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異・セカイ生存圏  作者: オール・マッド
序章「吸血鬼アドルフ」
3/19

出発地

前回の2~3倍の長さになったけど許してちょでござんす。

ドラゴンを食べつつ現在の私の体についてさまざまな研究を続け、いくつかわかったことがある。

まず、私は単に若返ったのではなく、こちらの世界に来た時に受肉という形で転生したと考えるのが妥当だということだ。まず、近くにあった泉で自分の姿を確認したが、紅い眼に血が通っていないようにすら見える白い肌、透き通るような白く長い髪の毛、西洋人のように高い鼻、口の中に大きな牙がそれを物語っていた。


次に、ドラゴンを食べていると私の周囲を付きまとう直径10cmほどの赤い塊が発生した。

一時間ほど調べてみたが、これはおそらく私が食べたドラゴンの血肉を必要以上に食べたために発生した過剰な私のエネルギー源そのものだろう。


仮として血液玉とするが、これは自由自在に動かすことができ、イメージがしっかりしていれば武器であろうがなんであろうが作り出すこともできる。


傷口を作り出し、その傷口から血を吸い取る、逆に血を流し込み自由を奪いコントロール下に置くことも可能らしい。実に汎用性が高いことで助かる。


が…しかし、腹が満ちてから気づいたことが一つある。


「怠い…なんだ、この倦怠感は」


木の葉の隙間から見える空は晴天模様、そんな日に風邪というのもついていないな。


「あの自称神め…せめて健康体に受肉させろ」


いや、衛生状況がわからないドラゴンを焼きもせずにここまで貪り食っていれば当たりはするか…


それにしては腹の調子は絶好調だ。しかし、ドラゴンの血肉も限りがある、かつての自分では想像もつかないがすでに半分は平らげている。10mはありそうなドラゴンをだ。この地に降り立ってからまだ10時間もたっていないぞ。


「とりあえず、このドラゴンはすべてこの血液玉に還元するか、これで食事が必要ないのだとしたら随分と効率的だな、この体は」


ドラゴンは骨を含めてすべてを血液玉に還元し、周囲の探索を始めることにした。


「と言っても周囲は暗い森と先ほど見つけた泉くらいしか…」


周囲を見渡すと数百メートル先までまるで幽体離脱しているかのように見渡すことができることに気がついた。それに暗い森のはずがどれだけ日光が遮られている場所であっても隅々まで見渡せている。


その先には欧州の騎士を思わせる甲冑を纏った人間が三人で頭から血を流した緑色の肌をした腰布を纏っただけの醜悪な見た目の小人のような化け物とその後ろに同じく緑色の小人だが、顔はそれなりに美形の女のような化け物がいた。


「恐らくは醜悪な方は女の方を守っているのだろうが、多勢に無勢だな。戦い方を知らんらしい。しかしようやく人間が見つかった。化け物のことはどうでもいいがようやくスタート地点に建てたというところか」


人間との接触のために走り出そうと一歩踏み込むと、瞬き程度の時間で件の者達の目の前まで来てしまった。


「どうやらこの体の力加減というのは中々難しいらしいな」


すると、化け物の目線に気が付いたのか、三人の騎士がこちらを振り返る。


「貴様…何者だ?ここは大森林、一般人が立ち入ることは禁止されているはずだ。冒険者ならば証明書を提示しろ」


騎士の中で最も装飾の多い剣を持った男が近づいてくる。


しかし冒険者にこの化け物…今は亡き共和国の中期に流行したといわれているファンタジーにそっくりだな。


「すまないが、私も気がついたらここにいたんだ。酒を飲み過ぎたのか自分の名前すら覚えていなくてな。何も持っていないんだ、こんな私を町まで連れて行ってくれないか」


これは全くのデタラメだが、証拠がない以上これを疑っても仕方がないだろう、それに小さいとはいえ化け物がいるんだ。ここは勢いに任せて乗り切るしかないだろう。いざとなれば、殺せばいいだけだ。


