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LAST GAME〜楽しいゲームの世界に転生して〜  作者: あき
狂気のデスマッチ編
68/86

68.悪のカリスマ

 大きな窓から差し込む月の光で、オニキスは目を覚ます。

 先程までは無かったと記憶しているふかふかのソファーから起き上がると、ベットに、まるで毒林檎で寝かされたお姫様のような佇まいで寝ているアミィと、その隣で横向きで寝ているアシュリーがいた。

「待って、どれくらい寝てたんだ」

「あ、起きたんですね」

 周りに配慮した声で横に立っていたガーネットが話しかける。

「ガーネットか...今何時?」

「1時くらいです」

「まじかよぉぉ、せっかく色々ボードゲームとか買ってきたのに...ババ抜きだけって....」

 オニキスもまた、周りに配慮したい小さな声で涙を流した。

「仕方ない、起こすか」

「だ、ダメですよ!」

 オニキスはアミィを起こそうと、ベットに手を伸ばすフリをする。

「あれ?クレイは?」

「クレイさんは自分の部屋で寝るらしいです」

「そっか、こんな時間だもんね.....あ」

 オニキスは自らの右手に付けられた腕輪を見る。

 腕輪には位置情報を学園に送る魔法が込められている。

 こんな時間まで男女が同じ部屋にいる事がバレれば、どんなペナルティがあるか分からない。


「やば」

「大丈夫です、腕輪の魔法はアミィさんが何とかしてくれました、オニキスさんも部屋にいる事になっているらしいです」

「はぁ、良かった、これで退学とかになったらシャレにならねぇよ」

「そうですね」



「.............」

 会話が途切れ、少し居心地の悪そうなガーネットを他所に、オニキスはぼーっと窓の外を眺めている。

「.......ガーネットは寝ないの?」

「あ、はい、あまり眠くなくて....」

「俺の魔法で寝むらせようか?」

「っ!、お、お願いしてもいいですか?」

 それは、睡眠障害を持つガーネットにとって、希望の言葉だった。


「いいよ、こっちきて」

 隣にガーネットが座ると、オニキスは手の平から魔法陣を組み始める。

(やべぇ、なんか頭回んねぇ)

 寝起きのせいか、謎の液体のせいか、魔法陣の構築に手間取っているオニキス。

 

 一方ガーネットは、いつになく真剣なオニキスの様子に少し見惚れた後。

 手のひらに浮かぶ魔法陣の解析を始める。

「その魔法、ベースになっているのは精神病の治療魔法ですか?」

「まあ、そんな感じーー、あ......」

 少し話に意識を割いた途端、オニキスの魔力が乱れ、ポロポロと魔法陣が瓦解していく。

「あぁ、あ、ぁあ」

 1度崩れ始めた魔法陣はもう、どうすることも出来ない。

 魔法陣はゆっくり空中に融解していき、オニキスは弱々しい声を出しながら魔法陣を眺め続けた。

「あぁ.......」


「ね、寝起きですから、仕方ないですよ...」

 何故か泣きそうなオニキスの背中を見て。ガーネットは慌てて励ます。


「あぁ、ごめん、毎日使ってる魔法をミスるなんて、ちょっとショック」

(しかもこの魔法は....)


「人を操る魔法を、毎日.....」

 恐れに満ちた声で、ガーネットが呟く。

「勘違いしないでよ、一応医療魔法の1種なんだよ?この魔法」

「あ、ごめんなさい!」

「まあ、頭の回転が戻るまで待っててよ」


 そう言ってオニキスは、手から魔力を放出し、魔力を動かし形を作って遊び始める。

 黒い煙を集め、四足の動物を作り上げた。

「見て、わんちゃん」

「犬?ですか、ライオンじゃなくて?」

「これがライオン?今度腕の良い目医者紹介してあげる」

「えぇぇ...」

 一見、子供の遊びのように見えるオニキスの遊びは、この世界の魔法使いにとってはメジャーな準備運動だ。

 

 オニキスは楽しそうに魔力を操り、それを見ているガーネットが少し気まずそうな顔をしている。

「あの、オニキスさん」

「なに?」

「貴方の魔法は....その.....」

 とても言いずらそうにしているガーネットを、オニキスは穏やかな顔で待つ、できるだけ彼女が相談しやすいように、良き理解者のような顔を意識して。

(もしかしてガーネットにも、操りたい人がいるのかな?)

(お父さんかな?確か妹もいたっけ?)


「依存性を治す事って、できますか?」

 それはオニキスの想像していたような提案では無かった。

 ガーネットがポケットから銀色の缶を取り出す。

「私....依存性なんです....」

 オニキスは差し出された缶を受け取り、中を見る。

 そこにはラムネのような錠剤が入っていた。

「ふーん、いいよ、治してあげる」

「いいんですか?」

「うん、この前は悪い事しちゃったし、これのお陰で昨日はよく眠れたしね」

 オニキスは耳に付いているピアスを触り、チャラチャラと音を鳴らす。

「え...着けたまま寝たんですか?」

「うん、俺もうこれ無しじゃ寝れないと思う」

「....今度、寝ながらでも使える物を持ってきますね...」

「まじで?ありがとう」


 オニキスはもう一度、魔法陣を組み上げる。

「ていうか、俺のこの魔法教えてあげようか?」

 オニキスがニヤリと笑う。

「あ、え?」

「黒い魔力無しだと、使い勝手は悪いけど.....使えなくは無いはず」

 

 他人の体に魔法を掛けるのは難しい。

 何故なら、魔力には他の魔力とは決して交わらない性質があるからだ。


 自分の魔力が水なら、他人の魔力は油だ。

 他人の体に自分の魔法を、というのは、油の満ちたコップに、水を垂らすような作業、水は弾かれ、滑り動いていく様子を想像すれば、その難易度が分かるだろう。

 

 スキャンの魔法を掛ける時、対象者が魔力を抑えなければならないのと同じだ。

 なので、人を無理矢理操る魔法は、普通の魔力では不可能な物だった。

 黒の魔力以外では。

 

「人を無理矢理操るのは無理だけど、友達とか、ガーネットを信頼してる人とか、完全に安心しきってる人とかなら簡単に操れるよ」

 いつの間にか、オニキスの顔がガーネットの顔に接近していた。

「そんなの、倫理的に.....」



「ねぇ、ガーネット、君のお母さんは世論に操られ、殺された」

 突然、オニキスの言葉が、ガーネットを刺す。

 ガーネットの喉が引き攣り、呼吸という機能を忘れる。

「父親は母親の死に囚われ、狂っている」


「けど、この魔法があれば、世論を操れる側になれる、狂った人間を取り戻せる」


 ーゲームでは君は、勇者を庇って魔王に殺される。

 ーとても美しく、悲しい、俺のお気に入りシーンだった。

 ーでも、もう見たからいいや

 

「君の望みは、この魔法で叶う」



ーーーーーー

 月の光に照らされた少年が、こちらに手を伸ばしている。

 まるで絵画のような一場面。


 彼の手を取れば救える、父と母と妹を。


ー違う、そんなの私の望んだ結末ではない。

ー国民を魔法で操るなんて....まるで物語の悪役だ。

ーけど........

ーなんて魅力的な提案なんだろう。

 

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