49.志、或いは、誓い。
オニキスが去り、静けさを取り戻した後、シルバー達のパーティは飛行魔法の練習を再開した。
その間、タンザーが落ち着かないように、チラチラとエメリアを見ている。
「どうかしたのか?タンザー」
落ち着きなくゆらゆらと揺れる金髪がウザったくて、耐えられなくなったシルバーが話しかける。
「あの、エメリアさんとオニキスさんってどうゆう関係なんですか?」
タンザーがおずおずと質問する。
シルバーは野暮な事聴くなぁって顔を、アガットはワクワクの隠し切れない顔、メーガンは少し複雑そうな顔をしている。
「ふふっ、恋人に見えた?残念だけど姉弟だよ」
「姉弟?!じゃあ双子なんですか?」
アガットが驚いて声を上げる。
「いや、養子ってやつ、血は繋がってないよ」
「なるほど、彼も英雄に育てられたのか、道理であんなに強い訳だ....」
タンザーがしみじみと呟き、エメリアが少し恥ずかしそうに頬を掻く。
「もしかして、タンザーさん、英雄のパーティのファンですか?」
アガットがそう言うと、タンザーの顔がみるみる赤くなっていく。
「う、うん」
「えー!私もなんです!誰が好きなんですか?私はもちろんベリルさんです!」
アガットはエメリアの方を見ながら言い、エメリアは困惑しながらお礼を言っている。
「僕は....その、無名の剣士が....」
近年最も人を救ったと言われているハンター、英雄のパーティメンバーは、多少の入れ替わりや増減もあるが、特に有名なのメンバーが4人がいる。
深緑の治癒士 ベリル。
轟雷の戦士 グロウ。
蒼天の魔法士 セシリア。
無名の剣士 その名の通り、有名なのに名前の知られていない男。
彼の名前が知られていないのは人づきあいが苦手で、名前を売るのに興味が無いからだ、と言われている。
「無名の剣士さん、王道ですよねぇ、お金を得ることや名前を売ることに興味の無い英雄、かっこいいですよねぇ」
アガットが腕を組み、しみじみと呟く。
「僕が母のお腹の中にいた頃、僕達の故郷を彼に助けて貰ったらしいんだ、あんな風になれって、よく言われたなぁ」
タンザーの声に熱が籠り、その目がキラキラと子供のように光る。
彼にとって、無名の剣士は勇者より身近な分強い憧れや羨望になっていた。
「タンザーさんの目標なんですね...」
アガットは彼に微笑ましい笑顔を向け、タンザーがまた、赤面する。
「俺だけじゃない、アレクスとクレイだって...」
タンザーが照れながら言う。
「ふふっ、無名の剣士さん、もう名前聞きませんね、今何してるんでしょうか....」
アガットがエメリアを見ながら言う。
「私も知らない、お母さんもうパーティメンバーと会ってないみたいだし」
「そうなんですねぇ。
シルバーさんとメーガンさんは憧れの人とか目標とかあるんですか?」
英雄のパーティに詳しくないので話に入れない2人に気を使って、アガットが話し掛ける。
「俺のは憧れの人とかは特にないな、目標は...魔王を戦う事だ」
期待していた答えと少しズレている彼の回答に、アガットが苦笑いを浮かべ、メーガンは悲しそうな顔をする。
「戦う事?...倒す事じゃなのか...」
タンザーの小さな呟きは、風邪で揺れる木々の音に掻き消され誰の耳に届く事はなかった。
「メーガンさんは?」
「私の目標は多くの人を救う事ですね....エメリアさんのお母様ももちろんお慕いしております」
メーガンがお淑やかな笑顔をエメリアに向ける。
「い、いや、お母さんなんて今はちっちゃいクリニックだし、聖女様には敵わないよ...」
エメリアは明らかな照れ隠しで否定する。
「そんな謙遜する事ないですよ、回復魔法の腕はもちろん、戦争孤児や医療団へ多額の寄金をしてるじゃないですか。
私なんかとは比べ物にならないほど沢山の人を救ってらっしゃいますよ....」
メーガンの反論には、ベリルを持ち上げるというより、自分を卑下するニュアンスが含まれており、メーガンも少し悲しそうな顔で落ち込んでいる。
周りもその空気を感じ、微妙な空気が流れる。
「な、なんて言うか、目標とか聞くと、その人の人となりがある程度分かるよね!」
今度はエメリアが、微妙な空気を振り払うように明るく話題を振る。
「そうだね、僕の師匠も目標は大事だって言ってたよ」
「タンザーさんの師匠って剣聖様ですよね?!凄いです!」
「そうだよ、師匠は志が人を強くするって言ってた」
「....そうだ!私達のパーティも目標作りましょうよ!こんなに安全な状況で実戦経験詰める機会なんてそうありませんからね、目標があった方がもっと強くなりますよ!
私達、その為にパーティ組んだんですから!」
アガットが拳を握りこみ立ち上がる。
何故このメンバーで今回の試験を戦う事になったかと言うと、シルバー自ら彼等をスカウトしたからだった。
目的は強くなる為。
自分を高めるためのヒントを求めて。
自分の持っていない物を見て、学ぶため。
そして、スカウトされた仲間達も、共感し、同意し、信頼した。
みんな脳裏に黒魔力の男が焼き付いていたのだ。
「パーティの目標か、試験で1番になる、は簡単過ぎて目標にならないだろう」
シルバーは当たり前の様に言って退ける。
「簡単か?オニキスとアレクスがいるぞ」
「オニキスはやる気ないみたいだし、アレクスも大丈夫だろ」
「そっか.....」
タンザーが少し悔しそうに呟く。
「全員オニーより強くなるっていうのは?」
エメリアが挑発的な笑みを浮かべる。
「いいね」
間髪入れずに、シルバーが答えた。




