26.血戦
その化け物の大きさは10メートルを超え、細く歪んだ黒い体を持っていた。
皮膚には毛も鱗もなく、人間のようだが、明らかに人間より関節の数が多く、左右非対称でグロテスクな見た目だ。
真っ赤な目に、大きく恐ろしい口、その大きな口からは粘性のある黒い液体がダラダラと垂れている。
その口からは今も低く唸るような音が絶え間なく響いている。
そんな異形の生物に、オニキス達の体は凍りつき、動けなくなっている。
胸には黒い宝石に銀の装飾がある装飾品がハマっている。
「あれは.....魔石?!」
皆より少し冷静だったアミィが、後ずさりながら呟く。
(魔石を持つモンスター?そんなのいたか?この世界に)
「どうする?」
落ち着きを取り戻したシルバーが、パーティに意見を求める。
「逃げ道はない、やるしかねぇだろ」
が、答えられるのはオニキスだけだった。
オニキスが魔力を纏う。
化け物は魔力の光に反応し、体に魔力を纏わせる。
化け物の纏う魔力の色は、黒。
「黒い....魔力...」
アミィが驚愕に目を見開き、呟く。
オニキスは自身の持つ最速の魔法を構築する。
オニキスの周りにいくつかの黒い矢が出現し、化け物に放たれる。
同時にシルバーも、魔力で作った銀の弾丸を放つ。
化け物は飛んで来る魔法を見て、その黒い腕で掴み、口に運ぶ。
化け物は歓喜の声を上げ、口から謎の液体を撒き散らしながら魔法を食べている。
「魔法を掴んで、食べた....」
「おそらく俺の黒い魔力は奴には効かないと見ていい、遠距離の魔法も気をつけた方がいいかもしれない」
オニキスが突貫し、化け物が黒い手を伸ばす。
黒い手は形を自由に変え、オニキスを迎え撃つ。
いきなり変形した腕にオニキスは対応出来ずに吹き飛ばされた。
「オニー!」
エメリアが腰の剣を引き抜き化け物へ襲いかかる。
明らかに冷静を欠いているエメリアを見てシルバーも走る。
エメリアが化け物に走るのと同時に、壁に叩きつけられたオニキスの元へ、メーガンが走る。
「大丈夫?!」
「腕が動かない」
「分かった」
メーガンがオニキスの腕の治療を開始する。
(あれはやばい、腕1本で俺と同じくらいの強さだ)
エメリアが吹き飛ばされる様子がオニキスの目に入る。
「姉ちゃん!
腕はもういい!」
オニキスがメーガンの治療を振り払い、左手で剣を持つ。
「落ち着いて!片腕じゃ無理よ!」
メーガンがオニキスの頬を叩く。
「クソ!こうなったら脳を!」
「いいから落ち着いて!エメリアさんは一旦大丈夫だから!」
化け物は今シルバーに夢中で、エメリアに追撃する様子は無い。
シルバーは既に1段上の強化を使っているのか、その体は銀色に輝いている。
(時間が)
「オニキスさん」
遅れてアミィがやって来る。オニキスはアミィと目を合わせ...
「アミィ、メーガン....あれ...やるぞ、欲しいのは目と右腕だ」
オニキスが魔力を目に集め始める。魔力によって強化された目が赤色を帯び始める。
オニキスがもう一度化け物へ走る。
化け物の腕が伸び、裂け、多方面から同時に攻撃が来る。
(大丈夫、全部見えてる)
オニキスの強化された目が化け物の攻撃を捉える。
目に魔力を込めれば込める程、化け物の動きが遅くなる。
オニキスが化け物の攻撃を全て避け、腕を切り飛ばす。
そのまま切り飛ばした腕をキャッチし、メーガンの方へ投げる。
アミィが黒い腕を拾い、メーガンを見る。
「まさか...」
「ええ、ずっと欲しかった黒い魔力に耐えれる素材です。
設計は私がやるので少し待ってください」
エメリアを庇いながら化け物の攻撃を凌ぎ続けるシルバーを見て、メーガンは覚悟を決めたように頷いた。
アミィは空気を読んでいるのか無表情だが、その目の輝きは隠しきれていなかった。
ーー
(そろそろ目が見えなくなってきた)
オニキスは化け物にかなりの攻撃を食らわせたが、凄まじい回復力で回復してしまっている。
もちろんオニキスが切り飛ばした腕も元通りだ。
オニキスの目から血が流れる。
「ごめん、シルバー!もう少し耐えてくれ!」
オニキスは、もう役目を終えつつある目でメーガンの元へ向かう。
「できたか?」
「えぇ....」
そこには、怪しい光を纏う真っ黒な右腕と、目玉が転がっていた。
ーーー
メーガンが寝っ転がったオニキスに作った目と腕を移植する。
移植を終えオニキスが立ち上がり手をグーパーする。
「腕の調子は凄くいい、だけど、目が見えない」
「え?!そんなはずは...」
「いや、星?星が見えるぞ」
「オニキス?何言ってるの?」
オニキスが目を開くと、真っ暗な夜の世界に、多くの星が煌めいている。
彼の視野にはもう、あの化け物はもういない、エメリアも、メーガンも。
(ここはどこだ?)
「音は聞こえてる、シルバーの魔力も感じる、大丈夫、移動した訳じゃない、俺はここにいる」
オニキスがそう呟くと、星空が晴れ、徐々に視力を取り戻していく。
(目の調子は良くないな、魔力を流すと視界がおかしくなる。だけど)
オニキスは魔力を右腕に流し込む、徐々に魔力の量を上げていくと、バチバチと雷鳴の様な音を立てていく。
オニキスが魔法を使う時、よくこの様なバチバチ、といった音が鳴る。
この様な音が鳴るのは、魔力のエネルギーを全て魔法に使えていない、下手な魔法であり、この世界では未熟な魔法使いの証とされている。
だが、その未熟な轟音が、周囲に威圧感を与え、恐怖を煽る。
恐怖の音を撒き散らしながら、オニキスは高らかに笑う。
「すげぇ!いくら魔力を込めても壊れない!最高だ」
恍惚とした目でオニキスが自分の右腕を見つめる。
そんなオニキスを見て、メーガンが呟く。
「魔王...」




