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異・セカイ生存圏  作者: オール・マッド
序章「吸血鬼アドルフ」
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その者、名前を

私が先程の速度で走っていたのなら数秒ほどの道程を20分ほどかけて歩くと、そこにはよくカモフラージュされた木と土で作られたゴブリンの集落があった。


「ふむ、物資も少ないだろうに。5歳児ほどの体長のゴブリンの身でよくここまでやったものだ」


「ゴブリンは鍛治技術に関しては未熟ですが数学や建築に関してはそれなりに覚えがあるんですよ、それにこの小さな体でも一般的なヒューマンと変わらない力も持っています」


正直、使い物にならない粗野な蛮族であれば集落ごと血液玉に還元してやるのも介錯として良いのではないかと考えていたが見直したな。


これならば我が帝国の出発地としてふさわしいかもしれん、それに小さな体というのは私の世界では利点になりうる。一般人と変わらない力を持っているというのも良い。


「ひとまず、我らの城はご案内します。ここは何かと人の目につく」


ジークに一際大きな砦の中、その一室に案内される。

腰布しか纏っていないとは思えないほど高度な数学技術があると考えられるその綺麗な円柱状の砦は見るものが見れば感動すら覚えるだろう。


ジークはルースラという姫を部屋にあるベッドに寝かせる。


「なるほど、貴様ら見直したぞ。どうやら利用価値が高そうで興味が湧いた」


「…長いことゴブリンとして生きてきましたが、魔族にも人族にも害獣扱いされたことしかありませんでした。貴殿は私共に価値を見出してくださる。邪悪と呼んだことを撤回させてください」


このジークと言うゴブリン、存外目だけではなく、生い立ちもかつての私に似ているのかもしれんな。


「撤回などする必要は無い。これから往く我が覇道は残虐なものに変わりはないのだからな」


「覇道…ですか。伝説の吸血族、その伝承どおりならば戦場に降り立ち、血が流れ続ける限り戦うその道は残虐そのものでございますが、貴殿は吸血鬼と呼ばれた彼らとは何か違うようにも思います」


「…先程からその伝承の吸血族というのを比較に出しているが、私はその伝承というのを知らん。詳しく教えてくれないか?」


するとジークは険しい表情を浮かべ、棚からは10センチはありそうな厚みの古書を開く。


吸血族(ヴァンパイア)は最も古い記述では2000年ほど前にその存在を記載され、不死族から派生した種族とされています。血を司る種族で、不死族同様に太陽に嫌われ、日中は弱体化しますがそれでもその凶悪さは健在です。戦場では血が流れた途端に敵も味方も巻き込み、血がそこにあり続ける限り不眠不休で戦場にある全ての命が尽きるまで一騎当千の闘いを続けるのです」


「ほう、確かにその吸血族(ヴァンパイア)というのは敵味方に強い恐怖の歴史を刻んだように見えるが、何故味方まで殺してしまうのだ?もしそういう特性があるのなら吸血族だけを戦場に送り込めば良いのではないか?」


するとジークは更に険しく、いや、私と初めて会った時のような恐怖の表情を浮かべる。


「…便利だったんです。吸血族が血を吸い取った死体は腐屍人(ゾンビ)として再利用が可能で、痛みも感じず、補給の必要もなく、四肢がもげても敵を喰らうために動き続ける腐屍人(ゾンビ)兵は史上最も残虐だと言われた第72代魔王テュポーンのお気に入りとなり、テュポーンのゾンビ好きは魔王軍のほぼ全てを腐屍人(ゾンビ)に代替する計画を立てるほどでした。サイクロプスや巨人族の屍はその体躯と魔法が効きにくいという種族特性から必ず10体は常備されていたと聞きます」


費用対効果の問題か、たしかに人間の軍隊ですら大食漢と言われているのだ、魔族というのが一体どれほど多種族なのかは知らないが確実に人間の軍隊以上により多くの補給が必要なことは想像に易い。


「ほう、しかし何故そのように権力と暴力を有したであろう存在が現在では伝承でしかその存在が語られていないのだ?」


「彼らは確かに強かった、種族としてもその地位を盤石にしていた。しかし、テュポーンの時代は新たなる魔王の台頭で簡単に終わりを迎えたんです。その魔王の名はエトナ。彼女は吸血族に支配された魔王軍を魔族の軍とするために殲滅作戦を開始します。吸血族はあまりに多くの魔族を殺していたことからたくさんの憎しみを集め、対吸血族のために共同戦線が張られたのです」


