34.やり直し
オニキスが石畳で作られた決闘場に上がる。
対面には、真っ赤な火の粉を纏うアレクスと、プラズマの様な青白い粒子を纏うタンザーがいる。
オニキスも不敵な笑みを浮かべ、身体を強化する。
バリバリと音を立てて、オニキスの身体から、真っ黒な光の粒子が溢れ出る。
(この体....魔力が吸い取られて行く...)
オニキスの準備が完了したと勝手に感じ取ったアレクスが、開始の合図を待たずに、オニキスに接近を始める。
「死ねぇえぇぇぇぇ」
真っ直ぐ疾走してくるアレクスを、リズムゲームのようにタイミングを合わせ、オニキスが蹴り上げる。
オニキスの蹴りを片手でガードしたアレクスはその予想外の威力に、吹き飛ばされていく。
予想外だったのはアレクスだけではない、オニキスも自分の蹴りの威力に驚いていた。
「クッッ、痛ってぇ!」
オニキスの脛から血が流れる。それだけじゃなく、膝にも痛みを感じる。
「アレクス?!大丈夫か!」
タンザーが離れた所から魔法を組み上げる。
剣が使えなくなったタンザーの希望だったもの。
これまでの研鑽を見せつけるように、大きな魔法陣が幾つも浮かび上がる。
タンザーの足元から電流が走る。
大規模な魔法陣に対して、小さくて早い魔法に、オニキスは捕まってしまう。
電流がオニキスの足を伝い、動きが麻痺する。
そして、オニキスの上から、大きな雷撃が降り注いだ。
「やったか?!」
タンザーが勝ちを確信する。
だが、そこにオニキスの姿は既にない。
オニキスは雷撃から離れた位置にいる。
「あそこからどうやって避けた?!」
タンザーが戸惑っている。当然だ、避けられないようにわざわざ下からの電流で足を止めたのだから。
ー防ぐならまだしも避ける?ありえない?!
困惑して立ち尽くしているタンザーと同じように、オニキスもまた、立ったまま動かない。
そしてオニキスが、少しよろけて膝をついた....
オニキスはただ、上から落ちてくる雷撃を、全力の身体強化で避けただけだった。ただ、それだけで落ちてくる雷撃よりも早く動き、回避を可能にした。
しかし、その強すぎる強化に、身体が悲鳴を上げていた。
関節は軋み、心臓はその鼓動を激しくする。オニキスの顔は、酸素が足りていないのか、少し紫色になり、彼は必死に肩で息をしている。
(なんで?こうならないように身体を改造したのに?!)
オニキスはとにかく、アレクスとタンザーの追撃を警戒して、牽制用の遠距離魔法を組み上げる。
オニキスの周りに魔法陣が浮かび上がり、ギチギチと音を立て、崩壊した。
ーーーーー
この世界の魔法は魔法陣に魔力を流す事で成立する。
この時、魔法陣に魔力を注げば注ぐほど魔法が強くなるという事はない。
各魔法には、それぞれ最適な魔力量がある。
今回のオニキスの魔法は、魔法陣が必要としている魔力を大きく超える魔力を注いでしまった事で、魔法陣そのものが壊れてしまった。
(なるほど、おかしいのは身体じゃなくて、俺の魔力操作か)
オニキスの推察は当たっていた。 車で例えると、アクセルペダルがゆるゆるになってしまい、細かい調節が出来なくなっている状態だ。
オニキスは自らに掛けている強化を解き、もう一度やり直す。
身体に纏わりついている魔力の量はかなり少ない。
(まあ、原因は分かったんだ、今から魔力操作のコツを掴んでやるよ....)
オニキスが不敵に笑った。
片手で頭を押さえならが、アレクスが起き上がる。
「クッソ!一瞬、気を失ってた、この俺が?」
アレクスは雄叫びを上げながら、もう一度オニキスへ飛びかかる。
オニキスは後ろ足に力を入れ、アレクスの攻撃を牽制のジャブを入れながら躱す。
オニキスの身体能力は平凡、いや、それ以下で、後退しながら何とか戦うので精一杯だ。
「なんだてめぇ、舐めてんのか?」
繰り出される牽制に力が入って居ないのを、アレクスは見抜く。
(少しずつだ)
瞬間、オニキスは魔法の気配を感じる。
横に回り込んだタンザーがオニキスを狙って魔法を放とうとしている。
青白い矢がオニキスに向かって放たれる。
しかし、オニキスはアレクスの身体を盾にするように回り込んでおり、矢はアレクスの肩を掠めて行く。
「っつ!てめぇ!邪魔すんな」
「邪魔?簡単に逃げられたアレクスが悪いんだろ?!」
「なぁにぃ?」
アレクスが完全にタンザーとの口撃に夢中になってしまう。
オニキスは、そのがら空きの鳩尾につま先をねじ込んた。
「無視しないでよ」
アレクスが、効いてないぞと言わんばかりに剣を振り反撃するが、その剣は明らかに鈍い。
「なんで一人の時より弱くなってんだ?お前ら」
オニキスが呆れたように呟きながら、アレクスの雑な攻撃にカウンターを合わせてぶん殴った。
オニキスの平凡な身体強化から放たれたとは思えないキレのある拳に、脳を揺らされたアレクスは床に沈んだ。
オニキスが感情の抜け落ちた顔で、次の相手を見つめる。
「少しずつ」




