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異・セカイ生存圏  作者: オール・マッド
序章「吸血鬼アドルフ」
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冒涜的な美種族

様々な資料をルースラの権限で拝見させてもらったが、どうやら世界全体の技術レベル自体は産業革命直前ほどでそれなりに高度な技術を擁しているようだ。しかし、銃や火薬に関する資料が一切見つからない、というより火薬に関してはそもそも使われていないと考えるのが妥当だろう。


その理由となりそうな資料は山ほど見つかった。


「魔法と魔道具の根幹に関する研究結果…それに魔法技術の発展とその歴史か」


広辞苑より分厚く大きい百万文字は記載されているだろういくつかの論文をまとめた本が数冊。

これの内容を解読することでこの世界の文字についてもある程度理解ができた。言語の系統がゲルマン語族に近いのが幸いだったな、案外簡単に習得できたのは僥倖だった。


どうやらこの論文に書かれたことをまとめると魔法というのは本来人間が保有していい力量を大幅に上回ることが容易でき、それが文明に大きな影響を与えている。そのために火薬といった非効率的な危険物を取り扱うことはなかったと考えられる。


魔法の種類は主に火、水、木、土、風、光、闇の七つの「属性魔法」と身体強化や回復を司る「補助魔法」、そして闇から派生し、結果としてそのどれにも属さず、非常に高度で倫理を度外視した「深淵魔法」が存在するようだ。


「その魔法の威力や消費魔力量、そして人体が保有する魔力量には個人差が大きいが、それによって軍隊には魔法連隊というのが騎士部隊と同程度の兵力を有し、戦術魔法という軍事における集団で魔法の飽和攻撃を行う戦闘などが一般的か…、威力がどの程度かはわからないが近世において遠距離攻撃の飽和が発生するというのは実に面倒といって差し支えないだろう。しかし、裏を返せば魔法というのは防御も可能である、いやそういった技術が発展するべくして発展したのだろう」


この対魔法防御は魔道具や防御魔法という方法の他に「魔力吸収」という深淵魔法に属する魔法を発生させることによっても可能らしい。しかしこの「魔力吸収」というのは非常に高度な深淵魔法のわりに一般的な人間族や魔族では扱えるには扱えるがキャパシティが異常に小さく、最も初歩的な魔法「レベル1」と呼ばれる専門知識がなくとも使用可能な攻撃性の低い魔法数発でキャパシティを迎え、魔力吸収自体が魔力消費量が非常に大きいことからも魔力吸収で対魔法防御というのは現実的では無いらしい、ただ一つの種族を除いて。


「それが吸魔族(ダークエルフ)でございます。そもそも深淵魔法というのはヒューマン大協商連盟の国々からはその存在そのものが禁忌で、深淵魔法の使用はもちろん、深淵魔法に関する記述がなされた本を所有するだけで異端審問に架けられ、例外なく拷問の末に殺されると聞きます」


「それならば魔族というのは深淵魔法に対しては肯定的である気もするが、こちらの歴史書を見る限りでは深淵魔法に関しては魔族も否定的、というより深淵魔法の根絶に異常なまでの終着があるように見える」


私は広辞苑のような分厚さの論文をまとめた資料の中に埋もれた歴史書を取り出す。


【冒涜なる深淵魔法史Ⅲ】


冒涜なる深淵魔法史のⅠとⅡは人間と深淵魔法の迫害の歴史について書かれていたがⅢからは魔族による深淵魔法の迫害の歴史が書かれている。


どうやら中身を読む限りでは宗教色が強く、実際の事象と異なる可能性が高い。かなり作者の思想が反映されており、異常なまでの深淵魔法嫌いが言葉の端々から見て取れる。


「それは深淵魔法を発見した種族が原因です。なぜなら深淵魔法を発見した種族は他ならぬ吸血族(ヴァンパイア)なのですから。現在の魔王の一族、その始祖を殺した要因の吸血族が作ったものと考えれば理解していただけるかと」


「なるほどなジーク。それならばこの両種族の深淵魔法アレルギーともいえる歴史が理解できる。それにこの倫理観の欠如した深淵魔法の効果の数々もな」


深淵魔法の種類が図で分かりやすく記されたページには「死人を魔法によって蘇らせ、支配下に置く」「魂を破壊し、神による輪廻から消失によって外される」「その一切が不明だが、醜悪な見た目の不死性が特徴の神以外によって【蟲】と呼ばれる怪物の召喚」など宗教の力が強い世界では禁忌とされてしかるべき内容が記されている。