「それは…魔族全体の共同戦線か?」


するとジークは首を横に振る。古書のページをいくつかめくり、大陸の地図が描かれたページを開いた。


「魔族だけではなく、人間達も吸血族による虐殺を見逃さず、歴史上魔族と初めて手を取り、共通の敵のために戦ったのです」


しかし、それでは戦場で起こった虐殺の二の舞ではないのかと考えているとジークはもう一つ、古書を取り出した。


「魔族に魔王という切り札があるように人族にも切り札があったのです」


開かれたページには剣を掲げる鎧を身にまとった男性が描かれた宗教画であった。


「これが、【勇者】です。魔族や魔物といった者たちは生まれつき成熟したときのステータスが決定されていますが、人間も同じように天啓によって職業を決定され、それに応じたスキルが伸び、そのスキルも人間の範疇で収まるために限界が存在します」


勇者やステータス、スキルというのは共和国時代後期に流行ったとされるライトノベルに似通ったものを感じるな。


「しかし、勇者とそのパーティというのは例外です。勇者はパーティを3人まで組むことができ、彼らは生命を殺害した際に経験値を得ることができ、その成長性は異常なスピードで、上限はないといわれています。勇者とそのパーティによって数多くの吸血族は殲滅されます、魔王の吸血族排斥によって魔界にいられなくなってしまったほとんどの吸血族は不利な朝に襲撃を受け、この時点で()()()()()を除いて絶滅したといわれています」


「そのとある一族というのは?」


「ヴラド一族、最恐の吸血鬼一家であり、勇者と魔王が協力してようやく勝利を掴めたといわれています」


ヴラド一族か、少々気になるな。先ほどの話と照らし合わせればそれほど生まれつきステータスが強力だったのか。


「ヴラド一族の特異性についてお話ししましょう。彼らは吸血鬼特有の牙や眼を持っているのはもちろんですが、透き通るような白い髪が特徴で、彼らが最恐たる所以は殺したものの能力を自分のものとし、殺せば殺すほどに強くなる。彼らは他にも血を与えることで眷属を増やすことができ、眷属には自分の能力の10%を元のステータス値に上乗せし、逆に眷属のステータスの100%を自分のステータスに上乗せすることができる。つまりは軍隊をまるごと眷属にしてしまえば彼らは敵なしだったのです」


「しかし、その敵なしの彼らがなぜ負けた?それほどの力を持っているなら負けることはあり得ないように思うが」


「吸血族打倒のために魔王エトナは自らの身を捧げ、勇者の経験値となることでヴラド一族の根絶に成功したといわれています。これは現在人族、魔族両方で禁書とされている歴史の原書に書かれていることです」


勇者というのは一騎当千の化け物の王として君臨する化け物以上に強いというのは厄介だな。しかし、ヴラド一族の特徴を聞いていると私の白い髪もヴラド一族由来のものなのか?


「貴殿がヴラド一族の最後の生き残りであるというのが私の考えです。そうであると仮定し、眷属の契りを私に契約させていただけるならば、後悔はさせません」


「ほう、貴様は私の眷属として一生こき使われることを望むのか」


するとジークは私の前に跪く。


「私はすでにあの時死んでいた身、姫をお救いいただいたご恩に報いるためにこの命を貴殿に捧げます」


「___個体名【ジークフリート】との血の契約を結びますか?」


また脳内でアナウンスが流れたな、少々忘れていたなこの感覚を。

気持ち悪いが、私の出発地はここに決定している。

答えは「YES」だ。


「___個体名【】は個体名【ジークフリート】に血の契約を交わすことに同意しました。血の契約を開始します」


そのアナウンスと共に私の中に言葉が流れ込んでくる。それをすべて言葉に発すれば血の契約となる、直感的にそう感じた。


「汝、血の主従にて命を捧げるを誓い、肉の祝福にて守護者であることを誓い、骨の自罰にて善を以て苦しみとすることを誓うか?誓うのならば沈黙を持って答えよ」


ジークは沈黙を貫き、血の契約が結ばれた。


「ありがとうございます。やはり貴殿、いや我が主はヴラドの一族、その生き残りであらせられたのですね。しかし、我が主には名がないとは、随分と奇怪ですね。異世界から来た人物ですら名前があるのに」


異世界か。このセカイからみれば私の世界は異世界となるが、これまできた異世界の人間はすべて私とは違う転生方法だったと考えられる。


「名前がないと神がそれを生命として認識せず、本来の力の半分ほどになるといわれています。ご自身の名づけを今すぐするべきだと具申します」


「ほう、そのようなことがあるのか。それならば今すぐにしておいた方がよさそうだな」


しかし、私は人間の名づけなどしたことがないしな。ここは前世の名前を…


「いや、やめだ。敬愛する我が祖先の名をいただこうか」


私は椅子から立ち上がり、ジークを見下げる。





「私の名前は【アドルフ・ヴラド】。セカイを統べる者だ」

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