5.今作の舞台は..
大昔、この世界の全ての種族が争う大きな戦争があった。
その世界が滅びかけるほど大きな戦争は、『種族戦争』と呼ばれ、その傷跡は今も世界中に残り続けている。
そんな戦争で一気に大国へ成り上がった種族がいた。
魔族である。武力の世界になって魔族は水を得た魚のように無双し始め、世界にその黒い魔力の恐怖を植え付けた。
いよいよ魔族に手がつけられなくなってきた頃、ある平和好きな王が言い出す。
「この戦争は魔族が悪い、この戦争のきっかけも、ここまで戦火が広がったのも、全て魔族のせい、罪を償わせてこの戦争を終わりにしよう。」
実際はもっとオブラートに包んでいたけど、その内容はこんなもの。
それから魔族は世界の敵になった。
ほとんど全ての種族はそれに従い、平和の為に戦った、戦争中は魔族の味方だった国さえも。
魔族の広大な土地、金、もの、人、全てを蹂躙し、仲良く分け合ってようやく、世界は平和の道を進み始めた。
魔族を犠牲にした気持ちの悪い平和の道。
そんな平和を楽しむ人々を咎めるように。
今、魔王が復讐に現れた...
「これが世界の歴史、今日まで続く黒い魔力差別の歴史」
ベリルはそう話を締める。エメリアは初耳なのか、ショックを受けている様子だ。
「そして、次の魔王の標的はこの国よ」
「....どうしてここなんですか?」
「..これは推測になるんだけど、この国の王が優秀すぎるから、かな?」
『黄金の王』帝国の王は代々その特徴的な魔力から、そう呼ばれている。
今代の黄金の王は近年最も平和に貢献した王として、世界に尊敬され、また、世界で最も影響力を持つ人だと言われている。
「魔王は気付いたのよ、この国を倒したり、弱体化できさえすれば、また種族戦争が起きるかも知らないって」
平和好きな王が作り出した不安定な平和はそんな少しのきっかけで崩れてしまうほど、ガタが来ていた。
「そんなこともあって、この国は今世界中から、平和を求める強者が集まっているわ、
そしてそれは学園も例外じゃない、例年に比べて今回の入学試験はかなりレベルが高くなることが予想されるわ」
ベリルはオニキスの方を見る。
「さらに黒い魔力への差別は魔王の登場によって再燃している、それだけでも貴方には厳しい試験になる...」
「なるほど。魔族の仲間だと思われるでしょうしね」
ベリルの顔が罪悪感に染まる、最初、オニキスを疑っていた事を思い出しているのだろう。
(一応聞いておくか)
「魔族と俺の見分け方はあるんですか?」
「え?ええ」
ベリルが胸元のボタンを外し、谷間のあたりを指さす。
「魔族は大体この辺に魔石が付いてるから、この辺を見れば分かるわ、あと耳が長いわね、それ以外は..あまり変わらないわ」
オニキスは紳士なので目を逸らす。
「それで、オニーは学園に行けるの?いけないの?」
エメリアが呆れ顔で言う。
「可能性はある....一応完全実力主義を謳っているからね、この国に益があると思わせる事ができれば.....
そのためには中途半端な結果じゃだめ、成績トップを狙えるくらいじゃないと....」
ベリルが難しい顔をしている。
しかし、オニキスは笑っていた。
(元から目標は1番だ、ちょうどいいじゃないか)
「どうすれば1番になれますか?」
オニキスの言葉にベリルは目を丸くしている。
「分かってるの?学園でも、下手したら試験でも辛い思いを、することになるのよ?」
「これまでと一緒ってことですよね?」
ベリルは悲しげに目を伏せている。
「.....分かった、私が1番にしてあげる、わたしの事は師匠と呼びなさい」
ベリルが快活な笑みを浮かべて答える。
(親子だなぁ)
話を終わったのを感じとり、エメリアが部屋から出て行く。さっきの話を聞いて思う所があるのだろう。
「私はこれから準備するわ、訓練は明日からね」
「あの、ありがとうございます、これからお願いします。師匠」
ベリルは微笑んで部屋を出て行く。
部屋はオニキス1人になる。
(エメリアでも探しに行くか)
部屋出て、あてもなく屋敷を散策する。
体外に意識を向けると魔力の熱をあちこちに感じることができる。廊下の明かりなどからも微かに感じ取れるが、魔法を使っていない人からは何も感じない様で、エメリアの居場所は分からない。
使用人らしき者からエメリアの場所をそれとなく聞きながら彷徨い、ようやくその姿を見つけることができた。
テラスのような所で、彼女は外の景色を眺めている。
(絵になるなー、ずっと眺めていたい)
「エメリアー?何してんの?」
「ああ、さっきの話を思い出していた」
そう言ってエメリアは悩みながら黙り込んでしまう。
「...オニーはどう思う?」
「魔王のこと?もちろん同情してるよ」
「....私の父は魔族に殺された、だから復讐がしたいんだ、だから強くなるために学園に行こうって...
だけどそれはたぶん魔族も同じだ...
なあ?私のやろうとしてることはだめか?」
「えー、そんな事で悩んでるの?」
「は?」
エメリアが驚きこちらを見上げ、ようやくオニキスと目が合う。
オニキスはこのままじゃ彼女が悪い方向に行く気がした。
しかしそんな彼女に掛けれる適切な言葉をオニキスは知らない。
「俺は自分が楽しければそれでいいからなぁー、エメリアも復讐が楽しかったらやればいいよ、俺は楽しそうだとは思わないけど...多分魔王も平和好きな王もそんな感じなんじゃないかな?」
エメリアは魔王に会ったことがない。
しかし彼女はオニキスを魔王みたいだ、と思った。
「エメリアと学園に行くのはきっと楽しいよ、だから来て」
オニキスはエメリアに手を差し出す。
「それに、強くなきゃ復讐も倒すも助けるもできないんだし、強くなってから考えるのでもいいんじゃない?」
それはもちろんエメリアの求める答えではなかった、しかし、彼女はオニキスについて行きたいと感じてしまっていた...
エメリアがオニキスの手を取る
「いいの?私がいたら1番取れないよ?」
エメリアが笑う。
ここまでがオニキスのプロローグ
ここからオニキスの、文字通り、最後のゲームが幕を開ける。