「その一部である魔力吸収が得意なのが冒涜的なる美種族吸魔族(ダークエルフ)か。森人族(エルフ)のように非常に長命で美しい見た目を持つが肌は浅黒く、眼球と髪は黒く瞳は狐のような縦長である。性格は残忍そのもので人間を喰らうこともある。更に狡猾でその美しい見た目も相まって人を欺くことに長けている…か」


確かにこれだけ見れば迫害されてい当然のようにも思えるがこれはあくまで作者の思想が色濃く反映された書物でしかない。


「得られる情報はこれくらいか…。ダークエルフについて更に知りたいのならばここでは不可能。これ以上となると…」


「ダークエルフの集落に行くしかありません、総統閣下」


ジークが再び私に話しかける。ジークは暗黒大森林の地図を広げると現在地を指さし、そこから少し北東のバツ印に指を置く。


「ここがダークエルフの集落、その最後になります。昔は他にも暗黒大森林の外縁部分にいくつかありましたが、度重なる襲撃を受けて現在では小さくまとまっております。ルースラ王女と私ジークが率いるゴブリン近衛兵隊、それから外交官を数人に使用人二十名程度の使節団を用意致しましょう。ダークエルフは狡猾で残忍な側面も持ちますが、その一方で名誉と知識、そして体裁を重視します。彼らは我々が正式な小鬼族(ゴブリン)からの外交と分かれば門前払いということはあり得ません」


ジークからの情報は間接的だったが、つまりはゴブリンのように演説では落とせない可能性が高いということを暗に示していた。


「ふむ、難しいやもしれんな。このゴブリンの集落もそれなりにカモフラージュされているとはいえ、おそらく人間族とこれまでゴブリンが接触した地点の資料を見て考えるに、ここが見つかるまでの期間は甘く見積もっても3,4か月。それまでに彼らを自由に動かせるようになりたいものだが、非常に長命な種族ならばその交渉にどれほどかかるかもわからんな」


するとジークはくすくすと笑う。


「それならばなんとかなるでしょう、彼らにとっては探求欲を満たしてくれる存在である吸血族が自身の名誉を完膚なきまでに破壊した人間族と魔族に対して復讐心を持っているのですから。ゴブリンほどではないにしても体裁を守れるきっかけがあれば動いてくれるでしょう」


それから、ダークエルフに使節団を送る旨の連絡を出し、約二十日間の準備を得てゴブリンの集落を出発した。


その途中で何度か狼型の魔物に遭遇する。


ゴブリンの近衛兵が負傷し、ジリ貧の戦いをジークが助けに入り、魔物を数匹仕留めて魔物の群れが撤退を繰り返す。


近衛兵のゴブリンは確かに戦い慣れてはいるが、そもそも種族差がかなり開いているらしく、勝てているのが本来ならば奇跡に近いらしい。負傷した兵の治療を行っている影響もあり、ジーク曰く本来五日間の道のりを現在7日目にしてようやく折り返し地点まで来た。


「しかし、ジーク。貴様中々に強いのだな、先ほどの魔物…名をブラックウルフと言ったか。奴らに唯一一対一で勝てているのは貴様くらいだ、むしろ多対一ですら勝てているではないか」


ジークは大きく息を切らしながら汗をぬぐい、こちらを振り返る。


「いえ、これまでは一対一が限界でした。おそらくは閣下の影響かと。ブラックウルフの攻撃が止まって見えるほどです。しかし、ヴラド一族とはいえ、これほどの力を持ったものは歴史上ほぼ存在しません。いったいどれだけの生命を殺し、喰らい続けたのか。それに名前が無かったのも、自身のことを知りたがったのも妙だ…」


「それらのことについてはいつかの機会にと言っただろう。しかし、この世界に来てからはそもそも人間を殺してなど…」


言いかけた時に気が付いた。そういえば、私が目を覚ましたのはドラゴンの腹の中で、ドラゴンを喰って外に出たのを。


私の現在の肉体がヴラド一族のものである以上、その特性にある殺したものの能力を自身のものにするというのがあのドラゴンに適用されたのだとしたら…


「…いや、よそう。それよりもよく危険な順路を選んだな。これまでもこの道で命がけの外交を行っていたのか?」


「まさか…大森林である以上最も危険な中央部から比べれば浅いこの周辺も安全とは言えないがここまで数日のうちにブラックウルフの襲撃に遭うことなどありえない。ブラックウルフは賢い魔物です。自分たちが勝てない相手のいる集団に襲撃を何度も繰り返すことなどありえない。それに普段はほとんど遠吠えをしないブラックウルフが最近は毎晩ずっと遠吠えを繰り返している」


