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異・セカイ生存圏  作者: オール・マッド
序章「吸血鬼アドルフ」
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憎悪とは最も政治利用に向いた感情である

「___個体名【】は【アドルフ・ヴラド】として登録されました。これより生体情報を認識し、能力を完全開放します」


その脳内のアナウンスが流れたとき、私は少しの満足感を得ていた。

それは自身の新たなる名前からだろうか、様々な要因が折り重なったこととは思うが、目標の第一歩というのは明るい未来を予感させてくれる。


「ヴラド陛下、私ジークは永久に陛下の手となり足となり、鉾であり盾であり続けるでしょう」


そうだった、ジークのことも様々気になるところだ。


「これまでのことを総合すると貴様は他の魔族同様に吸血族(ヴァンパイア)を恨んでいてもおかしくないように思えるが、貴様からは憎悪めいたものは何も感じぬ。その理由を聞かせてもらおう。ひとまずはこれで質問からは解放してやろう。やることがあるのでな」


「やりたいこと…ですか、いいでしょう。私は陛下の眷属でございますゆえ。質問の返答をさせていただきますと、この大森林に棲んでいる種族は吸血族(ヴァンパイア)の古い怨恨よりも我々を虐殺した人間族や排除した魔族の方がその対象にふさわしいのです。むしろ、ヴァンパイアが生きているのであれば我々の状況を打破できるのではないかと考える者まで一定数存在するほどでございます」


しかし陛下というのは何か聞きなれないな、耳がかゆくなってしまう。


「その陛下というのをやめろ、これからは私を呼ぶときは総統にすることだ。しかし、それならば都合がいいな。そこの姫を起こせ、やることがあるのでな。それが終われば外に出ている住民をすべてこの城の前に集めろ。そろそろ日も沈み始める、良い頃合いだな」


そして私はジーク、ルースラと一時間ほど話し込んで、住民が城の前まで集まり始める。


初めにルースラが民衆の前に姿を現す。


「皆さん、今日もお疲れ様です。我々ゴブリン族はすでにヒューマンに大まかな居場所を特定されており、この集落が見つかるのもそう遠い話ではありません。正に絶体絶命、ご存じのとおり先月も18人の同胞が死に、そのうちの死因でヒューマンに殺された同胞は7人でございます」


ルースラとジークを交えた会議というのは実に有益だった、このただのガキだと思っていたルースラもかなり統治者として優秀なことも確認できたため、私の前座として演説させている。


彼女の役割は現在彼らの悲哀を再確認させ、絶体絶命の状況を今現在であると錯覚させること。


実際はもう少しの余裕があるだろうが、同じ生命体であれば人間もゴブリンもそう変わらない。


「なんと…なんと嘆かわしいことでしょう!この大森林は弱肉強食、ですが彼らはこの大森林から外れた者たち。私も先日近衛兵隊長ジークと共に人間族の襲撃を受けました。このままでは我々ゴブリン族は一人残らず駆逐されてしまうでしょう」


随分と大きな身振りで感情を表現する彼女はまるで舞台役者のようだった、演説の方は及第点といったところだが彼女は悪にも染まれる、良い支配者になることは私の脳が理解した。


「ですが、我々には現在一筋の光が目の前に差しています」


ルースラは右手を挙げ、こちらへ合図を送る。


出番だ。ルースラに支配者として道を示してやろう。


私の姿が見えた時点で聴衆達はざわざわと騒ぎ始める。


私はまっすぐ先を見つめ、すべての動作を停止させる。


この行動にゴブリンは少しずつ、少しずつその雑音を減らしていく。


全ての言葉が止まり、一瞬どんよりとした静寂が私の眼前を覆い尽くす。


「私は吸血鬼アドルフ。ヴラドの一族その最後の生き残りである。ゴブリンであるそなた達は今日を生きることすら許されない、そのような状況にあることを理解している。日々人間によって殺される同胞を目にすること、さぞ辛かろう」


まずは簡単な挨拶だ、聴衆にはあらかじめサクラを数人ジークに仕込んでもらっている。


ここからゴブリンを我が手中に収めるぞ。


「この世界では暴力は絶対的な権威を有しており、諸君らはそれに従い生きてきた。しかし、この有様は虐殺と絶望が続くこの有様はなぜだ?」


「ヒューマンか…?」


「いや、魔族だろう」


「ヒューマンと魔族、彼らは確かに種族で分かれているが本質はそう変わらない彼らは諸君らの敵だ。昨日は魔界から諸君らを追い出し、今日は大森林から追い出し、次はどこまで逃げればいい?人間界か?いいや、きっとあの世まで追い詰めるだろう。やつらは常に諸君らから居場所を奪おうと常日頃考えている」


私は大きくこぶしを握り、怒りの表情を浮かべる。


「諸君らはこの世界の理不尽を一身に受けている、それが正しいと思うか?日々殺されることにおびえながら暮らすのが正しいと思うか?絶望を抱き、我が子を失う悲しみに耐え続けることを正しいと思うか?」


私は早口でまくし立てるように言葉を発し、それに伴うように身振りを大きく声量を大きくしていく。


「もし、これを正しくないと思うのなら私と共に自分たちのセカイを変えるのだ!!我々の怒りを天まで響かせるのだ!!誇りを今、取り戻すのだ!!」


聴衆は大きな雄たけびをあげ、私が手を大きく上げると同じように拳で空を掴む。


実に使いやすい、憎悪という感情は。


その後、私とジーク、ルースラの三人は城の中に戻る。ちなみにジークが私の眷属となったのはまだルースラ知らない。


「さて、ルースラ姫よ。先ほどの私の演説か、もしくは私自身に言いたいことがあるような表情だな」


するとルースラ王女は息を呑んでから真剣な眼差しで私を見つめる。


「すばらしい演説でした…。どこが、と言われるとよくわからないのですが未だにあなたがゴブリンに対して向けたあの怒りに満ちた声と鬼気迫る表情は印象に残っています」


「どこがと言われるとよくわからないか。それで良いのだ、私に支配者としての全てを学べルースラ姫。演説に必要なのは誠実さでも市民に寄り添った政策の発案でもない、わかりやすく、印象に残ることだ。細かいことは追々教えていくが姫にはこれから先ゴブリン族を私抜きでも統治できてもらわねばならんのでな」


ルースラ姫はブツブツと自信がなさげな様子だ。


「今はそれでいい、お前の前には私という支配者の模範がいる。言葉でも教えるが、基本は見て学べ」


「…承知しました。総統閣下…でよろしいんですよね。あなたについていかなければどちらにしろゴブリンは滅びの道を辿る、すべてを学ばせていただきます」


ジークとは違った好い眼を持った姫だ。利用のし甲斐があるな。

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