52.なりたい
「幽霊、会いたかったな....」
オニキスは叫び回った後、立ち上がると、周りが魔法の結界に囲まれている事にようやく気づく。
オニキスがその結界に触れると、その手が結界をすり抜ける。
閉じ込めることを目的とした結界では無いらしい。
「誰かが俺の事を守ってくれたのか?」
「てかここ何処だ?」
森は、朝と夜でその景色を大きく変えており、オニキスは完全に現在地を見失う。
そのままフラフラと宛もなく森を彷徨う。
すると、森にモンスターの咆哮が響く。
その音に向かってオニキスは歩み始める。
近づくにつれて大きくなっていく魔力の気配にオニキスは獰猛な笑みを浮かべていた。
真っ赤な髪の青年、アレクスは森の中で熊のようなモンスター、オルスガルと対峙していた。
その青年にいつもの剣は握られていない。
いきなり襲われたのだろうか。
青年は目の前のモンスターから振り下ろされる爪を体を捻って回避する。
と、ほぼ同時に背後の森からもう一体のオルスガルが襲いかかる。
アレクスはその背後の爪も間一髪、地を這うように身をかがめて回避した。
ギリギリの回避によりモンスターに防御は間に合わない、明らかな攻撃のチャンス、しかし、アレクスは攻撃しなかった。
その後も、アレクスはモンスターの爪による攻撃をギリギリまで引き付けて回避を繰り返し続ける。
いつまでも当たらない攻撃にイラついたのか、頭を使ったのか、オルスガルが両腕を広げ、その大きな体でアレクスにタックルを仕掛けた。
タックルの構えに反応しアレクスは纏っている魔力を一層濃くして、オルスガルの上を跳躍し回避する。
足の踏み場のない空で、体制の整っていないアレクスに向かって黒い矢が1本飛来する。
森の中から最小限の魔力で放たれた魔法に、アレクスの反応は遅れ、咄嗟に腕に魔法の盾を纏ってガードした、バリアに染み付いた黒い魔力が赤い魔力を溶かし、穴を開ける。
「クソ?!魔族か?」
アレクスは急いで何も無い空間から剣を引き抜き、2体のオルスガルを瞬殺する。
そして、矢の出処を見つめる。
「モンスターの攻撃を躱しまくる訓練か?馬鹿だなぁ」
森の中から緊張感の無い声と共に、オニキスが現れる。
「オニキスか、なんであんな所で寝てた?」
「もしかして、寝てる俺を守ってくれたのってアレクス?」
「違ぇよ」
「ありがとう」
「.......お礼は決闘でいい」
「え?」
「俺と戦え」
「えー、やだ」
「あ?なんでだよ」
アレクスはビキビキとこめかみに青筋を立てている。
「だって....俺、アレクスにはあんま興味無いっていうか....勘違いしないでよ?もちろんアレクスの事は好きだよ?でもなぁ、うーん、こうゆうのを同族嫌悪って言うのかなぁ?まあ、嫌悪って程でもないんだけどさ」
オニキスはブツブツと独り言を言い始める。
「お前何わけのわからない事言ってんだ?」
「なぁ、アレクス?お前なら分かるだろ?俺達の共通点をさ」
「共通点?」
アレクスが顔を顰めて悩み始める。
「俺達はどっちも天才じゃないのに、天才の振りしてる所だよ」
オニキスが少し悲しげに呟く。
「ち、違う!俺は天才だ!」
アレクスは強い口調で反論するが、その顔はショックを隠せずにいた。
「お前はまだまだ強くなると思う、けど、俺の予想を超える事は無いだろう。逆にシルバーなんか俺ですらどう成長してくか分からない。あいつは面白いよ」
オニキスが悲しげに、自嘲を含んだ笑顔で語りかける。
「だけど、お前はあの天才達に勝った!」
「まあ、強いと天才はちょっと違うから...」
(俺の場合は高い代償を払ってるし...)
アレクスはショックを受け、立ち尽くしている。
周囲にしんみりとした空気が流れ始めた時、オニキスの脳内に音が鳴り響く。
(もしもしアミィ?どうしたの?)
(今日は用事があるので会えません)
(そっかー、今日は町の方に行こうと思ったのに)
(暇ならガーネットさんの相談に乗ってあげてください、それでは)
ここで通話が終わる。
(え、まだ話したかったのに.....)
「アレクス、用事ができちゃった。ごめんよ凄い暇になったら戦ってあげるからー」
そう言ってオニキスは走り去っていった。
アレクスは黙ってその背中を見送る。
「そうか、どうりで....」
アレクスの頭には、オニキスの台詞が駆け巡っている。
ー強いと天才はちょっと違うー
「違う、オニキス、俺は天才になりたいんじゃない、ただ、強くなりたい、お前や、俺の憧れた英雄達みたいに。
俺達みたいな凡人でも、天才を倒せると、お前が証明してみせた」
次に彼が思い出したのは、タンザーの姿、幼い頃、剣を習って2日で道場の先輩達を圧倒した天才剣士、タンザー。
「タンザーのせいか、俺が天才になりたいなんで馬鹿な夢を見るようになったのは。
俺の目指すべき所はタンザーじゃない、オニキスだ」
アレクスは高らかな笑い声を上げながら、また、次の獲物を探し始めた。