どんな奴であろうが、私の背中で死角になっている見えない血液玉からの攻撃は防げまい、傷をつければこちらのものだしな。


「貴様…怪しいが過去にそんな事例もあったな。あの時は町の司祭だったか…」


偉そうな騎士は自分の剣を見てからもう一度私を見つめる。


「いいだろう、このゴブリンを駆除した後にお前を町まで送り届けてやろう」


すると、若そうな騎士が急に震え始め、恐怖を吐露するように声が漏れ出る。


「あぁ…思い出した!隊長、そいつは吸血族(ヴァンパイア)です!!小さいころの祖母がよく聴かせてくれたお伽噺の吸血族(ヴァンパイア)にそっくりです!ルビーのように紅い眼、雪のように青白い肌、そして獲物を狩るための大きな牙があるはずだ!」


すると偉そうな騎士は剣を構え、こちらへと襲い掛かる。


「まったく、面倒な真似をしてくれる」


私の背中にあった血液玉から放たれた三つの触手は騎士三人の首を掴み、地面や木に叩きつける。


「この偉そうな騎士は即死か、それなりに加減したつもりなんだがな。脆過ぎるな、これは」


木に叩きつけた二人の下っ端と思われる騎士は軽傷で捕らえられたことをひとまずは喜ぶべきか、一人でも生き残っていれば情報収集は可能だからな。


「さて、いくつか質問をさせてもらう、自らの寿命を全うしたければ私の質問に答えろ」


すると片方の騎士が半狂乱になりながらもがき始める。


「いやだ…死にたくない!!誰か!!たすけ」


命乞いが実に耳障りだったので首を切断して殺した。残った騎士への脅迫の意味を込めて二人の死体を血液玉へと還元する。


「私は寛大だ、もう一度言おう。いくつか質問をさせてもらう、自らの寿命を全うしたければ私の質問に答えろ」


残った騎士は私をヴァンパイアと呼んだ男だ。先ほどと違って、恐怖に染まっているが意外に冷静な男だ。私の言葉に首が折れんばかりにうなずいている。


「さて、まずここはどこだ?」


「ここは暗黒大森林です…シュタイン地下王国と魔界帝国に挟まれた広大な魔物の土地です。危険な魔物が多数生息し、大森林とは言われていますが魔族や人間が開拓できていない自然地帯全域を指しています」


「なるほどな、それでシュタイン地下王国と魔界帝国というやつについても教えろ。周囲の勢力について簡潔に答えろ」


「シュタイン地下王国は土人(ドワーフ)の王国で武勇によって王座へと君臨したドワーフが統治している国です、大協商連盟、魔族からはヒューマン大協商連盟と呼ばれている人族(ヒューマン)を筆頭に、獣亜人族(ビースト)森人族(エルフ)土人族(ドワーフ)鬼人族(オーガニア)巨人族(ジャイアント)、龍人族(ドラゴニュート)からなる対魔族共同戦線に所属している主要国で主に魔剣の生産が主な産業となります」


「その大協商連盟についてはわかった。ではその魔界帝国というのは?」


「魔界帝国は知能を持つ魔物と呼ばれている『魔族』のそのすべてが所属し、最も強力な力を持つ魔族の一族が代々その王座を世襲し、魔界に君臨する巨大国家です。魔界は魔族が定住することによって土地に沈殿した邪悪な魔力による浸食で拡大し、一般人であれば五分と持たない死の土地となるのです。大協商連盟の目的は魔界の拡大阻止と魔王の一族を皆殺しにすることによって魔族の指揮系統を破壊し、魔界を人間が住める環境へと置き換えることです」


