12.紫色の綺麗な蛇
王のいなくなった部屋で、ようやく生徒会が落ち着きを取り戻し、長方形のテーブルに七人が座る。
「まず自己紹介からしよっか」
緑色の優男が話し始める。
「僕の名前はサイアン、生徒会長だよろしく、みんなからは会長と呼ばれてる」
サイアンが隣の強気そうな女の子に目を向ける。
彼女は赤髪のウルフカットに高い身長と大きな胸が特徴のボーイッシュな女の子だ。
「俺はラセット...同じく三年生代表、ってもあんまり生徒会に顔は出さないけどな」
(俺っ子だ!容姿も性格も俺の性癖ど真ん中!生徒会に入ってよかったー)
オニキスは興奮を頑張って隠す。
「彼女は事務仕事が苦手でね、主に実務...は少し違うか?
まあ、その他雑用をやらせてるんだ」
「雑用って…まあいいや、そのおかげで部活やらせてもらってるし」
(ああ、もう生徒会辞めたい)
「私は二年生代表のシエナです。よろしくお願いします、さっきみたいな突発的な行動は控えていただけると嬉しいです」
黒髪にメガネを掛けている、クールな美人がオニキスに目を向ける。
(おー、日本人っぽい、なんか安心するね)
「すみませんでした...」
桃花色の優しそうな女の子が話し始める。
「私はコーラル、同じく二年生代表、私に出来ることだったらなんでも言ってね」
コーラルがウインクする。
(可愛い...)
オニキスが口角が上がるのを抑えるために目を逸らすと、アミィと目が合う。
(紫色の綺麗な目、王とは違う、俺の全てを見透かすような目だ。
俺がぽわぽわしてんのバレてないよね?)
少しばかりの沈黙の後、空気を読んで聖女が立ち上がる。
「聖国から来ました、メーガンといいます、よろしくお願いします」
「「よろしく」」
「オニキスです、先程はすみませんでした」
オニキスは立って頭を下げる。
「「よろしく」」
「まあ、今日はこのくらいで終わりなるんだけど、何か聞きたいこととかー...はまだないか」
会長がアミィを見る。
「僕はちょっと質問があるんだけどいい?アミィさん」
「はい」
相変わらず無表情でその紫が答える。
「君は王様と知り合いなの?」
「いいえ、結構強引にここに連れて来られました」
「そっか...なんかごめんね」
「いえ、もう大丈夫です、気に入りました」
「へぇ、どんなところが?」
「私魔力研究部に入ろうと思ってました、でもここに面白そうな魔力を持ってる人がいるので」
彼女はオニキスの方に目を向ける。
(俺かぁ、黒魔力のことは俺も調べるつもりだったし、任せてみるか?)
「なるほどね、勇者にも会ってみたかったけど、君以上の適任もいないか」
「おい、もう帰っていいか」
ラセットがイライラしている。
「ああ、すまなかったお開きにしよう」
オニキスは生徒会が終わり廊下を歩く、荷物は教室にあるのでメーガンもアミィも一緒に歩いている。
(みんなもう帰っちゃったかな)
「その指どうしたんですか、自己紹介の時にはしてませんでしたよね?」
アミィが指の包帯を指差す。
「ああ、黒魔力の副作用で取れちゃった」
「見せてください」
「え?、いやまだちゃんとくっついてないから..」
「へぇー聖女の回復魔法は凄いって聞いてましたけど、大したことないんですね」
前を歩くメーガンが振り向く。
表情の変化は少ないが怖い。
「私は何もしてません、それは彼の回復魔法です」
「結構大怪我だと思いますけど、なんで直してあげないんですか?」
「っ!それは...」
紫の瞳がメーガンを射抜く。
「ちょうどそのタイミングで王様が来たからそれどころじゃなかったんだよ、あれはまじでびっくりしたよね」
「え、ええ」
オニキスが笑いながら答え、メーガンは視線を下げる。
「じゃあ、今直してあげたらいいんじゃないですか?」
(こいつ、分かってて言ってんな、俺の為、じゃないよな)
「え、ええ、良いわよ」
メーガンがそう答えるとアミィが笑った気がした。
(なるほど、珍しい魔力って聖女も対象かよ、そりゃそうか)
「ごめんね教室戻ってからにしてくれない?」
オニキスが少し居心地の悪そうに答えた。
教室に着くとそこには誰もいなかった。
オニキスは椅子に座る。
対面にはメーガンが立っている。
「ごめんね、聖女様、お願いしてもいい?」
「なんで座ったの、別に立ったままでもいいのに」
今回のような大きな怪我の治療はスキャンと呼ばれる魔法を使う。
スキャンとは身体の状況の魔力を使って分析する、魔法版レントゲンのようなものだ。
しかし魔力を使って分析するという性質上、魔力が通っていると狂ってしまう。
レントゲンやMRIを使う時に体に金属があると歪んだり見えなくなったりするのと同じようなものである。
そのためスキャンを受ける方は、できるだけ魔力を抑えなければならない。
「じゃあ魔力抑えるね」
オニキスは自らの体にかかっているあらゆる魔法を解除する。
そのまま彼は目を瞑り、音を立て、椅子から転げ落ちた。