六人の種族長官、そして総統
一石三鳥の計が成ってから約2週間後
まず私は小人族、蜥蜴族、豚鬼族の三種族の特性や文化について様々調べていた。
最初に小人族には人間族同様の職業が与えられており、トロイ殿下は自身の職業を「争いの種となってもおかしくない為に秘匿させていただく」とおっしゃられた。
しかし、これによって人間族の職業に対する対策も考えられるだろう。
また、蜥蜴族は遥か彼方に存在する龍人族とは別種の竜族の末裔であり、とある条件を達成すると職業を持たぬすべての種族は原初の種族へと返り咲き、世界を統べるために活動を始めるという神話を目にした。
また、豚鬼族にはゴブリン同様にロードという種族を統べる上位種が存在しており、現在は断絶していると…。
このロードや原初の種族への返り咲き…まあ源祖返りとでも名付けよう。その源祖返りの発生条件は全くもって不明。ロードや源祖返りはあてにできない。
さて、文化や価値観についてだが、小人族は基本的には穏やかで、手芸等手先を使う仕事が得意。目も非常に良く、種族全体で弓などの遠距離武器の扱いに長けている。人間同様の雑食で食料も一般的な男性の半分程度で事足りる。
あと、家のつくりはどこかメルヘンで私が思春期の時に見た西洋のお伽噺を思い出すな…。
蜥蜴族の実態に関してだが、基本的に漁業中心の生活をしており、肉食。鉄器を扱う文化があり、槍をメインウエポンとしている。蜥蜴族にも様々な種類がある。もっとも一般的なのは鰐皮のような皮膚を持ち、魚を主食とするもの。陸で生きることも可能で、野生動物を狩る等、味の好みで狩猟対象が変わる緑生蜥蜴族や水棲に特化して、水かきが付いており、沼地や川に多く生息しており、眼を保護していれば海水でも遊泳可能な水棲蜥蜴族。
私が気になったのはその中でも異色な変色蜥蜴族。確か私が元居た世界には存在したカメレオンだが、その名を冠していることからも大体どんな生物かは想像できる。
昆虫を好んで食し、非力だが、様々な状況で見事に適応して見せると聞いた。
すぐに利用方法を考えたがこれは後々だな。
さて、最後に豚鬼族だ。奴らは端的に言えばその恵まれた体躯と武勇、更にはゴブリンに匹敵するほどの繁殖能力と成長速度で勢力を拡大していたと聞いた。
しかし、その恵まれた体躯も鬼人族から見るとただの人間族と五十歩百歩、雑食性で大食漢だが、鬼人族ほどの活躍ができないために捨てられたとか。
ただ、現在鬼人族は人間側に寝返っており、豚鬼族を再び引き込もうとしても他種族に対して示しがつかず、魔族は苦渋を呑まされているとか。
土木工事等筋力が必要な仕事にはもってこいと言ったところだろう。
現在我が傘下の中で最も技術レベルが低いが、そこはどうにかできる範疇と言って問題ないだろう。
寿命自体は長めだが、病気や怪我が要因でバタバタと死んでいくために頭の凝り固まった痴呆がいないのも利点だろう。
しかし、これらの統治を遂行するのは人間の総統をやっていた時とは比べ物にならないほどの面倒ごとだ。
食料をそれぞれ考えねばならん上に、いずれ種族ごとの派閥が完成することも火を見るよりも明らかだ。
ただそれは後々に考えるべきかもしれないな。
「ジークはいるか」
私しかいない部屋でそう言葉を発すると私が座る机の前に跪いたジークが現れる。
暗闇など様々な場所に潜み、数百メートル音を拾える耳と姿を完全に隠匿するスキル、物陰や暗闇を瞬間的に移動するスキルを身につけたと言っていたが、それからというものどこかしらで呼べばこうやって姿を現すようになった。
「ここにおります、総統閣下」
「先ほど選出して伝えた六人を連れてこい」
「畏まりました」
正直人間の統治であれば私が最も長けていても、他種族であれば無知に近い。鍵は鍵屋だ。書類でしか知らない私のような者よりも適任は他にいる。
一時間ほど経った頃、私の正面の扉からノックが聞こえる。
「ジークでございます。おっしゃられた六名をお連れいたしました」
「そうか、では入れ」
ジークが連れてきたのはルースラ、シズ、ガング、トロイ、ブーリャの長男坊ムドレーツ、ダズベッヒの六名だ。
「立ったままで構わない、挨拶も不要だ。まずは、このそれぞれ環境の変化から発生する不満の解消の尽力ご苦労だった。さて、諸君らを呼びつけたのは他でもない」
私は立ち上がり、暗黒大森林とその周辺を描いた地図に視線を誘導する。
「現在私の傘下として団結した諸君、その行く先についてだ。既に最終目標は決定している、その目標に向かって邁進するために我が手足となり、全身全霊で働けば種族の恒久的な繁栄を約束しよう」
「閣下、しかしそれには人間族と魔族、その両方を味方につけねばならないのではないでしょうか」
「…シズ、たしかにそれは一般論から考えると最も効率が良い手段と言ってよいだろう。しかしな、それは日和見主義、弱者の発想だ。我々が目指すべき目標、セカイについてを発表しよう」
私は暗黒大森林周辺地図思い切り破いて見せる。そして私はこの世界全体の地図を取り出して窓に血液を使って貼り付ける。
「この世界を手中に収めることだ。恒久的な繁栄というのは巨大な他勢力があって成り立つことはあり得ない。すべてを手に入れなければならんのだ」
古い世界地図に点在する虫食い痕から差し込む光は私を包む。
「…なんと神々しい。まるで神か、悪魔のようなお方だ」
トロイは小さな声で呟いたのを私の耳は聞き逃さなかった。
「そこで、今集まってもらった六名にはそれぞれの種族を束ねる我が直臣となっていただきたい。私の要請を完璧に遂行するための長として、諸君らを種族長官として任命したい。小鬼族ロードの末裔、王女ルースラ。吸魔族ヴラドの臣下、当代族長深淵のシズ。土人族ゴブリンと称された土人の統率者、ゲオルグ・プライド傭兵団団長ガング。小人族、小人族王室唯一の生き残りトロイ・クライン。蜥蜴族、私に一杯食わせた男ブーリャの長男坊、次代酋長ムドレーツ。豚鬼族、時世を読み、血を流すことなく我が軍門に下った異色の豚鬼、現頭領ダズベッヒ」
「諸君らが種族を束ね、私に忠誠を捧げることができるのなら、今ここで誓うのだ」
最も早く私に跪いたのはほぼ同時にシズとトロイの二人
「我らは閣下に絶対なる忠誠を誓います」
シズとトロイは全く同じ文言をほぼ同時に発していた。
それに遅れる形で、ルースラ、ガング、ダズベッヒの順で跪く。
「恐れながら、私はまだハーフリングとの抗争の段階では全面戦争にて閣下と争うのが得策と考えておりました。しかし、閣下を初めて目の当たりにして、そして今、再び閣下の眼を見たとき、それは誤りであったことを思い知らされました。閣下はこの小さな大森林などという器の先、小さな池から大海を目指しておられる。父は負けるべくして負けた、もはやここに至れば是非もないでしょう」
ムドレーツはゆっくりと跪く。
「我が絶対なる忠誠を、閣下に捧げさせていただきます」
「諸君、大儀である。これよりは諸君らが種族の最高権力者だ。そして、私はこの六種族を始まりとして、世界を統べるための国家の樹立を宣言したい!!」




