50.死にたい
アミィが学校で配られた腕輪を覗きながら、宿の廊下を歩く。
腕輪に嵌められた小さな宝石、その中に刻まれた幾つもの魔法陣。
先生の説明の通り、ポイントを集計する魔法と緊急信号を発する魔法が刻まれている。
しかし、それだけでは無い、腕輪の位置情報を何処かへ送る魔法も刻まれていた。
アミィはその何処かへ発信されている信号を読み取り、新たな魔法を作った。
新たなる受信機、それが今アミィが新しく腕輪に刻んだ魔法。
この魔法でアミィは腕輪の信号を盗み見る事ができる。
アミィが部屋をノックすると、中から慌ただしい音が聞こえる。
「え?アミィさん?!、アミィさんがなんで....」
ドアスコープの無い閉じたドアの向こうからそんな声が微かに聞こえる。
中の人物は訪問人の正体を魔法で掴んだらしい。
もちろん透視を防止する魔法は部屋に掛かっているが、それは外から中だけのもの、中から外を覗く魔法は使える。
そして、ゆっくりと開かれるドア。
現れたのは黒と赤の髪の毛の女の子。
肩まで届く長く黒い髪に混ざる赤毛はまるで宝石の様に映えている。
彼女がやつれている顔じゃなければさぞ美しい女の子であろう。もちろん今のままでも幸薄美人ではあるが。
「夜分遅くにすいません、ガーネットさん、少し話がしたいんですけど、良いですか?」
生徒に貸し出された宿は完全に1人用の部屋だった。
ベットも椅子も机もひとつしかない。
アミィは遠慮せずにベットに腰掛ける、ガーネットはその様子に何か言いたそうな顔をするが、何も言わずにカップを取り、魔法で飲み物の準備を始める。
魔法で茶葉の入ったカップに液体を注ぐ。
そして魔法で茶葉を取り出し、ゴミ箱へ捨てる。
そうして出来た紅茶をアミィへ差し出した。
お礼を言いながらアミィが丁寧に紅茶を受け取る。
まるで貴族の様な上品さでアミィが紅茶を口に運ぶ。
アミィがベットへ腰を下ろすと、その長く、艶やかな髪がベットに届く。
キメの細かい白い肌と、しなやかな身体。カップを見つめる冷たい瞳。
ガーネットの脳裏に浮かぶのは、蛇。
「すいません、換気してくれますか?」
アミィがそう言うと、ガーネットは慌てて換気の魔法を使う。
「ドラッグは程々にした方がいいですよ」
ガーネットは驚きすぎて何も言えず、ピクリとも動けなかった。
「い、いや、あれは医療用で」
「まあ良いですそれは」
「え....」
「今朝、ガーネットさんなんか話したそうにしてましたよね?それが気になっただけですから」
長く、艶やかな体躯に絡みつかれ、縛り上げられる様な感覚をガーネットが襲い、呼吸が乱れていく。
ガーネットもアミィも、そこから一言も話す事なく、無為に時間が過ぎていく。
その状態で10分は過ぎた頃、ガーネットが沈黙に耐え切れずに話し出す。
「私は父に命じられた任務により、この学園に入学しました。
その任務は、魔王を戦う事。
そして、死ぬ事です」
適当な嘘で誤魔化そうとも考えたが、アミィの目を見て辞める。
下手な嘘で誤魔化せれる人では無いと、彼女の直感が警告していた。
「なるほど....平和が好きなお姫様がこの国の為に死ねば、この国に対して色々有利に交渉出来るという事ですか.....
いかにも恐王が考えそうな事だ」
期待していた話とは違ったらしいくアミィがつまらなそうに答えると、ガーネットが驚きで目を見開く。
恐王の考えを一瞬で見抜いた事と、恐王に全く物怖じしないその物言いに。
「え、ええ、だから魔王を倒す者の仲間にならなければ行けないんです」
「急ぐ必要は無いんじゃないですか?軍に入れば嫌でも魔王と戦う事になりますよ」
「父は、魔王が本格的に戦いに出てくるのは3年後だと予想しています、3年後に最前線に出るには勇者の近くにいなければなりません」
「3年後ですか、私の予想とも同じです。オニキスさんは違うみたいですが」
「え....」
「まあ、そうゆう事情でしたら、オニキスさんと一緒にいればいいですよ、薬の事も彼に相談してみるといいですよ」
そう言ってアミィが立ち上がり、部屋を出ていこうとする。
「なっ?!ちょっと待って...」
ガーネットが呼び止めるが、彼女は止まることなく出て行った。
アミィは廊下で大きなため息をつく。
「はあ、なるほど、似てるはずだ」
腕輪の魔法を発動すると、クラスメイト達の位置情報が空中へ浮かび上がる。
アミィはその点の1つを見て、笑う。
「オニキスさん、こんな時間まで何やってるんでしょうか?
あんまり遅くまで遊んでると、幽霊が出ますよ?」




