63.信頼
日が登り時間が経った宿の食堂にはもう、オニキスとメーガンの2人だけ、その2人のテーブルには空になった皿が幾つも積み重ねられ、オニキスは膨れ上がった腹を抱えながらフォークを握り締めていた。
「...もう…食えない……」
オニキスが恨ましげに目の前の女性を睨めつけるが、彼女は涼しげな顔で食事を口に運び続ける。
オニキスが大食いする事になって嫌々付き合わされたメーガンだったが、彼女の前にある空の皿はオニキスの倍以上積み重なっていた。
「化け物め…」
「は?私が化け物?」
「ヒッ」
ー【ご主人様、ようやく魔法使いの平均に到達しましたね】
「は、はぁ?」
オニキスのテーブルの前にある皿はかなり多い、前世の世界の平均的な大人でも到底食べ切れる量ではない。
しかし、ここは魔法がある異世界だ。
魔法使いは魔力で世界の法則に干渉する事が出来る、魔法陣によっては1人で村全体の水を供給したり、村人全員に炎を供給する事ができる。
魔力は石油より数倍のエネルギーを生み出す事のできる資源だ、それを人が体内で生み出す。
普通の食事量で生み出せるはずがないのだ。
その事を感覚的に理解したオニキスにある疑問が思い浮かぶ。
おぼつかない足取りで黒い剣を掴み、魔力でマナに直接言葉を刻む。
今までマナに話し掛けていたのを音声入力だとすると、今やっているのはキーボード入力、これならメーガンにバレずにマナと会話が出来る。
ー【マナ、魔法使いがいっぱい食べて魔力をつくるのは分かった、けど俺はそんなに食べなくても明日には魔力がパンパンになってるのはなんでだ?】
ー【オニキスさんの黒い魔力はほかの魔力より高いエネルギーを持っています、つまり、少ない魔力で強力な魔法を使う事ができます】
ー【なるほど、俺の魔力って燃費いいんだ...初めて知った…】
「オニキス?」
突然、剣を握り瞑想を始めたオニキスを怪訝な表情でメーガンが見つめる。
「ああ。ごめん、まさかメーガンに負けるとは思わなくて、少しショック受けてた……俺、メーガンに何もかも勝ってると思ってたから……」
「はぁぁぁぁ、そんな訳無いでしょ!」
「ふふっ、まあ、何もかもは冗談だけどさ、そのくらいの気持ちじゃないと、メーガンとの約束果たせないでしょ?」
「約束?」
メーガンはその約束の内容を忘れていたが、オニキスとは違い、一瞬で思い出した。
「もしかして、オニキスが魔王を倒して勇者になるって話?」
「そうだよ、忘れてたの?」
「忘れる訳ないでしょ!あれは私の......てか、あんたこそ覚えてたんだ、実技試験で1位を目指さないって言った時にもう忘れたのかと思った」
「仕方ないだろ、この島は魔族がうじゃうじゃいるって聞いたんだもん、試験どころじゃないよ」
「....................は?」
突如もたらされた重要事項に、メーガンから表情が抜け落ちる。
その様子を見て今度はオニキスが焦り始めた。
「あれ?まだ会ってないの?」
(ストーリーの進みが遅いな)
タイムリミットのあるオニキスにとってストーリーの進みは早ければ早いほどいい。予想以上の進みの遅さにこれからどう動くべきか、軽く思案する。
「ちょっと!どうゆうことか説明しなさい!」
メーガンが叫が、オニキスは答えない。
「答えて!」
しびれを切らしたメーガンが魔力を纏い右手をオニキスに向ける。
(ストーリーを進めたいが、邪神も見たいしなぁ、勇者側が優位になりすぎないように、かといって出し渋れば危険だしなぁ)
(と、すればどんな情報を与えるか....嘘はバレた時のリスクがなぁ)
オニキスはルナミリエ島についての記憶を片っ端から引っ張り出す。
最初に思い浮かんだのは虹色の髪を持つ女性の記憶。彼女の事はずっと頭の片隅に残っていた。
そこからオニキスの持つ記憶と嘘、推測を練り合わせストーリーを構築していく。
「この島に勇者が来る事を知った魔王軍がチャンスとばかりにここを狙ってるらしい、信頼度の低い情報源だけどね」
滅多に見ないオニキスの真剣な表情に、メーガンも姿勢を正し話を聞く。
「それで少し島を回ってみたけど、魔族は見つからなかったんだ、けど、怪しい人間は見かけた、もしかしたら人間に化けた魔族がいるのかも」
オニキスはこれがいまいち信頼に欠ける情報だとメーガンに示すためにデタラメな情報を付け加えた。
メーガンはそれを真剣に聞き取り、頷く。
「じゃあ、俺この後予定あるから、じゃあね」
情報を咀嚼し、考え込むメーガンを満足そうに眺め、オニキスは食堂を後にした。
メーガンはその遠ざかる背中を不機嫌そうな顔で見ていた。
オニキスがこの島の情報を話し始めた時、メーガンは、信頼されているから話してくれたのではと、そんな淡い期待を少しだけ抱いてしまった。
しかし、オニキスは自分の情報を喋るのみで、メーガンの知ってる情報を聞こうともしない。
それに、彼はこの試験の前から何か情報を掴んでいたという口ぶりだった。
そして気づいた。オニキスは私を信頼なんてしていない、ただ聞かれたから答えただけの機械的な会話だと。
そんな人の情報なんてどこまで信用していいのか分からない。
メーガンの頭がそんな考えを訴えてくる、裏切られたという怒りも同時に渦巻いていた、だが、心が、記憶がそれを否定したがっていた。
ーそれでも私はオニキスを信じたい。




