46.ときめきとざわめき
オニキスとアミィは、ベンチの上でチェスを打っていた。
暇だからとアミィが魔法でチェス盤と駒を創り出した物だ。
「そういえば何の本読んでたの?」
オニキスはアミィの隣に置いてある閉じた本を指差す。
アミィがその題名もない本をオニキスに手渡す。
オニキスがページをペラペラと捲り。そのページいっぱいの文字の羅列を見て顔を顰める。
「あー、ダメだ目が疲れる」
オニキスは本と目を閉じ、アミィに返した。
「あらすじ教えて」
「種族戦争の時の医療班の記録です」
(なーんだ、物語じゃないのか)
「へー、面白い?」
「面白いですよ、学校の禁書の棚にありました」
「禁書?じゃあダメじゃん」
禁書と聞き、オニキスの目が少し輝く。
「禁書と言っても完全に禁止されてる訳じゃないですよ?
ちゃんと学校の適性検査に合格すれば読めます」
「へー、俺も受けてみよっかな」
「オニキスさんはやめておいた方がいいと思います」
「え?なんで?」
淡々と駒を進めながら、アミィが答える。
「適性検査で見られる事は、主に2つ。
禁書にある強い思想に影響されない自我を持っているか。
禁書にある倫理観に欠ける実験に影響されないしっかりとした道徳心を持っているかです」
アミィが無表情でオニキスを見つめる。
「俺にそれが無いって言いたいのか...
ってか倫理観で言ったらアミィの方がないでしょ!」
「私は人の感情を研究してるんですよ?試験官の求める答えを推察するのなんて1番得意な分野ですよ」
アミィがドヤ顔で答える。
(かわいい)
「そのムカつく顔やめろ。
それで?その本の何が面白かったの」
アミィがドヤ顔をやめ、本をペラペラと捲る。
そしてあるページで止まると、それをオニキスに見せつける。
「世界中で苛烈を極めた種族戦争。多くの怪我人、死体が出たこの戦争は医者や研究者にとって最高の資料の宝庫でした」
(うわー、あんまり聞きたくないな)
オニキスは嫌な予感を感じ生唾を飲み込む。
「その資料の中に、『魔力と性格の関係』について言及してる物があったんです」
アミィの目がオニキスを覗き込む。
「タイミングがいいね、俺が研究について聞いてくるのが分かってたみたいだ....」
オニキスの頬が少し、恐怖で引き攣る。
「種族戦争という大きな戦いによって、その悲惨な戦場で病んでしまった人が多く出ました。
そして、その中に魔力の色が変化した人がちらほらいたんです」
アミィはオニキスの問いかけを無視して話を続ける。
「その事象について、多くの研究者が性格の変化によって魔力が変化した、という仮説を打ち出しました。
しかしまだ誰も証明できてません」
話ながらアミィの顔がどんどんオニキスに近づいてきて、遂に、息のかかる所まで到達した。
「オニキスさんの魔法なら、人の性格を変えることができますよね?」
オニキスは耳元の悪魔の囁きを、振り切るように立ち上がる。
「おい!倫理観は、どうしたんだよ」
「?アシュリーさんにはやったじゃないですか。
あれをもっと色んな人にやって欲しいだけなんです」
アミィがオニキスの手を握り、上目遣いでお願いする。
(かわいい)
オニキスは揺れる心を振り払うように頭を左右に振る。
「アシュリーは脳内麻薬みたいな奴で気持ちよくしてあげただけで、性格はいじってないから!」
誘いに乗らないオニキスを見て、アミィは興味を失ったようにチェス盤に目を向け、駒を動かす。
「詰みですよ」
「え?」
オニキスが驚いて盤面を凝視する。
彼には何処が詰んでいるのか分からなかった。
「俺よりずっと先が読めてんのか、こりゃ勝てないな。
......アミィ、将棋知ってる?」
「いいえ?知りません」
アミィの答えを聞き、オニキスが悪い笑みを浮かべる。
「よし、将棋やろう!」
ーーーーーーー
ガーネットは眠い目を擦りベットから起き上がる。
恐らくクラスメイトで1番遅い起床だろう、しかし、彼女達のパーティーは試験に意欲的には取り組まないという方針なので、未だにノンビリしている。
彼女は引き出しから魔法薬を取り出し、呷る。
口の中は苦味に支配され、鼻腔には薬品の匂いが広がり、猛烈な吐き気が襲う。
必死に口を抑え、戻しそうになる喉を必死に抑えた。
この世界の回復薬は体の治癒力を高める事で傷を治という物だが、その効果は傷だけに限らず、疲労まで取ることができる。
その為、眠気取りにもよく使われた。
回復薬の効果か、その強烈な味のせいか、完全に目を覚ましたガーネットは腕輪に触れ、中の魔法陣を見つめる。
今日こそ、会いに行かなければならない。
ガーネットが諦めの表情を浮かべながら、朝の支度を始めた。
部屋を出て、宿の外へ向かう。
途中で通ったレストランはもう片付け終わっていた。
お腹は空いていたが、仕方がない。
そのまま宿の外へ出た。
宿の近くにある公園に向かうと、アミィとオニキスがベンチに腰をかけ、話している。
ガーネットがそのベンチに近づくと、オニキス気づいて目を向ける。
オニキスに見つめられたガーネットは、その体を硬直させた。
ガーネットは思い出す、恐皇の目を、優しさを感じる瞳だが、決して親しみでは無い、まるで愛玩動物を見るような目が、父親、ヴァルムシアの王とよく似ていた。
引き起こされる父親の恐怖に、心臓が跳ねる。
「おはよー、ガーネット」
何となく元気の無いガーネットを励ますようにオニキスが愛想良く笑う。
そのゾッとする程綺麗な笑顔に、ガーネットは目を離せなくなる。
(違う、オニキスさんはお父様と全然違う、お父様はこんなにイケメンじゃない!こんな爽やかに笑わない!)
ガーネットが心の中で唱える。
「お、おはようございます!」
ガーネットは1呼吸置いて挨拶し、冷や汗を拭いながら逃げる様にその場から去った。




