40.オニキスの魔法、選択
清潔なベッドの上に寝転がる。
程よい柔らかさのマットレスが眠気を誘うが、目をつぶっても眠れない。
少しして、ジリジリと頭の中に、私を呼ぶ音が鳴り響く。
私はその音に向かって魔力を伸ばし、繋げる。
『宿の前の公園に来てください』
繋いだ途端、アミィさんの声が頭に響く。
『分かりました』
すぐに支度をして部屋から出て、ロビーへ。
「ガーネット」
私を呼ぶ声の方向を向くと、玄関で私のパーティメンバーの女の子が待っていた。
茶髪で綺麗な女の子だ。
2人で公園に向かって歩く。
「余計な事喋ったら殺すから」
彼女が不機嫌そうに私にだけ聞こえるように呟く。
「わ、分かりました...」
「ッチ、なんで私がこんなゴミと...」
彼女は私をイジメる集団にギリギリ属している女の子だ。
そのせいで、私のパーティメンバーという厄介事を押し付けられている。
恐らく周りに流されて集団に属している子なんだろう。その証拠に、私に直接手を出された事は無い。
恐らく根は優しい子だと思う。
今はイライラしてるけど、気持ちは分かる。
私も公園のベンチに近く度に、足が震え、胃を掴まれるような感覚に襲われる。
これから私が会う人はそれ程までに恐ろしい人だった。
でも、私の役目を果たすには、絶対接触しなければならない人。
ーーーーーーーーーー
2人組の女の子がベンチに辿り着く。
さっきまで不機嫌そうだった女の子が取り繕った笑顔で挨拶し始める。
「アシュリーです!よろしくお願いします!」
茶髪の女の子が綺麗な笑顔をオニキスに向ける。
そして、アシュリーが隣の気弱そうな女の子を見る。
「ガーネットです、よろしくお願いします」
死んだような目をした赤黒い髪の女の子がそう挨拶した。
(ガーネットか....これで俺の知る味方陣営のキャラは全員出揃ったな)
「よろしく、ガーネット」
オニキスが手を差し出し、それを彼女がおずおずと握り返す。
オニキスの目に少し涙が溜まる。
(ああ、ガーネットの死亡シーンは今思い出しても泣けるなぁ)
「あの...よろしくお願いします!」
アシュリーもオニキスへ手を差し出す。
「ああ、よろしく」
オニキスがアシュリーの手をしっかり握り、笑顔を返す。
とても綺麗で怖い笑顔だった。
「隣座りなよ」
アシュリー大人しくオニキスへ従い隣へ座る。その間もしっかり手は握ったままだ。
「それで?なんでガーネットをイジメるの?」
オニキスが突然そんな事を言い出すと、ガーネットの肩が跳ねる。
「....彼女がヴァルムシアのお姫様だから」
アシュリーが生気の無い顔で答える。
「ヴァルムシアって?」
オニキスがアミィを見る。
「この国の北にある国です。大昔はかなり栄えていたんですけど、色々あって衰退した国です」
「それがなんでイジメる理由になるの?」
「恐皇の子供だから」
アシュリーが口を挟む。
「恐皇?」
「今のヴァルムシアの王、ルガード・モルゲンがそう呼ばれてます」
アミィが補足してくれる。
「なんで?」
「外交と情報戦が恐ろしい程優秀な王で、滅亡寸前のヴァルムシアを恐怖の対象に変え、誰も手の出せない爆弾に作り替えた王です。
今の魔王が現れなければあの王が魔王と呼ばれていたと言われています」
「なるほどねぇ、嫌われちゃってるんだ、その国」
オニキスが納得したように呟き、クレイが不愉快そうな表情を浮かべる。
(ゲームじゃそこまで明かされなかったなぁ、本当なら勇者が助けてあげる筈だけど....)
オニキスがアシュリーの肩に手を回す。
「じゃあもうガーネットをイジメるのやめてくれる?」
「分かりました...」
虚ろな目をしたアシュリーが抑揚のない声で答える。
「ありがとう、ご褒美あげる」
オニキスがアシュリーの頭に触れ、魔法を使う。
すると、アシュリーの身体が弛緩する。
彼女の頭がぐらりと揺れ、目の焦点は合わなくなる。
やがて彼女の顔は恍惚とし始め、身体がビクビクと波打つ。
「オニキス....何したんだ、、」
クレイが少し恐怖の表情を浮かべる。
「なるほど、貴方の人を操る魔法は、意識や思考を操るものではなく、神経系に作用するものなんですね」
アミィの透き通るような目がオニキスを貫く。
「....まじかよ、魔法陣も見ずにそこまで分かっちゃうんだ...」
オニキスは驚きを通り越し、ドン引きの表情を浮かべる。
(頑張ってあれこれ偽装してるのに...)
「完璧に操れる訳でもなさそうですね、これならギリギリ違法ってとこでしょう」
「違法って、ダメだろ...」
クレイが最もな事を言う。
「まあ、いざって時は記憶を操ればいいからさ」
オニキスが意味深な笑顔でクレイを見る。
クレイの顔がだんだんと恐怖に変わって行き....
オニキスが堪えきれずに大笑いする。
「冗談だよ、そんな使い勝手のいい魔法じゃないから」
クレイもガーネットも何も言えずに黙り込む。
「じゃあ、皆揃ったことだし、遊びに行こーぜ」
オニキスが立ち上がる。
誰からも返事は無い。
「アシュリー!」
オニキスは仕方なく惚けているアシュリーを起こす。
「は、はい!」
「みんなで遊び行こ」
「そうですね!行きましょう!」
アシュリーが幸せそうな顔でオニキスを見る。
オニキスがポケットから、受付で貰ったこの島の地図を取り出す。
「ここいいじゃん」
ーーーーーーーー
オニキス達のパーティは山の中を歩く。
しばらく歩き続けると、木々が無くなる。
視界に飛び込んで来たのは、真っ白な砂浜と青い海。
オニキスの記憶にあるどの海の景色よりも綺麗な海だが、周りには人っ子一人居ない。
オニキスは服を脱ぎ始める。
「オニキス、水着持ってきたのか?」
「いいや?」
そういいながらオニキスは服を脱ぎ続け、遂にパンツに手をかける。
「お、おい!裸で泳ぐ気か?!」
「おいおい、そんな訳ないだろ...」
そう言ってオニキスがパンツを脱ぐ、クレイが急いで女性陣から局部を隠し、ガーネットとアシュリーは慌てて目を瞑る。
アミィは無表情でガン見しているが。
しかしオニキスの局部が人の目に晒される事はなかった。
オニキスの腰の周りには黒い海パンが履かれていたからだ。
「もしかして、それ魔法か?」
仄かな魔法の気配を感じ取ったクレイがまじまじとオニキスの海パンを見つめる。
「そうだよ、皆にも掛けてあげるよ」
「お前、なんでわざわざそんな魔法覚えてるんだ...」
クレイが頭を手で抑え、心底呆れたように呟いた。




