16.刺激
メーガンが意を決して言う。
「シルバーと戦う前に私と戦って」
いまいちピンときていないアミィが首を傾げる。
「シルバーさんって勇者様のことですよね?
呼び捨てなんですね。同じ国出身なんでしたっけ?
仲、良いんですか?ならなんで勇者様じゃなくて、こっちに来たんですか?」
「な、なによ貴方には関係無いでしょ?!」
「そうだよアミィそんな野暮なこと聞いちゃダメだよ」
オニキスがニヤニヤしながらアミィを肘で突く。
「それで!やるの?やらないの!?」
「いいけど、聖女様って回復専門じゃなかったけ?」
「回復魔法は高難易度魔法なのよ?大体の攻撃魔法も使えるわよ」
「そっか」
オニキスとメーガンが舞台に上がる。
「ルールは?」
「防御を突破し体に傷をつけたら勝ち、大怪我を負わせたら負け」
メーガンはそう言って体から白い光を放つ魔力を放する。
よく見ると聖女の体に透明な膜が覆っている。
「貴方も早く準備しなさい」
「もう始めていいよ」
オニキスはなんの準備もせずリラックスしている。
「そう、防御の必要は無いってわけ....
なめるな!」
メーガンの体から粒子が迸り、周りに魔法陣がいくつも浮かび上がる。
一方オニキスはビー玉くらいの大きさの魔力を無数に作って辺りに漂わせている。
メーガンが今、攻撃しようと魔法を編んでいてもその行為が止まる事はない。
魔法陣が完成したのか、魔力の気配が強くなる。
そこでようやくオニキスは聖女を見た。
メーガンが手を振るうと、魔法陣が呼応して、ビームを放つ。
オニキスはそれを間一髪で避け、続いて、二つ目、三つ目のビームがオニキスを襲う。
(あっぶねぇ)
オニキスの体から黒い粒子が溢れ、スピードが上がる。
避けたビームはオニキスを追跡し、彼は回避に専念しなければならない。
「くそ!なんで?」
外から見ればオニキスの防戦一方だが、焦りの声を上げたのはメーガンだ。
四つ目、五つ目のビームが遅れて放たれる、それでもオニキスを捉える事は出来なかった。
オニキスが手を振るうと体の周りにあったビー玉サイズの魔力が放たれ。四つ目、五つ目の魔法時にぶつかり、溶け込んだ。
魔法陣に溶け込んだ毒はその制御を少しずつ狂わせていく。
聖女の魔法の動きはどんどん鈍くなっていき、ついにオニキスは歩きで回避できるほどになる。
メーガンは全ての魔法を放棄し、また新たな魔法を作り直す。
しかし、普通なら消えるはずの魔法陣が消えない。
「なんで?!」
「これ、捨てるくらいなら貰ってもいい?」
白かった魔法陣はいつの間にか黒く染まっていた。
「凄い...黒い魔力、おそらく毒のような性質を持っている」
観戦しているアミィが目を輝かせて言う。
そのまま五つのビームがメーガンに放たれた、それはオニキスに放たれたものより早く、反応も出来ずに彼女の防御膜を壊し、体にいくつかの擦り傷を負わせた。
「あれが聖女本来の魔法、あれを避けられる人は同世代にはいないな。
いつから毒を仕込んでだんだろう...
それに壊れた魔法を直す手際...彼の技術も並外れてる」
アミィが真剣な目で考え込む。
「そんなに褒めないでよ」
いつのまにか降りてきていたオニキスが答える。
「凄いね、他人の魔法を乗っ取るなんて初めて見た」
「まあ、初見殺しだよ、対策は簡単さ」
「そうですね」
(やっぱりこいつ...)
「次、俺とやらないか」
2人が振り向くと、銀色の少年が立っていた。
「そっちから話しかけてくるなんて意外だね、一応、なんでか聞いてもいい?」
「強そうだから、他意は無い」
なんでも無い様に答える勇者にオニキスは戸惑ってしまう。
「そ、そっかじゃあやろう」
オニキスは舞台へ早足で向かう。
(勇者から話しかけられるなんて予想外だ、初期の勇者は何にも興味がないみたいな感じだったのに)
舞台に立ち2人が向かい合う。
(そんな勇者が最終的には..わぁぁ思い出が、なんか凄い、やばい)
ゲームのストーリーを思い出しながら、ニヤニヤしているオニキスに勇者は不信感や嫌悪感の滲み出た顔をしている。
「あれ?聖剣は?」
勇者の手に何も握られてないのを見て、オニキスが訝しげに問いかける。
「俺だけ武器持ちなんてフェアじゃない」
「だめだよー、聖剣無しじゃ俺が勝つに決まってんじゃん」
「は?」
勇者は愕然として動きが止まる。
「わかった俺も武器持つから、聖剣持ってきてね!」
オニキスはアズール先生の元へ向かう。
その頃には他の生徒もちらほら集まり始めていた。
「先生、壊してもいい武器貸してください」
「壊してもいい武器?そんなものは無い」
「えー、訓練用のやつとか、不良品とか」
「戦時中だ、訓練用のやつも高い、壊したら弁償してもらうし、不良品なんて子供には持たせられないだろ?」
「弁償かぁ、そんなお金無いなぁ」
「俺、持ってるぜ、壊してもいい武器」
突然後ろから話しかけられる。
声の主は短い茶髪で筋骨隆々の大男だった、肌は小麦色に焼け焦げている。
(おぉーまたメインキャラだ)
「いいの?」
「ああ、あの聖剣と戦うんだろ?俺の作った剣がどこまで戦えるのか見てみたい」
その男が西洋剣を差し出す。
シンプルだがガード(柄)の真ん中に透明な石が嵌められている。
「ありがとう、クレイさん」
「おう!」
オニキスが決闘場へ上がる、すでに勇者は聖剣を持って待っていた。