30.残念でしたー
アミィ、オニキス、タンザーは、学園の地下にある、誰も居ない訓練場に来ていた。
「よく借りれたね」
「いいえ、空いていたので勝手に使うだけです、許可は取ってないので、バレないでくださいね?」
この人は何を言ってるの?っと言う顔でタンザーがオニキスの顔を見る。
(俺もわかんない...)
「では、タンザーさん、オニキスさんと手を繋いで下さい」
先程とは違う催眠術の手順にオニキスは首を傾げる。
「ちょっと待ってよ、アミィ?何するの?」
「いいから、やってみてください、タンザーさん、早く」
「ちょっと...せめてどんな魔法か教えてくれないか?」
「そんな危険な物じゃありません、オニキスさんを助けて上げて下さい」
アミィは無理矢理タンザーの手を取り、オニキスの手と結ばせる。
そして、アミィがオニキスの肩をトントンと叩く。
すると、オニキスは無意識に魔法を発動し、タンザーの体から力が抜ける。
「出来た.....」
オニキスにもどうやったかは分からない。しかし、アミィに肩を叩かれた瞬間、オニキスの頭に魔法陣が浮かんだ。
「成功してたのか...可愛くないヤツめ」
オニキスの悪態にアミィはドヤ顔で答える。
(あ、やっぱ可愛いかも)
「じゃあ私はこれで失礼します」
アミィはまた、スタスタと教室を出ていってしまった。
またしても困惑する2人が残されてしまった...
ーーーーー
残されたオニキスはタンザーに記憶障害云々の話を簡単に説明しておいた。
「ごめん、変な事に付き合わせて、」
「いや、大丈夫、アミィさんって意外と優しいんだね」
「優しい?まあ、優しくはあるか」
腑に落ちない表情でオニキスが呟く。
「それに君の魔法も、落ち着かせる魔法なんて...人を傷つけずに鎮静化出来る、優しい魔法だね」
(怒らせる魔法もあるって言ったら怒るかな?)
優しく笑うタンザーにオニキスは少し罪悪感を感じてしまう。
だからだろうか、それともアミィの催眠術がまだ残っているのか。
ついついオニキスの口は緩るみ、人に言いたく無い秘密が漏れてしまう。
「そんな上等な物じゃないよ...本当は自分用に開発したやつだからね...」
「自分用?」
「黒い魔力の副作用で記憶障害が起きたって言ったでしょ?」
「うん」
「魔法を使い始めて最初の方はこんなに副作用はきつく無かったんだ....」
オニキスは遠くを懐かしむように見ている。
「魔法を使うとイライラしたり、動悸が激しくなったり、感情の麻痺や、過敏症、そのせいで家族に迷惑をかけてしまった」
オニキスは魔法陣を作り上げ、目の前でクルクルと回し、遊んでいる。
「それでこの魔法を作った...ベリルさんの力を借りてね」
「ベリルさんってあの英雄のパーティの?」
「うん」
タンザーは考え込む、ベリルのことについてか、オニキスの魔法の事が、オニキスには分からない。
「ねぇ、タンザーはもう剣が使えないんだよね?」
「あ、ああ」
「じゃあ、なんで学園に来たの?」
珍しいオニキスの真剣な目がタンザーを貫く。
「そうだね...」
タンザーが自嘲的に笑う。
「僕はもう、普通の生活には戻れない、こんな血塗られた手で、平穏な生活なんて許されない」
「そっか....剣は?もう持つ気はないの?」
「持ちたくは無いけど、いつか持たなければ行けないと思ってるよ、自分の罪から何時までも逃げてはられないから...」
オニキスは少し悩んで、手のひらの魔法陣を掲げる。
「俺の魔法なら助けになるかも......どうする?」
ーーーーーー
オニキスは魔法で剣を作り出す、出てきたのは黒く輝く半透明の剣。
それをタンザーに差し出す。
タンザーはそれを受け取ると、眉を顰める、表情は冷静を保っているが、額には汗が浮かんでいる。
そしてオニキスは彼の手を取り、魔法を発動する。
強ばっていたタンザーの体はリラックスし始める。
「大丈夫?」
「ああ、とてもいい気分だよ」
「じゃあ、教えて、君が何に苦しめられているのか」
オニキスがそう言うと、タンザーが話し始める。
まるで、教会の懺悔室のように。
「僕は...紛争地帯に駆り出された、もうこちらの勝ちが確定している戦場で、新人の訓練にはもってこいの戦場だった」
「何が辛かった?」
「人を....沢山殺した」
「人を殺すのは初めて?」
タンザーは首を横に振る。
「どうして剣を握れなくなったの?」
オニキスと結んでいる手にどんどん力が篭っていき、額には大量の汗が浮かぶ。
オニキスはその変化を見て、タンザーに掛けている魔法を更に強める。
「.....子供だったんだ!追い詰められた敵が投入したのは!自爆覚悟で襲いかかってくる子供だったんだ....」
タンザーの息はどんどん荒くなり、オニキスの手を握り潰す程強く握る。
オニキスは背中に手を回す。
「剣を握ると嫌でも思い出してしまう、撫で斬りにした時、剣を握った手に伝わってくる肉を断つ感覚と、骨を砕いた音、あれが僕の頭から離れない!」
タンザーは剣から手を放そうとするが、オニキスが上から手を添え、無理矢理握らせる。
「や、やめてくれ」
「大丈夫、君の記憶はたしかに辛いものだ、だが剣を持てない理由とはなんも関係がない、そうだろ?」
タンザーはオニキスを見て意味が分からないと言った顔をしている。
「そうだろ?」
オニキスは更に強い魔法を掛ける。
タンザーの顔から生気が抜けていく。
「ああ、そうだね、剣を握ってもこんなに落ち着いてるんだ、剣は関係ない」
「剣は君の味方だよ」
「そうか....剣が悪いんじゃない、悪いのは僕だ、ただ僕の心が弱いだけ」
「じゃあもう振れるだろ、やってみて」
「ああ」
タンザーが黒い剣を振る。
昔、剣聖と呼ばれた師匠が彼に教えた、雑念を払う事が出来る基本的な振り。
タンザーは自らを救う為、一心不乱に剣を振り始める。
暗い湖の底からもがくように、苦しそうな表情で剣を振るタンザーを見て、オニキスは満足そうな笑みを浮かべている。
もしここにメーガンがいたら、こう言っていただろう。
「壊れた人間に、人は助けられない」
パソコン壊れたァ