生態とは反するその行動は実に不可解だな、何かしらの前兆と考えるのが妥当だろう。自然災害か、いやこの世界には魔力災害というのもあるのだったな。


魔力災害の主な種類は大きく分けて三つ。魔法の元とされる魔素が自然災害などによって一か所に許容量を超えて集合することによって勝手に結合し、行き場をなくした魔力が大爆発を起こす魔素墳出(マナ・バースト)。人間や魔族、魔物といった生命の中に存在する魔力が異常に本来の許容量を超え、自我を奪い、異常な出力で魔法を発動し、周囲を破壊し尽くし、更には体内の魔素が体を蝕む疫病「魔壊死病」をばら撒く魔力暴走(アンコントロール)。魔物が突然変異によって上位種となり、その種族を統括し、本来小規模な群れ、もしくは単体でしか動かないはずの魔物が大軍となり、周囲に存在する生命をすべて踏みつぶし、食らい尽くす死の行進(スタンピード)の三つがある。


死の行軍(スタンピード)は他二つに比べて発生率は高いものの基本は国家が大軍を以て対処すれば難なくその行軍を終わらせることができるらしいが、古代には世界を終わらせた死の行軍(スタンピード)も存在し、上位種が発生する元の魔物によってピンからキリまでの差があるそうだ。


死の行軍(スタンピード)の前兆、上位種が発生したのかという調査を行うついでに、勇者のように生命を殺害した際に経験値を得て成長することができる種族の王(ロード)の末裔であるルースラの経験値稼ぎもかねていたが、数度の襲撃によって近衛兵とはぐれたところを人間族の騎士に狙われ、そこを私が助けた。といったな」


「はいそのとおりでございます。はぐれた近衛兵はヒューマンの騎士の別働隊によって壊滅的被害を受けており、現在は再編成された近衛兵。急遽のことでしたので予備を含めても足りず、防衛戦力は減らせませんのでほぼ新兵状態のゴブリンをいくらか徴用してなんとか体裁を保っている状況です」


あの集落以外にいるゴブリンは未開の部族であり、文明的なゴブリンはあの集落にいる約数百のゴブリンが最後というのだから絶滅も近そうなもんだが、他種族も孕ませることができる繁殖力と遺伝子の強さ、約一か月ほどで成熟するといった進化によってなんとか絶滅の道を歩まずに済んでいるらしい。


やり方を選ばずに安全な環境があればゴブリンは数か月で鼠算式に増えることが可能らしい。


だがそれをやらないのはゴブリンという種族が誇り高いからなのだとジークは言う。


「しかし、このまま進んでいては近衛兵は全滅が必至だな。ジーク、全員を集めろ。二十日間の実験の成果を見せよう」


「は、はあ…。承知いたしました」


ジークは懐疑的ながらも使節団の全員を集める。


「この血液玉は普段は拳ほどのサイズに圧縮しているが、実際は体育館ほどの体積を有した血液だ。本来であれば爆発を起こしてもおかしくはないが、この身体は実に便利だ。血液玉は完全に私の制御下にあるのだからな」


私は血液玉を兵員輸送車のような形状に変化させた。


「人間であれば10人程度だが貴様らゴブリンは小さいからな。この程度でもおつりがくるだろう」


ゴブリンは感嘆し、言葉を飲み込むが、ジークはそれらのゴブリンにすぐに乗り込むように指示を出す。


「驚かないんだな、これはこの世界にはない技術を模したものだが」


「いちいち驚いていられませんよ、それにいつか本物に乗せてくれるのでしょう?その時にあっと驚いてみせましょう」


「ジーク、お前を眷属にしたのは正解だったのかもな」


周囲には聞こえないほどの声でジークと私は冗談を言い合う。


それから数十分走り続けると太い樹木を利用して作られた家々が目に止まるようになる。


「到着したようですよ、閣下!あの道のりをあの速度で駆け抜けるというのはゴブリン族では考えられません!!」


ルースラが目を輝かせながら私を見つめる。


「落ち着け、ルースラ姫。これからは気を引き締めていくのだ。一国の主としての振る舞いを身に着けるのだ」


ルースラはしゅんとなり、子供のように涙目になる。


どうやら彼女は精神はまだ未発達のようだ、もちろん生まれたころから相当な重圧があったと考えると内面の発達が遅いのは当然と言えるかもしれんが。


「さて、諸君これよりは敵地である。気を引き締めて行くぞ」

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