14.シナリオ変更
オニキスが倒れ、襲った男は腹を踏みつける。
いくら人通りが少ない道でもここまで騒げば人が集まる。
気がつけば、かなりの人数がオニキス達を囲んでいた。
(反撃したら俺の負けか...)
「俺らは魔族もどきを倒してるだけだ!見せもんじゃねぇぞ!」
最初に話しかけてきた男が観客に言い放つ。
その声で観衆が更にざわざわし出す。
(みんなが何話してるか分かんないけど、助けてくれないってことは、そうゆうことだよな)
オニキスは前世で見た差別が題材の映画を思い出していた。
それは差別されている人が頑張って周りに認められていく、そんな話だった。
そんな記憶の中には、暴力を受けている人もいた、しかし、そのどれもが暴力に暴力で対抗している人はいなかった。
(先輩達はすげぇな、俺はこいつらを殺したくて仕方がないよ)
怒りに震える手を頭に当て、魔法を掛ける。
苛立ちはすーっとどこかへ消えた。
男が腹を踏みつけていた足を今度は顔に向かってくる。
「顔は辞めてよ」
オニキスがその足を手の平で掴んでガードした。
「ああ、そうだな顔はだめだ」
その男はまた腹を踏みつける。
オニキスに触れられぼーっとしている男にオニキスが話しかける。
「それで?なんで俺を辞めさせたいの?」
「頼まれたんだよ!」
「へぇ。誰に?」
「お前をボコして処分された試験官になぁ」
周りの仲間はようやくその男の様子がおかしい事に気づく。
「お、おい!なんでそこまで話した!」
周りのざわざわが大きくなる、この暴力が完全な私怨だとバレてしまったからだ。
それでも助けが来ることは無いが...
「分かった!学校辞めるよ、だからもう帰りな」
オニキスが踏みつけられた足をぽんぽんと叩く。
「そうだな、帰るぞ」
「はぁ?任務もまだ終わってねぇんだぞ?」
「いや、ここまで騒がれたらもう帰るしかないだろう」
おそらくリーダーの男がそう言い、オニキスを一睨みして暴力団は引き上げた。
オニキスは力なく仰向けで倒れたままだ。
観客の一人がオニキスに近づいてくる。
「俺の家族を返せ!魔族が!」
オニキスはまた腹を蹴られた...
(長くなりそうだな、少し休むか)
彼は目を閉じた。
ーーーー
オニキスが目を覚ますと空は暗くなっていた。
そばには女の子が立っている。
真珠色の髪の綺麗な女の子だ、オニキスの記憶では髪色はもっとクリーム色だったはずだ。
「聖女様...」
(見られたか、ちょっと恥ずかしいな)
「なんでやり返さなかったんですか?私より強いんですよね?」
ふふ、とオニキスは笑う。
「見てたなら助けてくれれば良かったのに」
メーガンは気まずそうに目を伏せる。
「分かってるよ、あそこまで大人数の悪意を見るのは初めてでしょ?普通の人には助けれないよ。」
「なんでやり返さないのか、だっけ?俺が手を出せば黒魔力が暴力を振るったって非難されるのが見えてたからね」
メーガンはしゃがんでオニキスに手を当てる。
その白い髪はまるで光を放っているかのようにキラキラしているが、オニキスから彼女の顔を見る事はできなかった。
彼女の光がいつの間にか暗くなった道をてらしている。
オニキスの外傷が、どんどん治っていく。
「ありがとう」
オニキスを治したメーガンは何も言わずに立ち去ってしまう。
(聖女様、思ってたより子供っぽいな、いや、子供なんだけど、、まだ俺にどうゆう態度で接せればいいのか分からないみたいだ。
まあ、感情に任せて俺を殴った観客よりはましか)
オニキスは笑って、目を閉じた。
少ししてどたどたと慌ただしい足音と共にメーガンが帰ってくる。
「嘘でしょ⁈ここで寝るの⁈」
結局、聖女に叩き起こされ家に帰った、ベリルさんに心配されたが生徒会が長引いたと適当に嘘をついて誤魔化した。
ーーーー
翌朝。
オニキスは朝食を済ませ、家を出る、エメリアも一緒だ。
「エメリア姉ちゃん、ちょっと用事あるから先行ってて」
「え?ああ、わかった」
そう言ってさっさとオニキスはどこかに行ってしまう。
エメリアは寂しそうにオニキスを見送った。
ーーーーー
用事を済ませたオニキスが教室に入る。
みんなガヤガヤしていて楽しそうだ。
(もうみんな友達できたんだ、早いな、トップクラスに優秀な奴を集めるとこうなんのかな?)
ちなみにオニキスの席の周りには不自然なほど人がいない。
「おはよう、聖女様」
「ええ、おはようごさいます」
「意外だね、聖女様はもっと人気なのかと思ってた」
「貴方のおかげよ」
「なるほどね」
周りを見渡すとエメリアを見つける、たくさんの女の子に囲まれている、いつも通りだ。
そしてもう一つ大きな人だかりができている。
中心には不機嫌そうな銀髪の正統派イケメンがいる。
勇者はああゆうのは好みじゃないらしい。
(ゲームだと最初に一番人を集めたのは聖女様だったけど...そんなに俺が怖かったのかな?)
「ええ?!エメリアさんってあの、ベリル様の娘さんなの?!」
一つ目の人だからからそんな声がオニキスに届く。
周りはザワザワとまじかよ?!みたいな反応をしている。
「ベリル様って言ったらあの、英雄って呼ばれてたパーティのか?」
(ベリルさんってやっぱ有名なんだ、あの人全然喋りたがらないんだよなー)
チャイムが鳴り皆が着席する。 そのスムーズな着席にオニキスは軽く感動する。
アズールが教室に入り、教卓に立つ。
「最初の一週間は慣らしもかねて魔法の基礎の基礎からやっていく....
例年ならな」