13.ヒーラー
オニキスが椅子から転げ落ちた。
アミィもメーガンも何が起きているのか分からず、教室には静寂が訪れる。
「取り敢えず聖女はスキャンして」
「分かった!」
残された2人が慌てて治療を始める。
そして聖女の体から白い光の粒子が溢れ出した。
人は皆それぞれ違った色の魔力を持っており、その色の系統によって得意な魔法が決まるとされている。
例えば赤系統の魔力を持つものは、炎の魔法や身体強化が、他の魔力より高い効果を発揮するとされている。(例外もある)
聖女の魔力は白、一年に一人いるかいないかくらい珍しい色らしい。
そんな白魔力は回復魔法に特化している。
聖女がオニキスに触れ、オニキスの体に魔法陣を書いた。
紫の子も真剣に触診している。
「な、なにこれ⁈」
聖女が驚愕に目を見開く。
「結果、私にも見せて」
聖女が魔力でオニキスの3Dモデルをつくる。内部までスケスケだ。
アミィは遠慮なくモデルに触れ、読影していく。
「体中がボロボロ....いろんな種類の毒に犯されているみたい...」
トーンこそ真剣だが、彼女の顔はワクワクを隠しきれていない。
「ど、どうすれば」
メーガンはパニック気味でそれに気づくことはないが。
「とにかく私の指示通りに回復魔法を」
聖女が天才の指示で治療を進めていく。
「これが黒魔力の副作用...異常ね、魔力も、この人も」
アミィが呟くが、真剣に治療しているメーガンから返事はない。
治療がある程度進むとオニキスが目を覚ます。
「だいぶ楽になったよ、ありがとう」
「まだ、治療の直せる所の一割しか終わってないよ」
「これ以上は俺の体力が持たない」
オニキスが手をグーパーさせる。
「これが聖女の回復魔法か、凄まじいな」
(やっぱり聖女は仲間にしないとだな)
「....貴方、どうやって動いてるの...」
メーガンがドン引きしている。
「うーん、秘密」
「魔法で動けるようにしてるのね」
3Dモデルを見つめているアミィが口を挟む。
その3Dモデルは先程と違い体中に穴が空いている、オニキスの魔力がメーガンの魔力を邪魔しているのだろう。
「魔法で?それはおかしいわ、貴方言ったじゃない!これは黒魔力の副作用だって!魔法を使ったら体が壊れるのに、壊れた体を魔法で動かすなんて!」
オニキスは困ったようにメーガンを見る。
「でもこうしないとずっと寝たきりになっちゃうし...」
「目は⁈貴方の目は機能を失ってる、どうやって見てるの!」
「それも魔法で...なんでそんなに怒ってるの?」
メーガンは怒りに肩を震わせている。
「寝たきりが嫌⁈貴方は寝てなきゃいけない人よ!」
「そうだね」
「貴方は三年生きられるか分からないって言ったわよね?!それどころじゃない!このままじゃ一年持つか...」
「それは困る、一年は生きなきゃいけない」
オニキスがなんでもないように答える。
その言葉は学園にくる前に、病院で修行していたメーガンには理解できない言葉だった。
これまで見てきた生きるために必死に足掻いてきた人達を侮辱しているようにも感じた。
「なんで一年なんですか?」
彼らが話している間3Dモデルを興味深げに調べてたアミィが話しかける。
「後で教えるよ、今日はもう遅いし帰ろう」
窓から刺す光はオレンジ色に変わっていた。
「また明日〜」
オニキスが急いで学園を出て行く。
(聖女を仲間にする作戦は建てたけど、アミィがちょっと邪魔だな)
靴を履き、外へ出る、エメリアはいない。
下校中オニキスはアミィの事について考えていた。
オニキスの記憶の中のアミィはヒロインの友達ポジションであまり主人公と関わりがなかった。
その為アミィに関する知識はほぼゼロだ。
(珍しい魔力に興味津々な彼女が勇者と関わりが無いのは不自然だよな...俺の体を見せたの不味かったかな)
いつのまにか周りの人通りが多くなり、オニキスは多数の不躾な視線を浴びる。
試験後のインタビューや新入生代表の件でオニキスの顔はかなり広まってしまったらしい。
(有名人の仲間入りか、悪い噂は広まるのが早いな)
オニキスは視線を避け人通りの少ない道へ進む。
しばらく進むと前から複数の男達が現れ、道を塞いだ、オニキスが足を止めるとあっという間に囲まれてしまう。
「なにか用ですか」
「ちょっとさー...学校、辞めてくれない?」
「嫌ですけど...」
「痛い目見ねえと分かんねぇみたいだなぁ」
舌打ちして答えたその男の手には、いつの間にか鈍器が握られていた。
(ただのチンピラじゃなさそうだな)
オニキス背後の男から魔力の気配を感じ取る。周りにバレたくないのか、最小限の魔力だ。
オニキスはそのまま背後からぶん殴られた。
オニキスは大きな音を立てて壁に叩きつけられる。