「その人間が住める環境へと置き換えるというのがよくわからないが、まぁいいだろう。貴様は解放する、どこへでも行くがいい」


その騎士は触手から解放されるとよろけながら剣も投げ捨てて逃げ去る。


「自らの寿命を全うしたければ…か、我ながら傑作だな。それに奴も必死に逃げたところで何になるというのだ、今がその寿命が終わる瞬間だというのに」


騎士は息を切らしながら走っている、その後ろに小さな赤い塊がついていることにすら気が付かず。


「な……んで……………」


逃げた騎士は縦に両断され、両半身が自重によって壁から剥がれ落ちるかのようにして倒れる。


「死体はきっちりと血液玉に還元して…問題は貴様らだ、先ほどゴブリンと言われていたな」


唖然としていたゴブリン共は私の言葉で我を取り戻す。


(わたくし)共を助けていただき感謝いたします、ヴァンパイア様…」


これは驚いた、見た目に反して先ほどの騎士ほどの知能はあるようだ。


「別に今すぐ貴様を解体しても構わんが、少し興味が湧いたな。先ほどの騎士の態度と口ぶりから察するに貴様らは魔族なのか?」


「…現在は違います。昔は魔族と呼ばれていましたが、数十年前から他の魔族に比べて非力で保有している魔力平均も群を抜いて低い我々は他の種族に替えが利くために排斥され、魔物のように駆除されているのです………」


「貴様は随分と自分語りが好きなようだな、しかしそのような弱者が危険な魔物が多数生息しているというのはなぜだ?」


「我々ゴブリン族だけでなく魔族や人族からの排斥を受けた者たちが生き残るにはここしかないのです、高確率で凶悪な魔物に出くわしても、ここ以外では今一時を生きることすら許されないのです」


「ほう、ゴブリンだけではないと?」


「はい、我々は自衛のために魔族や亜人族から外された者たちは、種族間での争いを避けるために離れてはいますが、皆この森林で隠れて暮らしているのです」


このゴブリン、醜悪で頭の悪そうな見た目だが中々に見どころがある。目の前に広がる恐怖の奥底に確かな憎悪と渇望が潜んでいる。


まるで、小さい頃の私を見ているようだ。


それに「魔族や亜人族から外された」ということは察するに虐殺を受けたとはいえそれなりの規模と見受けられる。


「…使えるな。貴様の集落へ私を連れていけ」


その言葉で恐怖に陥っていた瞳は警戒の色を強く発する。


「連れて行って、ご自分の血肉へと変えるのですか?」


このゴブリンは私の血液玉のことを言っているのだろう、その考えはまあ出てきても不思議ではない。目の前にいるのは聖人君子ではなく先ほど三人の命を弄んだ男だ、こいつにとっては死神に見えるやもしれんな。


「…だとしたら?貴様は先ほどの騎士にすら敗北を喫していた。こちらとしては先に後ろのガキを無残に殺しても構わんのだ」


「…ヴァンパイアはやはり、滅ぶべくして滅んだ邪悪か」


私に聞こえないほどの小さな声で醜悪なゴブリンが呟いているが、今の私の耳は地獄耳だ。その言葉のすべてを聞き取れる。


「私にとってヴァンパイアという種がどうというのは関係ない。私は私だ。貴様も種族はどうあれ貴様個人であるということには変わりない。しかしな、しかし貴様と私では圧倒的な違いがある」


「…強さ、ですか。私の矮小な声すら拾うとは伝承のとおり良い耳をお持ちで」


「その通りだ。貴様のように弱いものは死に方も、生き方も、貴様個人の人生全てを選ぶことが許されない。()()()()()()()()()()()()()()()()


ゴブリンは少し諦めたような表情を浮かべる。


「承知いたしました。ご案内します、我らが集落へ」


こいつらを上手く使えばこの世界を牛耳れるかもしれん、ようやくスタート地点といったところか。


醜悪なゴブリンはいつのまにか気絶していた見た目の良い方のゴブリンを負ぶって歩き始める。


「あ、そうそう。自己紹介しておきましょう。私はゴブリン族近衛兵隊長のジークフリートでございます。こちらはゴブリン族最後の正統なるゴブリンロードの血筋を引く姫君ルースラ殿下でございます」


この子供の方は女か、まあなんとなく女性的な印象は受けるな。それにこの醜悪な方は男性であるというならゴブリンというのは性差がわかりやすくて助かるな。


「…何故このタイミングで自己紹介をしたのかがわからんな」


「私共の利用価値を提示し、少しでも長く生きながらえるための抵抗でございます」


「貴様…中々に強かだな」

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