが答え、その答えに、ディアナとメーガンは、悲しそうな顔で押し黙る。
少し悪くなってしまった空気を察し、エメリアが口を開く。
「ディアナさんも、邪神と闘った当時は10代だったと聞きましたけど....貴方はなんで邪神と闘ったんですか?」
「え....」
「あ、言いにくいなら、大丈夫ですよ」
「いや、そうね、ちょっと言いにくいんだけど.....」
止まった言葉の続きを、シルバー達は固唾の飲んで待つ。
「復讐よ」
そう言って、ディアナは懐かしげに笑った。
「邪神が暴れ回って、友人がちょっと、ね、」
「ふく、しゅう....」
エメリアが呟く。
「やっぱり、幻滅した?」
ディアナがエメリアに笑いかける。
「い、いえ、そうじゃなくて....」
いつも毅然としているエメリアの動揺に、パーティーメンバー達も少し困惑していた。
そんな周りの目線に耐え切れず、ポロポロと言葉を紡ぎ出す。
「私も、魔王にお父さんを殺されて、復讐しようと思ってました」
「過去形って事は、今は?」
「その、昔言われたんです、復讐なんて楽しくなさそうなのを人生の目標にするなって、人生短いから、そんな事の為に時間使うのはもったいないから、俺と遊ぼって」
「ふふふっ、面白い人ね」
ディアナが花のように笑う。
一方、ディアナとエメリア以外の4人は、オニキスだな、と心の中で呟いた。
「でも、そうね、私もいっその事、復讐だけを目的にして闘ってたら、こんな事にはならなかったかもしれないわね........」
ディアナは自嘲的な笑みを浮かべ、遠い昔に思いを馳せる。
「復讐の為に戦ってたはずなのに、いつの間にか世界の救世主になってて........その期待は私には重すぎた.....だからさっさと終わらせる為に、封印して自滅なんて無責任な結果になってしまった、ごめんなさいね」
ディアナの告白は、シルバー達のパーティーに、重い何かを残していった。
彼らがなろうとしている英雄とは、そうゆう事なのだ。
分不相応な望みの結末を、彼らは知った。
「あ、でも....」
ディアナがエメリアに向けて話しかける。
「初めて邪神をぶん殴った時は、凄く気持ちよかった」
そう言って笑うディアナの顔は、誰が見ても分かる、彼女の心の底からの笑顔だった。




