57.同じ目標、違うアプローチ
レジーナが逃げ出した後、列に並ぶ2人の間には気まずい沈黙が流れていた。
ガーネットは、隣にいるオニキスを見る。
彼は暇そうに、付けたばかりのピアスを弄っていた。
何故だかは分からないが、彼を見ていると彼女は父を思い出す。
繁華街を一緒に歩いた時は昔の父を、レジーナをいじめる姿は今の父を。
私が産んでしまった怪物を。
私は責任を取らなければいけない。
少しでも国のためになる様に、死ななければならない。
「オニキスさん、相談があります....」
意を決したようにガーネットはオニキスへ相談を持ちかけた。
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オニキスがガーネットから受けた相談はこうだった。
ヴァルムシアのために、魔王と戦って死ぬ事。
ガーネットもちょうど死にたいと思っていたからちょうどいい事。
彼女は自らの過去について、恐皇誕生については隠して伝えた。
「なるほどねぇ、アミィ、あいつやべぇな」
「?なんでアミィさんなんですか?」
「......俺達が海で遊んだ時あったでしょ?あの時、アミィが、俺とガーネットが似てるって言ってたんだよ」
納得したように頷きながらオニキスは言うが、ガーネットには分からず、首を傾げる。
「似てる?私とオニキスさんがですか?」
「似てるっていうか、同じ目標を持って生きてるってだけだけど...」
誰に対しても見下した目で、何処か浮世離れし足元の定まっていなかったオニキスが、ガーネットに優しい目を向けた。
それはこれまでのような愛玩動物を見るような目では無く、対等な者、同じ人間に対する目だった。
「少しだけ、俺の話をしてあげる」
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俺の前世は特に何も無い平穏そのものだった。
2026年、日本。
高度経済成長が終わり、科学も人の文化も、生活も、その進化は限りなく鈍化した国。
人類が想像していた未来予想図にいつまでたっても辿り着けない世界、そんな国に、オニキスは産まれた。
人より少し器用だった俺は何事もなくすくすくと育った。
勉強でいい点を取るのも、運動も、友達と遊ぶのも楽しかった。
特別得意な事もないが苦手な事もなかった、なのでこの世にある大体の事を楽しむことが出来た。
それでも、漫画や小説、ゲームなどのフィクション、物語に勝る面白いものは無かった。
特異な世界、特別な環境、特殊な状況、そんな世界を心から愛し、あわよくば自らの身にも起こって欲しい、とにかく何か変化が欲しい、そんなささやかな願いを抱えながら生きていた。
高校時代に天才と出会って、人生が輝いた瞬間はあったが、それはまた別の機会に語ろう。
そんな望みは遂に叶い、オニキスはゲームの世界へ転移を果たした。
その世界は魔法があり、勇者がおり、魔王もいる彼が心から欲したフィクションの世界。
生きているだけで俺の望みは叶う、そんな環境のはずだった。
だが、与えられたのは黒い魔力という枷だった。
使えば使うほど寿命を削られる魔力に、貧弱な身体。
どちらかが違えば......もし、違う色の魔力だったら、もし、魔族の身体があったら、俺は幸せだっただろう。
1番キツかったのは肉体の不調だった。
何を食べても受け付けない舌に、定期的に訪れる身体の不調、精神の不安定。
特に精神の不調は前世では全く縁が無かったのでキツかった。
死にたいと思うようになるまで、時間は掛からなかった。
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「3年くらい前、ベリルさんに余命宣告を受けたんだ」
オニキスの突然の告白に、ガーネットは時が止まったかのように立ち尽くす。
「余命宣告を受けて、ショックはなかった、むしろ生きる活力がどんどん湧き上がってきたんだ、持久走とかでもゴールが見えると力が湧いてくるだろ?その感じだ」
「ゴール....」
「ああ、ガーネット、俺たちのゴール、目標は死だ、その点で俺達は似てると言ってもいい」
オニキスの少し狂気を孕んだ目に、ガーネットは後ずさりする。
「さっき絡んできた女の子、あの子の話、聞いた時どう思った?」
「え...」
「幸せな家庭を持ちたい、だっけ?俺らには命を懸けても決して手に入らない贅沢品だろ?嫉妬しちゃうよね?」
彼の言葉にガーネットは胸に置いた手を握りしめる。
(似てるから同じ目標を立てたのか、同じ目標に向かってるから似るのか)
「確かに似てるだろ?けど、違う所もある、そしてそれは俺のガーネットの嫌いな所でもある」
「ねぇ、ガーネット、どうせ死ぬならできるだけ楽しく、面白おかしく、後悔なく死にたい、そう思わないの?」
オニキスが濁った目でガーネットをじっと見つめる。
オニキスがガーネットを理解できないように、彼女もまた彼の言っている事が理解できなかった。
「魔王に突撃して死ぬとか、勇者も守る為の盾になって死ぬとか、そんなの面白くない」
(もう見たし)
「俺は面白くない事には協力出来ない、ガーネットが面白いシナリオ思いつくまで、絶対死なせないから」
オニキスが笑う、それはまるで主人公を励ますヒロインのような、暖かく包み込こみ、つい釣られて笑顔になってしまうような笑顔だった。




