3.楽しいゲームの世界
気がつけばベットの上にいた。さっきまでオニキスがいた部屋とは対照的に清潔で明るい部屋だ。
(病院に来れたっぽいな、記憶ないけど。)
起き上ろうとすると背中に激痛が走る。
オニキスが自らの体を見下ろすと、胴体と腕に包帯のようなものが巻かれていた。
(お金無いけど大丈夫かなぁ、まあ、お金がない事なんて見た目でバレてるだろうし、いざとなったらズボンとパンツ売ればいいや)
扉が開き、優しそうな女性と少女が入ってくる。
「目が覚めたみたいね、包帯取りに来たよ」
「ありがとうございます」
「火傷の方はまあなんとかなったわ」
女性が腕の包帯を外すと痛々しい火傷の跡が現れる。
(この火傷の跡........)
若葉色の少女が外した包帯を運んで行く。
「あの子見た事が、」
「ああ、君をここに連れて来てくれたんだ、私の娘なんだ、可愛いでしょ?」
女性が笑顔で尋ねてくる。
「はい、、お名前は?」
「エメリアっていうの、ちなみに私の名前はベリルだよ」
オニキスを見つめながらベリルは答える。
(いた.....いたぞ、エメリアとベリルって名前のキャラ、どこで見た?)
ベリルはその様子を注意深く観察していた。
「こちらも聞きたい事があるんだ、
何が、あったのかな?」
(ちょと考える時間が欲しいなぁ)
「....熱いネバネバをかけられました」
「...そっちじゃなくてね、体内の方」
「体内?そういえば体調は悪いですね、でもそれは魔力を大量に使ったからで....」
ベリルはため息を吐きながら答える。
「普通の人はね、ただ魔力を使っただけでここまで体内めちゃくちゃにはならないの、魔力、見せてくれる?」
(見せて、いいのか?
いっか!なんも悪い事してねぇし)
オニキスは緊張した面持ちで指先から黒い粒子を放出する。
すると、ベリルから警戒するような気配を放ち始めた。
「やっぱりか、何があった?ここに何しに来た」
真剣な目でベリルは問いかける。
(怖え、、答えを間違えたら終わりか?いや、下手な嘘ついてバレるのが1番やばいか?)
オニキスは生唾を飲み込み正直なことを話そうとする。
「何その魔力、気持ち悪る」
空中に漂う黒い光を見てエメリアが不快感溢れる声で呟く、ベリルがエメリアを睨みつけると、エメリア慌てては走って逃げていった。
「ごめんなさい、謝らせるから待ってて」
ベリルがそう言って娘を追いかけ、部屋から出ていった。
聞き覚えのある台詞にオニキスは眉を顰める
(ああ、分かった、この世界がなんのゲームか、俺が誰か
勇者が学校に通いながら魔王と戦う、、たしか名前は、『勇者伝説』だったかな?
そこに居た、全身火傷の悲劇の黒魔法使い、オニキス。 中盤に、仮想魔王として勇者と戦い魔王討伐のヒントになる重要なキャラだ...
ゲームだと顔にまで火傷を負ってたから気づかなかった)
「まじかぁ、俺敵じゃん」
「ごめんね逃げられちゃった、後で謝らせるから、、これ、食べなさい」
そう言ってベリルはスープを差し出す。
差し出されたスープを感謝しながら口につける。
(まっず!)
思わず吹き出しそうになるのを抑える、オニキスの頭を毒や自白剤の考えがよぎる、だがオニキスが思い出したベリルは根っからの善人だ。
(ただ料理が下手なだけか...)
「それで聞きたい事があるんだけど....」
(この人は魔族を恨んでる、しっかりやらなきゃ)
「はい、家のこと、ですよね...」
オニキスは可哀想な子の演技を始める。
「親は、貴族らしいんですけど、こんなダメな子供が家にいるのが見つかったら貴族じゃ無くなっちゃうらしくて....逃げようとしたらこんな事に...」
オニキスの目には涙が溜まっている。もちろん嘘泣きである。
「なんてこと....そっちだったのね...」
ベリルの顔が驚きから悲しみに染まる。上手く騙せているようでオニキスは内心安堵する。
「君はダメな子なんかじゃないよ...今この国は魔族と戦争しててね、魔族はよく黒色の魔力を使うから今は黒い魔力に対する当たりがキツいんだ....人間で黒の魔力を持つ人が珍しいっていうのもあるし...」
オニキスを疑っていた罪悪感もあるのだろう。
ベリルが悲痛に耐えるような顔でオニキスの頭を撫でる。
(よかった思った通りだ)
数分の沈黙が訪れる。
「そうですか...ありがとうございました、治療費は後でで構いませんか?」
「ちょっと待って!....しばらくここにいなさい、私が全部なんとかするから」
ベリルが決心した目で立ち上がり、何処かへ歩き出す。
(ふぅ、なんとかなったか?そうか、、この体の激痛は黒い魔力の副作用か、ここでは拾われたのは本当に幸運だ)
黒い魔力。
ゲームでは主に魔族が使っていた魔力であり、通常の魔力より強力だが、その分体にも負担がでかく、人より強靭な肉体を持つ魔族によってようやく使いこなせる魔力だ。
(きちぃなぁ、せっかく魔法がある世界に来たのに魔法使えないのかよ)
「ハードモードだ」
オニキスが少しだけ楽しそうに呟いた。